新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な蔓延・拡大を契機として、日本を含む世界各国の政府は、非接触・非対面を基本とした社会・経済活動の基盤を整備する必要性に迫られました。国民に対する行政サービスの質を維持・向上させるためにデジタルインフラ等の投資を増大・加速化させた結果、ポスト新型コロナにおいて、その投資効果が表出しはじめています(2章にて詳述)。

しかし、具体的な投資額やスピード感は国・地域によって差異が見られ、中東諸国などここ数年で飛躍的にデジタル化が進展した国もあれば、日本のように、結果的に緩やかに対応を進めている国もあります。

本稿では、日本のさらなるデジタル化の推進に向けて、世界各国・地域の公共分野におけるデジタル化の動向等を分析します。なかでも、特に飛躍的にデジタル化が進展したサウジアラビアの事例に焦点を当てて考察します。

1.国際連合電子政府調査とは

国際連合(以下、国連)電子政府調査は、国連経済社会局(UN DESA:United Nations Department of Economic & Social Affairs)が2001年から2年ごとに公開している全国連加盟国の公共分野におけるデジタル化の進捗状況に関する報告書です。

本調査では、デジタル化の進捗状況を0~1で示す電子政府開発指数(EGDI:E-Government Development Index)で表しており、指数が1に近いほど、デジタル化が進んでいるとされています。指数に応じて、最上位グループ(EGDI:0.75~1.00)、上位グループ(EGDI:0.50~0.75未満)、中位グループ(EGDI:0.25~0.50未満)、下位グループ(EGDI:0.25未満)に大きく分類されています。

EGDIは、UN DESAによる各国調査やUN DESAが作成した質問表への各国からの回答結果に基づき、3つの指数の加重平均に基づいて算出されています。

(1)オンラインサービス指数(OSI:Online Services Index)

(2)国連教育科学文化機関(UNESCO:United Nations Educational, Scientific and Cultural Organization)のデータに基づく人的資本指数(HCI:Human Capital Index)

(3)国際電気通信連合(ITU:International Telecommunication Union)のデータに基づく通信インフラ指数(TII:Telecommunications Infrastructure Index)

2.世界の各地域における公共分野のデジタル化の動向

国連電子政府調査結果に基づくと、ポスト新型コロナ以降、公共分野における世界各国のデジタル化は着実に進展していると言えます。実際に、EGDIの世界平均は直近2年間(2022~2024年)で、約4%上昇しました。

本調査が開始されて以降、2024年の調査で初めてEGDI最上位グループが最も大きい割合を占め(全体の約39%、評価対象の193ヵ国・地域中76ヵ国)ており、続くEGDI上位グループも約32%(62ヵ国)となっています。直近10年間の比較では、最上位グループに属する国の数は3倍以上に増加し、上位グループと合わせると87ヵ国から138ヵ国に増加しています。

本章では、各地域でEGDIが上昇している要因、国家間でデジタル格差が生じている背景等について考察します。

【EGDI平均値の変化と各EGDIグループの割合】

世界各国・地域の公共分野におけるデジタル化の動向_図表1

出典:国際連合「E-Government Survey 2024」を基にKPMG作成

(1)各地域の公共分野におけるデジタル化の概況

欧州は平均EGDIが0.8493という非常に高い水準にあり、公共分野のデジタル化を牽引する存在であると言えます。これに、アジア(0.6990)、米州(0.6701)、オセアニア(0.5289)、アフリカ(0.4247)が続きます。2022~2024年の2年間の伸び率を見てみると、アジアが7.65%と最大の上げ幅を示しており、アフリカ(4.76%)、オセアニア/米州(4.09%)、ヨーロッパ(2.26%)という結果となっています。

【全地域および各地域のEGDI平均値】

世界各国・地域の公共分野におけるデジタル化の動向_図表2

出典:国際連合「E-Government Survey 2024」を基にKPMGにて作成

i.欧州
2001年の本調査開始以降、継続的にEGDI値トップの座を維持しています。特徴としては、欧州のすべての国がEGDI世界平均以上(欧州44ヵ国中36ヵ国が最上位グループに属する)であることが挙げられます。欧州は、他地域のモデルとなっており、ICTインフラの強化、デジタルリテラシー向上等に資する戦略的な投資を継続的に進めています。

ii.アジア
全5地域のなかでは最も高いEGDIの伸び率を示しています。シンガポール、韓国、日本は、先進的なデジタルインフラ、広範な最先端技術の活用等により、これらの結果に貢献しています。

