AI活用の最前線

あずさ監査法人では、AIを含むデジタル技術の開発と実用化に取り組んでいる。現状は被監査会社のすべての取引を分析してリスク判定を行うツールのほか、有価証券報告書等のドラフトを自動チェックするツール等の活用が進んでいる。

あずさ監査法人では、AIを含むデジタル技術の開発と実用化に取り組んでいる。現状は被監査会社のすべての取引を分析してリスク判定を行うツールのほか、有価証券報告書等のドラフトを自動チェ

本稿は、『経営財務』No.3695 (2025年03月17日)に掲載したものです。発行元である税務研究会の許可を得て、あずさ監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。

AIを含むデジタル技術の開発と実用化に取り組むあずさ監査法人を取材し、実務への影響と活用状況等を聞いた。被監査会社の全ての取引を分析してリスク判定を行うツールのほか、有価証券報告書等のドラフトを自動チェックするツール等の活用が進んでいる。

AI等を駆使して不正·誤謬リスクを早期検知

あずさ監査法人では、目指すデジタル監査の姿として、「データのリアルタイムな授受」、「AIシステムによる高度なデータ分析」、「財務データのみでなく非財務データの活用」、「データ分析者の活用」、「テクノロジーの進化に伴う効率化(生成AI、ドローン等)」等の目標を掲げている。

AIを含むデジタル技術等を駆使して監査を変革することは、監査全体を高度化·効率化・見える化するという考え方だ。具体的には、「不正·誤謬リスクの早期検知」、「グループ会社監査人との連携強化」、「ルーティンワークの自動化·集中化」などの効果が想定されている。

会社側にも監査対応負荷軽減等のメリットが

現在、あずさ監査法人が活用している主なAI関連ツール等は、次頁図表の通りである。

このうち、[AI Transaction Scoring(AITS)]は、被監査会社における仕訳等の会計データ内の全ての取引を対象に、データ分析·統計モデルの技法や機械学習を組み合わせて多角的な分析を実施し、リスク判定を行うツールだ。従来行っていた試査とは異なり、全取引のリスクレベルを判定できること等が強みとなる。

AITSの判定により、重要な通例でない取引や高リスク取引を特定することで、監査対象を絞り込み、それらに対する監査を強化する。実際、証憑突合件数の減少など、大幅な効率化に成功した事例もあるという。

被監査会社には、AIの活用による高品質な監査を受けること、全データをAITSが判定すると等による安心感が得られるほか、「監査対負荷の軽減につながる」等のメリットもある。

導入初年度であった前年度はトライアル目的活用されていたが、今年度は多くのエンゲージメントで監査証拠としての活用を見込んでいる。

AI活用によって開示チェック業務を早期化

AIツールには、あずさ監査法人が所属するグローバルネットワーク「KPMG」で共通するものもあるが、日本企業の実状に対応するために、日本独自で開発したツールも多い。

そのひとつが、「Disclosure Workspace」だ。有価証券報告書等の開示書類における数値の合計計算や内部整合性などを生成AIの技術も使って自動チェックすることのできるツールである。

従来の実務では、被監査会社から有価証券報告書等のドラフトを入手する都度、監査チームが勘定科目名、金額、計算チェック等をマニュアルで実施していた。「Disclosure Workspace」の導入後は、このチェック作業の効率性と精度が劇的に進化した。

具体的には、有価証券報告書等を「Disclosure Workspace」にアップロードして自動的にチェックを実施することが可能となった。計算チェックのみならず、財務諸表と注記の整合性チェックや、前期ドラフトとの比較なども自動で行うことができる。計算書類、半期報告書、四半期決算短信等にも対応している。

チェックを受ける被監査会社にとっては、監査法人とドラフトを適宜共有することによって、修正依頼や確認のやり取りを効率化することができる。結果として、「自動化による開示チェック業務早期化」、「チェック結果の共有までの短期化」、「単純な計算ミスや内部不整合等、人的ミスの抑制」、「誤送信等のセキュリティリスク回避」等のメリットが報告されている。

経理DXには三様監査の連携がさらに重要に

AIツール等による監査のDX化とデータドリブン経営を目指す企業の経理DXとの親和性は非常に高い。このため、ツール対応の結果として、経理のDX化が後押しされる効果もある。また、経理のDX化に際しては、「内部監査部門、監査役との三様監査の連携もより重要になってくる」ため、監査法人を含めた三者間での協議も増えているそうだ。

 

ツール 主な機能 效果
KaizanCheckBot_ai 画像処理情報、プロパティ情報を活用することにより、PDFや画像における改ざんの兆候検知をサポート
  • 監査関与先から提供された根拠証憑の改ざんの痕跡を検知(改ざん検出実績あり)
  • 全社展開済み
Fraud Risk Scoring_ai2.0 過去の不正事例を機械学習し、対象財務諸表における不正発生のリスクを評価するモデル
  • リスク評価手続の高度化
  • リスクが高いと判定した要因の指標を提示
  • 全社展開済み
  • 人の目では検出が難しい、過去の不正事例との傾向類似度を判定する機能も開発
AI Transaction Scoring(AITS) データ内の全ての取引を対象に多角的な分析を実施し、リスク判定を行う
  • 従来の試査とは異なり、母集団の全取引のリスクレベルを判定し、高·中リスクのアイテムに対する監查を強化
  • 監査対象の絞り込みによる高度化·効率化に貢献
  • 導入2年目の2025年6月期は大幅展開拡大
DisclosureBot_ai/Disclosure Workspace 有価証券報告書等の開示書類における数値の合計計算や内部整合性を自動チェックし、不整合部分についてアラート、バージョン管理もサポート
  • エンゲージメント共通·定型作業である開示ドラフトの数値チェックの自動化
  • 開示規則の順守状況チェックや発見事項の管理効率化
  • すでに実務に定着し、ほぼ全上場エンゲージメントで使用
AZSA Isaac/Chat KOMEI

AZSA Isaac:膨大な公開情報を学習し、リサーチ·要約·文書ドラフト·ブレスト等を行う

Chat KOMEI:KPMG内部のナレッジを追加的に学習し、会計·監査に特化した回答を生成

  • あずさ内部のみ利用できるクローズドでセキュアな環境で生成AIの利点を活用
  • 会計専門用語を使った場合でも理解し、会計士が求める内容の回答を返す
  • 導入初年度の2024年6月期から活発に利用され、ユースケースも拡大している
Clara AI Chat 生成AIを活用したチャット型QAシステム。情報の要約、リサーチ、コーチング等を行う
  • 監査プラットフォーム内で稼働し、監査品質を担保しながら効率性も向上
  • 2025年3月以降導入順次拡大

お問合せ

関連リンク