台湾「土地譲渡益課税の変遷」

本稿では台湾の不動産譲渡所得に対する課税制度の変遷を踏まえ、現在の課税制度について解説します。

本稿では台湾の不動産譲渡所得に対する課税制度の変遷を踏まえ、現在の課税制度について解説します。

台湾は、日本のような不動産バブル崩壊が発生しなかったことから、ほぼ一貫して不動産価格の高騰が続いています。その要因はいくつか考えられますが、不動産の譲渡所得に対する課税制度もその一因といわれています。日本企業による台湾子会社設立は、古くは1960年代から始まりました。当時、土地を取得していた場合、現在の含み益は相当膨らんでいると考えられ、その土地の譲渡においては大きな利益の計上が想定されます。そのため、土地譲渡所得に対する課税制度の理解が重要となります。また、土地の直接譲渡のみならず、グループ組織再編による株主の移動においても、台湾の課税制度の影響を受けることがあります。

本稿では台湾の不動産譲渡所得に対する課税制度の変遷を踏まえ、現在の課税制度について解説します。なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

Point

  • 2015年12月31日以前取得の土地の譲渡益は、法人税計算上免税所得となる。一方で土地増値税が、取得時と売却時の土地の公告現在価値の差額に対して20~40%の税率で課税される。土地の公告現在価値は実勢価格より低く、結果として税額も低く抑えられている。
  • 2016年1月1日以降取得の土地の譲渡益は建物・土地合一課税制度により、その保有期間に基づき15~45%の税率で課税される。
  • 建物・土地合一課税は、一定の不動産化体株式に対しても適用される。実際の株式譲渡以外においても、グループ組織再編による株主の移動もみなし譲渡として課税を受ける可能性がある。ただし、台湾国内法で課税となっても、日台租税協定による譲渡所得免税を受けられるケースもある。
  • 台湾の法人税率は20%だが、土地譲渡益免税により台湾子会社の実効税率が15%を下回る可能性がある。その際に日本親会社においてグローバル・ミニマム課税の所得合算ルール(IIR)による追加課税を受ける可能性がある。

土地譲渡益課税の変遷

台湾での不動産譲渡益課税の変遷においては、土地譲渡益免税の時代からの奢侈(ぜいたく)税の施行期、2016年1月1日からの建物・土地合一課税の施行および同法の改正という流れがあります。現在でも大きく影響が残っているのが、土地の取得時期が2016年1月1日以降か否かという点です。

以下において、その取得時期別に土地譲渡益課税の制度を説明するとともに、関連する議題として不動産化体株式への課税とみなし株式譲渡、日台租税協定との関係を説明します。

1. 2015年12月31日以前取得土地の譲渡益課税

(1) 土地譲渡益免税

台湾の所得税法はそのなかで営利事業所得税(以下、「法人税」という)と総合所得税(いわゆる個人所得税。以下、「所得税」という)を定めています。法人税および所得税ともに2015年12月31日以前取得の土地の譲渡益は免税とされています。

一方、建物の譲渡益に関しては法人税および所得税ともに課税対象になります。法人税の税率は20%、所得税は累進税率5~40%での課税です。ただし、建物・土地の一括譲渡においては、納税者が譲渡益が免税となる土地価格の割合を増やすことで、実質的に課税基準を下げる取引がよく見受けられます。

(2) 土地増値税

土地譲渡益が免税となる一方で、土地の譲渡には土地増値税が課されます。土地増値税は実際の譲渡益に対するものではなく、取得時と売却時の土地の公告現在価値(中国語では「公告土地現値」という)の差額に対して、その保有期間および増値率に応じた20~40%の税率によって課税されます。土地の公告現在価値は一般的に実勢価格よりも低いため、結果的に税額が抑えられています。

(3) 奢侈(ぜいたく)税

不動産価格の高騰を抑えることを目的に、2011年6月1日より、短期(2年以内)保有の建物・土地の譲渡に対して、その譲渡価格の15%( 1年内)または10%(1年以上2年以内)を課す奢侈税が導入されました。しかし、所有期間が2年を超えれば課税対象にならないこともあり、当該税制の導入によって不動産価格の高騰は抑えられませんでした。そのため、建物・土地の短期譲渡に対する奢侈税は次の建物・土地合一課税の施行に合わせて、停止されることになりました(2015年12月31日以前取得の建物・土地譲渡に対する課税の整理は図表1参照)。