GCC(湾岸協力理事会)諸国、カザフスタン、トルコ、中国もデジタルインフラに多大な投資を行い、AI、ブロックチェーン、IoT等の新技術を取り入れながら、国民のデジタルリテラシーを強化することにより、デジタル化を推し進めています。

49ヵ国中25ヵ国が最上位グループに属しており、直近2年間では、10ヵ国が上位グループから最上位グループへの昇格を果たしました。他方、イエメン、アフガニスタンといった政治危機や紛争に直面している国では、デジタル化に向けた投資余力を捻出することが困難な状況となっており、国際的な支援が求められています。

iii.米州
直近2年間で最上位グループに所属する国の比率が23%から31%に上昇しました。これは、ブラジルやメキシコなどのラテンアメリカ諸国が、オンラインサービスやデジタルインフラを積極的に強化したことが主な理由として挙げられます。

米国とカナダは、国家レベル、州レベル、地方レベルでデジタル変革を積極的に推進しており、EGDIは高い水準にあります(米国:0.9194、カナダ:0.8452)。連邦政府が包括的な政策を策定する一方で、州・地方政府は地域に特化した戦略を策定しており、地域の状況やニーズに沿った具体的なデジタル化施策を展開しています。

iv.オセアニア
他地域と比べてデジタル化の様相は大きく異なっています。調査対象となった14ヵ国のうち、最上位グループはオーストラリアとニュージーランドのみ(オセアニア地域全体の14%)、上位グループは28%、中位グループは57%となっています。オーストラリアとニュージーランドを除いた地域は、小島嶼開発途上国(以下、SIDS)※1に位置付けられ、平均EGDIが0.4600と、上位2ヵ国のEGDI値の半分以下であり、世界平均よりも大幅に低い状況です。この背景には、限られたリソース、地理的隔絶、自然災害への脆弱性、脆弱なデジタルインフラ等が挙げられます。

※1:小島嶼開発途上国(SIDS:Small Island Developing States)
国土が小さな島々で構成される開発途上国は、地球温暖化による海面上昇の被害を受けやすく、島国固有の問題(少人口、遠隔性、自然災害等)により、持続可能な開発が困難だとされています。SIDSのメンバーシップに明確な定義は存在しませんが、国連事務局が公表しているSIDSリストには、太平洋、カリブ、アフリカ地域等の38ヵ国(国連加盟国)および複数の非国連加盟国・地域が含まれています。

v.アフリカ
全世界のなかで最もデジタル化が遅れている地域です(EGDIの平均は0.4247)。ただし、直近2年間の伸び率で言えば、アジア(7.7%)に次ぎ2番目の伸びを示しています(4.8%)。2024年の調査において、アフリカ諸国で初めて南アフリカとモーリシャスが最上位グループの仲間入りを果たしましたが、EGDI世界平均を上回っている国はわずか6ヵ国であり、約半数は中位グループに属しています。多くのアフリカ諸国は、デジタルインフラやIT人材の不足など、さまざまな課題に直面しており、他地域とのデジタル格差に繋がっています。

(2)公共分野においてデジタル化が加速した背景

世界最大級の統計データプラットフォームであるStatistaによると、新型コロナ禍の2022年における世界全体のデジタル化に向けた投資予算は、対前年比でおよそ16%伸長しています。

また、直近2年間のTII(通信インフラ指数)は、世界平均で19.9%増加しており、平均EGDIの伸び率に最も大きく寄与していることが注目されます。これは、新型コロナを契機として、通信インフラに対する投資が大幅に増加したことが大きな要因であると考えられます。地域別では、オセアニアが最も顕著な増加を示し(29.4%)、次いでアフリカ(27.8%)、アジア(25.5%)、米州(19.6%)、欧州(9.9%)の順となっています。デジタル化の基盤として、各国が強固な通信インフラを確立することに注力していることがうかがえます。

OSI(オンラインサービス指数)は直近2年間で3.6%増、HCI(人的資本指数)は7.2%減となっています。HCIがマイナス成長を示している背景には、今次調査から公共サービスの機能(例:オープンデータの利用に関するガイダンスやツールキットを実装しているか否か等)の数(EGL)が考慮されることが大きく影響しています。

【世界全体および地域別のEGDI、OSI、HCI、TIIの増加率(2022~2024年)】

世界各国・地域の公共分野におけるデジタル化の動向_図表3

出典:国際連合「E-Government Survey 2024」を基にKPMGにて作成

(3)国・地域間でデジタル格差が生じている背景の考察

国・地域間でデジタル格差が発生している大きな要因の1つに所得水準の格差※2があると考えられます。

実際に、EGDIと1人当たりの国民総所得(GNI)の間には正の相関があり、高所得国は低所得国よりも高いEGDIを示す傾向にあります。EGDIが世界平均を上回る105ヵ国のうち、84%は高所得国(54%)または上位中所得国(30%)、世界平均を上回るEGDIを有する国のうち下位中所得国に属する国はわずか16%、EGDI世界平均値を超える低所得国は存在しません。

