デジタル社会におけるデータは知恵・価値・競争力の源泉とされ、国家レベルでも企業レベルでもデータは重要視されており、データ活用が進んでいる企業ほどDXの成果が出やすい傾向にあります。

本稿では、企業が陥りやすいデータ活用時の課題を整理したうえで、データ活用によるビジネスモデル変革を成功に導くための戦略の推進方法を解説します。

1.企業を取り巻くDXの環境

昨今、デジタル社会におけるデータは知恵・価値・競争力の源泉とされています。この背景にはデジタル化の急速な進展や通信インフラの高度化によるデータ量の莫大な増加があり、国も基盤構築や体制・ルールを整備し、強力にデータ活用の取組み(ガバメントクラウド、DATA-EX、MaaSなど)を推進しています。同様に、企業においても急速なビジネス環境の変化に迅速に対応するため、DXの推進、具体的には、デジタルデータを活用したオペレーションモデルやビジネスモデルの変革が急務となっています。

DXを推進するには3つの段階があり、デジタイゼーション、デジタライゼーション、デジタルトランスフォーメーションの順で進めていくのが一般的です。デジタイゼーションやデジタライゼーションは比較的企業が取り組みやすい一方、デジタルトランスフォーメーションの段階では成果がまだまだ十分出ていません。そうしたなか、デジタルトランスフォーメーションにおいて成果を上げている企業は、データ活用を重要視している傾向にあります。

【DXの取組み段階】

1.デジタイゼーション(Digitization):アナログ・物理データのデジタルデータ化
2.デジタライゼーション(Digitalization):個別の業務・製造プロセスのデジタル化
3.デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation):組織全体の業務・製造プロセスのデジタル化、顧客起点の価値創出のための事業やビジネスモデルの変革 など

2.データ活用における、陥りやすい4つの課題

データ活用を推進する際に企業が陥りやすい4つの課題を考察します。

【データ活用における、陥りやすい4つの課題】

データ活用によるビジネスモデル変革を成功に導くための戦略の推進_図表1

第1に、手段が目的化してしまうことです。データを収集/蓄積し分析することは、あくまで手段であるにもかかわらず、手段そのものを目的化し、本来あるべき活用の目的を見失ってしまう場合があります。

第2に、データプラットフォームの乱立があります。事業部門や部署ごとに独自要件で開発を進め、データプラットフォームを構築することが原因です。また、新規事業の立上げやM&Aを進める過程で、個別に運用していたデータプラットフォームを統合せずに残すことや、緊急度の高いデータ分析・レポート作成の要求に対応するため、新たなデータプラットフォームを短期的に構築することも一因となっています。

第3に、データ活用を推進する人材不足があります。企業間のDX人材獲得の競争が激化し、データ活用を推進する組織体制や人材が確保できず、推進できない場合があります。

第4に、データ活用に関する方針が定まっていないことがあります。組織におけるデータ活用のポリシーやガイドラインが定まっていない、もしくはデータセキュリティの漏洩などを危惧して活用が進まないことも要因の1つです。

3.データ戦略立案とメタデータ管理

手段が目的化することを回避するためには、データ戦略立案時において、データ活用の目的を明確化し、企業経営に直結させることが重要となります。具体的には、売上増加、コスト削減もしくはSDGsなど、企業価値向上に資するKGI(Key Goal Indicators)、KSF(Key Success Factors)、KPI(Key Performance Indicators)およびアクションプランと、データ活用の取組みを紐付けることが挙げられます。これにより、現場活動の加速や企業のデータ戦略・戦術への落とし込みが、的確に評価可能となります。

また、データプラットフォームの乱立に対して、各部門や部署ごとの要件を調整し、統合的に管理するあり方を模索する必要があります。具体的には、(1)乱立したデータプラットフォームを廃止し1つに統合する(2)既存環境は変更せずに新たな統合データベース上で仮想的にデータプラットフォームを1つに見せる、などがあります。ただし、データ統合するうえでの本質的な課題として、データ項目間の矛盾や重複が発生しやすいため、まずはデータの品質評価から実施しなければなりません。

そこで近年、メタデータ管理が注目されています。メタデータとは、「データ自体のことを説明するためのデータ」のことであり、たとえば、ペットボトルでいえばラベルの「品名」「原材料名」「内容量」「賞味期限」「販売者」などが該当します。ユーザーはラベルを見てペットボトルの中身を判断しますが、ラベルが剥がれてしまうと何が入っているのかわかりません。

メタデータ管理は、データ品質の評価を可能とし、データ活用の促進や精度向上に貢献します。また、副次的な効果として、システム側の仕様変更や障害の影響調査の効率化なども得ることができます。

メタデータの種類は、ビジネスメタデータ、テクニカルメタデータ、およびオペレーショナルメタデータに分類されます。

ビジネスメタデータとは、業務観点からデータを説明するメタデータであり、主にデータの内容と状態に重点を置き、データの意味、業務ルール、データの利用方法などを含みます。次に、テクニカルメタデータとは、システム観点からデータの技術的な詳細を説明するメタデータであり、データの構造、フォーマット、保存場所、アクセス権などを含みます。最後に、オペレーショナルメタデータとは、運用観点からデータの処理やアクセスの詳細を表し、データの更新履歴、実行やエラーのログ、パフォーマンス指標などを含みます。

特に多くのユーザーが利用するビジネスメタデータの整備が、データ活用の促進や精度向上には重要となります。テクニカルメタデータにビジネスメタデータを紐付けることで、ペットボトルのラベルのように、ユーザーがデータの存在や業務に関する意味合いを把握することができます。結果として、メタデータ管理がデータ活用を促進し、デジタルトランスフォーメーションを成功につなげる端緒となります。