図表1 2015年12月31日以前取得建物・土地の譲渡に対する課税

  所得税・法人税 土地増値税 奢侈(ぜいたく)税(2011年6月~2015年12月31日の期間のみ施行)
土地 免税 免税取得時と売却時の土地の公告現在価値の差額に対して、その保有期間および増値率に応じて課税される(税率20%~40%)。土地増値税は建物・土地合一課税施行後も継続されている。土地増値税対象の土地の公告現在価値の差額は、建物・土地合一課税の計算から控除される。 保有2年以内の建物・土地の譲渡に対して、譲渡価格を課税標準に課される(税率10%~15%)。現在は課税が停止されている。
建物 個人:所得税
(税率5%~40%)
法人:法人税
(税率20%)

出所:KPMGジャパン作成

2. 2016 年1月1日以降取得土地の譲渡益課税

(1) 建物・土地合一課税の導入

継続する不動産価格高騰への対策として所得税法が改正され、2016年1月1日より、同日以降取得の建物・土地に対する建物・土地合一課税が導入されました。これにより、従前免税とされていた土地譲渡益が建物の譲渡益とともに課税対象になり、土地と建物の譲渡価格の割合を調整することによる実質的な課税基準の引下げもできなくなりました。

なお、土地増値税は継続される一方、建物・土地の短期譲渡に対する奢侈税は停止されました。建物・土地合一課税の課税標準は、建物・土地の譲渡価格から取得原価、譲渡費用および土地増値税対象の公告現在価値の増値分を控除して計算します。これにより、土地増値税と建物・土地合一課税の二重課税が排除されています。

当税制制定時の税率は個人の場合は保有期間に応じた45~15%(非居住者個人は45~35%)、法人の場合は20%( 外国法人は45~35%)でした。なお、同法施行前(2015年12月31日以前)に取得の土地の譲渡に対しては従前のとおり譲渡益が免税で、土地増値税のみが課税されます。

(2) 建物・土地合一課税2.0

不動産価格高騰へのさらなる対策として、建物・土地合一課税2.0が2021年7月1日より導入されました。この改正では、20%とされていた国内法人に対する税率を最高で45%へ引上げたほか、全体的な税率の見直しが行われました( 改正前後の税率は図表2参照)。

図表2 2016年1月1日以降取得土地の譲渡に対する建物・土地合一課税の税率

  台湾居住者個人 国内法人 外国法人および台湾非居住者個人 外国法人および台湾非居住者個人
保有期間\譲渡時期 2016.1.1~2021.6.30
2021.7.1~建物・土地合一課税2.0 2016.1.1~2021.6.30 2021.7.1~建物・土地合一課税2.0 2016.1.1~2021.6.30 2021.7.1~建物・土地合一課税2.0
1年以内 45% 45% 20% 45% 45% 45%
1年超過2年以内 35% 35%
2年超過5年以内 20% 35% 35% 35%
5年超過10年以内 20% 20%
10年超過 15% 15%

出所:KPMGジャパン作成

また、当該改正による重要な点として、次の2つの課税範囲の追加があります。

i )完成前建物・土地の譲渡

台湾では完成前のマンションの購入権利の売買が認められ、その権利の譲渡益が当該税制の範囲外とされていました。それが当該税制の穴と考えられていたため、同改正により完成前建物・土地の譲渡が同制度の範囲に追加されました。

ii)不動産化体株式の譲渡

建物・土地の譲渡益課税を避けるため、建物・土地を法人に所有させ、その法人の株式譲渡の形態をとることによる租税回避を防止するため、次の条件に当てはまる株式(いわゆる不動産化体株式)の譲渡を同制度の対象にしました(上場会社株式を除く)。

ⅲ)法人持分の50%超を保有

法人持分の価値の50%以上が台湾内の建物・土地で構成される。

3. 株式譲渡益課税との関連

(1) 台湾の株式譲渡益課税制度

台湾における株式の譲渡益に対する課税方法は、その法人が銀行の認証を受けた株券を発行しているか否かにより異なります。

i )株券を発行している場合

株券を発行している台湾法人の株式の譲渡は証券取引とされます。台湾では現在、証券取引の譲渡益は免税とされる一方、証券譲渡額に対する0.3%の証券取引税が課されます。証券取引税は売主負担で、買主が譲渡価格から控除することにより納付します。したがって、売主は譲渡価格の99.7%の対価を受け取ります。

ii )株券を発行していない場合

株券を発行していない台湾法人の株式(または出資金)の譲渡は財産取引とされ、法人税および所得税の課税対象になります。売主が譲渡価格から株式( または出資金)の取得価格を差引いた譲渡益に対して法人税率、所得税率を乗じた税額を申告納付します。売主が非居住者の場合の税率は20%になります。