この事実は、所得の高い国がインフラの整備、技術開発、専門人材の育成、国民のデジタルリテラシーの向上等への投資に、より多くの資源を投じることができることを示唆しています。

しかしながら、EGDIを構成する要素の変化に目を向けると、少し趣の異なる傾向が見受けられます。TIIは全所得グループの値が上昇し、とりわけ下位中所得国で最大の増加(33.7%)が見られ、上位中所得国(24.5%)、高所得国(9.6%)、低所得国(7.1%)が続きます。低所得国では、OSIが平均5.6%減少しているため、結果的にEGDIは6.7%減少しています。これは、多くの低所得国が通信インフラを強化している一方で、オンラインを通じた公共サービスの提供や市民参加の確保に課題を抱えていることを示しています。

※2:国家の所得分類
世界銀行の「World Bank country classifications by income level for 2024-2025
」では、加盟国の1人当たりGNIに基づいて、以下4つの所得グループを定義しています(執筆時点)。

  • 高所得国: 1人当たりGNIが13,846米ドル以上
  • 上位中所得国: 1人当たりGNIが4,466米ドルから13,845米ドル
  • 下位中所得国: 1人当たりGNIが1,136米ドルから4,465米ドル
  • 低所得国: 1人当たりGNIが1,135米ドル以下

【GNIとEGDIとの関係】

世界各国・地域の公共分野におけるデジタル化の動向_図表4

出典:国際連合「E-Government Survey 2024」を基にKPMGにて作成

【所得グループ別の各EGDI要素の変化】

世界各国・地域の公共分野におけるデジタル化の動向_図表5

出典:国際連合「E-Government Survey 2024」を基にKPMGにて作成

3.世界のデジタル化の動きのなかでの日本の立ち位置

本章では、2章で詳述した世界の各地域の公共分野におけるデジタル化の潮流における日本の立ち位置について考察します。

(1)EGDIランキング

日本のEGDIは世界13位(0.9351)であり、2022年調査時(世界14位、EGDIは0.9002)から1段階ランクアップしています。アジアのなかでは、シンガポール(世界3位)、韓国(同4位)、サウジアラビア(同6位)、UAE(同11位)に次ぐ位置です。

本調査開始以降、日本は常に20位以内にランクインしており、公共分野におけるデジタル先進国として世界をリードしてきたと言えます(これまでの最高位は2014年の世界6位、最下位は2012年の同18位)。しかしながら、2014年以降は下向基調にあり、2020年以降は10位圏外となりました。EGDIは増加傾向にありますが、中東勢など短期間で急速にデジタル化を推進している国がそれを上回る伸びを示しています。

(2)EGDI構成要素別増加率

日本のEGDIを構成要素別に考察します。前回調査時より、OSI、HCI、TIIはそれぞれ3.66%増、4.02%増、3.96%増となっています。これらを世界平均と比較してみると、OSI増加率は世界平均とほぼ一致しています。しかしながら、193ヵ国・地域の平均値であることを踏まえると、高水準にあるとは言えません。同程度の所得水準にある英国(7.63%増)、ドイツ(16.86%増)、ベルギー(4.71%増)と比べても、伸びはかなり緩やかです。

HCIはかなり高い水準にあります。2章(2)で述べた、公共分野においてデジタル化が加速した背景を踏まえると、日本は他国に比べて居住者が利用可能な公共サービスの機能が充実していると言えます。
TIIの増加率は低い水準に留まっています。所得水準が同レベルの先進国が多数属する欧州地域の増加率(9.9%)よりも低い水準となっています。従前より通信インフラの整備レベルが高い水準にあることから伸び代が他国に比して小さくなってしまうとは言え、日本における通信インフラの整備スピードは世界的に見て緩やかと言えるでしょう。

これまでの記載内容を踏まえると、デジタル化を支えるインフラとサービスの両面で、日本は相対的に緩やかに成長していることがわかります。

【EGDI構成要素別増加率(2022年~2024年)】

世界各国・地域の公共分野におけるデジタル化の動向_図表6

出典:国際連合「E-Government Survey 2024」を基にKPMGにて作成

4.急速にデジタル化を進めるサウジアラビア

2020~2022年の期間におけるEGDI世界平均の伸び率は約0.03%であるなか、中東諸国の伸び率はひと際目を引くものがあります。EGDIランキングで世界31位から6位まで押し上げたサウジアラビアについて、急速にデジタル化が進む背景を考察します。