4.リテールメディアやデータマネタイゼーションの取組み

データ活用が進んでいる例として、小売企業を挙げます。店舗やECサイトからのID-POSデータ(顧客ID付き購買データ)および顧客データを活用した広告配信や、第三者(メーカー・卸業者などの事業者)への匿名加工データの販売など、「リテールメディア」や「データマネタイゼーション」により、新たな収益源を生み出しています。

【小売企業におけるデータプラットフォームの全体像】

データ活用によるビジネスモデル変革を成功に導くための戦略の推進_図表2

リテールメディアは、近年急速に成長しているマーケティング手法であり、小売企業が保有するデータを活用して広告配信することで、従来よりもパーソナライズ広告によるターゲティング精度が向上し、小売企業にとっても新たな収益源を確保する方法として注目されています。

広告主にとっては効果的な広告配信が可能となり、生活者にとっても関連性の高い情報が入手できることで、小売企業・広告主・生活者すべてに利益をもたらす三方良しの関係を築くことができます。また、近年のCookie規制の影響で、サードパーティーデータの利用が難しくなっています。そうしたなか、リテールメディアは、小売企業が直接生活者から収集したファーストパーティーデータを活用するため、生活者のプライバシーを保護したうえで、効果的な広告配信が可能です。

たとえば、生活者のオンラインとオフラインの購買履歴や閲覧履歴など、顧客行動を一貫して追跡することで、嗜好に合った特定カテゴリーの新商品情報を提供することができます。また、顧客行動や売れ筋商品の把握などをタイムリーに分析し、関連商品に対する割引クーポンやプロモーションを迅速に配信することができます。そのため、生活者にとっては、自分の趣味や嗜好に合った商品情報を受け取ることで、購買意欲が高まります。また、商品を比較検討する際に必要な情報が提供されることで、購買の意思決定をサポートします。

次に、小売企業におけるデータマネタイゼーションの取組みを紹介します。小売企業が保有するデータ(商品・売上データ、顧客データ、在庫データなど)を活用して新たな収益源を確保するために、保有データの利用価値向上に必要となるデータ加工や、第三者へのデータ販売・連携など付加価値創出のための取組みを進めています。たとえば、メーカーや卸業者は、小売企業が保有するデータから自社の商品を購入している顧客属性や購買傾向などを分析し、新商品開発や店舗における売り場の棚割りなど、マーケティングに利用します。

5.KPMGの強み

KPMGでは、データ戦略から基盤構築・分析、さらには広告・販売までデータを活用したビジネスモデルの変革を一気通貫で支援することが可能です。また、データ活用を推進する人材不足に課題を抱えている場合、データ戦略を担う組織構築からの伴走型による支援も可能です。

【データ活用によるビジネスモデル変革を成功に導くための支援の概要】

データ活用によるビジネスモデル変革を成功に導くための戦略の推進_図表3

(1)データストラテジー

手段が目的化しないように、組織のデータマネジメントに関してどの程度進んでいるのか可視化するための成熟度診断支援から、組織におけるビジネス戦略と整合させたデータ戦略の立案、ロードマップの策定などまで支援します。

 

(2)データガバナンス

組織のデータ活用に関して方針が定まっていない場合、組織における健全なデータの管理を目的とした、ポリシーやプロセスの設計、評価基準の策定からデータセキュリティの要件定義などまで支援します。データ活用を促進させる「攻め」とデータ活用リスクを防ぐ「守り」の両面から、戦略の立案を支援することが可能です。

 

(3)データプラットフォーム

複数のデータプラットフォームが乱立している場合や新たなデータプラットフォームの構築を検討する際に、組織内でのデータの相互運用性や可用性の向上を目的に、データの統廃合、組織のデータニーズを明確にし、長期的なデータ要件を満たす「ブループリント」となるアーキテクチャの設計などを支援します。

 

(4)データビジュアライズ

データから経営課題に関するインサイトが得られない場合、データからのビジネスインテリジェンス(BI)のデータ要件定義や、ダッシュボード・レポートの作成などを支援します。

 

(5)データサイエンス

データの抽出および分析方法が不明確な場合、インサイトの根拠となる精緻な情報の抽出を目的としたデータの設計・前処理、高度なデータアナリティクス・AI活用など支援します。加えて、データ分析を基にしたカスタマーエクスペリエンス(CX)向上や収益拡大に向けた施策を支援します。

 

(6)リテールメディア・データマネタイゼーション

データを活用した広告配信を検討している場合、組織におけるリテールメディア化の実現に向けて、メディア配信の構築から顧客接点の創出、効果的な広告配信や顧客体験の向上などを支援します。
データマネタイゼーションでは、データを活用して新たな収益源の確保を検討している場合、ビジネスの類型や市場ポテンシャルを調査し、事業アイデア例の導出などを支援します。また、必要に応じてデータ戦略上のビジネスモデルやデータの特定・定義などを支援します。

6.さいごに

データを活用したビジネスモデルの変革を成功に導くためには、データを活用するための目的を明確化し、収集/蓄積された素材となる「データ」を、データ自体のことを説明付けるメタデータなどの「情報」へ変換します。

さらに、変換された情報をユーザーが理解・分析した結果を踏まえて体系化することで「知識」に変え、知識を基に、ユーザーが実践的に活用・意思決定するための「知恵」に昇華させることで価値へと進化し、競争力の源泉とします。

執筆者

KPMGコンサルティング
シニアマネジャー 木村 明博

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