(2) 不動産化体株式への建物・土地合一課税と株式譲渡益課税との関係

建物・土地合一課税2.0における課税範囲の拡大で、一定の不動産化体株式の譲渡が課税対象になりました。この課税は、上記の株式譲渡益課税に優先して適用されます。

i )株券を発行している場合

株券を発行している台湾法人の不動産化体株式の譲渡は、証券取引税が課税されます。その上で、その譲渡益が証券取引所得ではなく、建物・土地の取引所得とみなされ、建物・土地合一課税が課されます。建物・土地合一課税の計算においては、譲渡益から証券取引税を控除した額が課税標準となります。

ii )株券を発行していない場合

株券を発行していない一定の台湾法人の不動産化体株式( または出資金)の譲渡益は、財産取引所得ではなく建物・土地の取引所得とみなされ、建物・土地合一課税による申告納税が必要になります。

(3) 不動産化体株式への建物・土地合一課税における保有期間の算定

建物・土地合一課税は、建物・土地の保有期間によって適用される税率が異なります。不動産化体株式に対する建物・土地合一課税の適用における保有期間は、当該法人による建物・土地の取得時期ではなく、株主による当該株式の取得時期によって算定します。

また、法人による建物・土地の取得が2015年12月31日以前であっても、株主によるその株式の売却時期が2021年7月1日以降であれば、他の条件を満たした時に建物・土地合一課税の適用対象となる点に注意が必要です。

4. 日台租税協定における取扱い

日本と台湾間には「所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための公益財団法人交流協会と亜東関係協会との取決め」( 以下、「日台租税協定」という)が2015年に締結され、2017年1月1日に発効されました。

(1) 不動産の譲渡益
日台租税協定第13条第1項において、日本居住者の台湾に所在する不動産の譲渡益に対して、台湾で課税することができるとされています。

( 2) 株式の譲渡益
日台租税協定第13条第5項において、日本居住者の台湾所在不動産の譲渡益、不動産化体株式等以外の譲渡所得に対しては、日本でのみ課税できるとされています。すなわち、日台租税協定においては、通常の台湾株式の譲渡益は台湾で課税を受けません。

(3) 不動産化体株式の譲渡収益
日台租税協定第13条第4項において、日本居住者による、資産価値の50%以上が台湾に存在する不動産である台湾法人の株式( または持分)の譲渡益は台湾で課税できるとされています。

(4) 不動産化体株式の定義の違い
一定の不動産化体株式の譲渡益が台湾の建物・土地合一課税において課税対象となっているので、日台租税協定での課税取扱いと一見全く同様であるように見えます。しかしながら、建物・土地合一課税と日台租税協定における不動産化体株式の定義(「50%以上」の計算式)に差異があります。

i)建物・土地合一課税
分子:台湾内不動産の時価
分母:法人の持分または出資額の価値
すなわち分母が純資産の概念です。

ii)日台租税協定
分子:台湾内不動産の時価
分母:総資産の帳簿価値
すなわち分母が総資産の概念です。

この分母の違いにより、取扱いに差が生じます。当然総資産の方が大きいため、建物・土地合一課税においては課税となる不動産化体株式の譲渡について、日台租税協定の譲渡益の規定を適用して、台湾で免税となるケースもあります。なお、通常の株式の譲渡益の免税も含め、台湾で日台租税協定適用による免税を受けるためには、台湾の税務当局に申請が必要な点に留意が必要です。

5. みなし株式譲渡

株式の直接の譲渡以外でも、台湾で株式譲渡とみなされる状況があります。主として株主法人の組織再編等による株主の移動です。次のような例があります。

i )日本親会社における事業譲渡および分割

日本親会社が組織再編のため、台湾法人を保有する事業部をスピンオフし、他法人に事業譲渡する場合や分割して新会社とする場合。

ii )日本親会社の吸収合併

日本親会社が他法人に吸収合併され、台湾法人の親会社が変動する場合( 会社消滅段階の課税理論に基づく場合)。

これらの株主の移動において、台湾法人の保有する土地の含み益が大きい場合に、台湾での建物・土地合一課税の要否および日台租税協定適用による譲渡所得免税の適用の可否等の検討が必要になります。親会社側で台湾株式譲渡の認識がない可能性もありますので、ご留意ください。

6. 日本のグローバル・ミニマム課税との 関係

台湾の法人税率は2 0%です。しかし、台湾子会社に2015年12月31日以前取得の土地の譲渡がある場合、土地増値税の課税を受けるものの、譲渡益課税を受けないため、台湾子会社の実効税率が15%を下回る可能性があります。

一方、日本では2024年4月1日以降に開始する会計年度より、グローバル・ミニマム課税が開始されています。そのため、台湾子会社による土地譲渡により、日本親会社において所得合算ルール( IIR )に基づく課税を受ける可能性があります。

執筆者

KPMG台湾
日本業務組
友野 浩司/パートナー

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