(1)公共分野のデジタル化に向けた具体的な取組み

EGDIの構成要素である、OSI、HCI、TIIは、それぞれ2年前よりも約20%増、約4%増、約13%増でした。この伸びは、オンラインサービスと通信インフラ環境が大きく改善したことが要因だと考えられます。

さらにこの背景には、石油依存経済から脱却し、持続可能な経済成長を目指すための大きな政策方針の1つとして掲げられた、国家戦略文書「ビジョン2030」の存在があります。これまでの具体的な取組みは下記のとおりです。

i.デジタル政府庁(DGA)の設立
デジタル化の推進を担う機関として、2021年3月にデジタル政府庁(DGA)が設立されました。当該機関は、公共サービスのデジタル化、オンラインプラットフォームの構築、電子サービスの提供を担当しています。

ii.サウジ・データAI庁(Saudi Data and AI Authority:SDAIA)の設立
データとAIを活用することにより、公共サービスの効率と質の向上を図ることを目的として、AI庁が設立されました。国家規模のデータ管理の枠組み整理、25,000人以上のAI人材の育成、AI倫理の基準策定等を進めています。他にも、米国の半導体メーカーであるNVIDIAと提携し、中東・北アフリカ地域で最大規模のハイパフォーマンスコンピューティングセンターを設立しています。

iii.デジタルIDの導入
国民がオンライン上で安全かつ迅速に公共サービスを利用できるように、2021年1月に導入を開始しました。個人の身元確認を一元化することによって、公共サービスの利用を簡便化しています。また、政府機関の間でデータを積極的に共有し、データ駆動型の意思決定が実現されるよう取り組んでいます。

ix.アブシャー(Absher)プラットフォームの展開
公共サービスをワンストップで提供するために整備されました。公共サービスのうち、約98%のサービスに対してオンラインでのアクセスが可能となっています。すでに、60~70%のサウジアラビア国民がアプリをダウンロードし、日々利用しています。利用者数が増加した要因には、デジタルIDの普及が大きく影響しています。

x.通信インフラの拡充
2024年時点で、サウジアラビアのインターネット普及率は約99%となっており、ほぼすべての国民がインターネットにアクセスできる環境を有していると言えます。国内の5Gネットワークカバレッジは人口全体の約78%に達しており、2年前の43%から大幅に増加しています。この背景には、政府主導で基地局の設置、新たな周波数帯の割り当て、国内ローミングサービスの導入等を急速に推し進めていることが挙げられます。

(2)急速なデジタル化を可能とした要因
 
i.君主制国家ゆえの強力な政府
サウジアラビアは君主制を採用しており、行政権や立法権は国王が握っています。つまり、迅速かつ一貫した予算・政策の策定が可能であると言えます。

ii.持続可能な経済発展に向けた政府としての危機感
サウジアラビアは世界最大の石油輸出国の1つであり、石油セクターはGDPの約42%を占めています。また、国家予算の約87%が石油収入に依存しており、輸出金額も約90%が石油に関連した内容となっています。油価の変動リスク、石油資源の枯渇リスク、化石燃料使用削減という国際的なトレンド、若年層の雇用創出などを踏まえ、サウジアラビアは石油依存経済を脱却し、経済の多角化ならびに新産業の創出を早期に実現することを目指しています。そのための重要な基盤として、危機感をもってデジタル化を急速に推進しています。

iii.石油マネーを原資とした大規模な投資資金
サウジアラビア財務省によると、2024年の国家予算のうち、約7.4%(約24.7億米ドル)が公共分野のデジタル化に投下されています。額面にするとG7諸国と同程度ですが、国家予算の割合で見れば、G7諸国の平均(約4%)に比べると、かなり高い割合となっていることがわかります。直近10年で見れば、毎年、前年対比で平均7%もの割合で予算を増額させています。この事実は、サウジアラビアが公共分野のデジタル化を重視していることを強く示しています。

iv.デジタルID利活用で得られる利便性
デジタルIDの利活用により、日常生活において高い利便性を享受することが可能となる点も要因の1つとして挙げられます。たとえば、日本では、マイナンバーカードを利用してアクセスすることができる公共サービスは自治体ごとに異なりますが、サウジアラビアでは、国内のどこに住んでいようとも、デジタルIDを利用してアブシャー(Absher)プラットフォームにアクセスしさえすれば、日常生活で必要となる公共サービスを利用することができます。

v.効果的なコミュニケーション
デジタルIDやアブシャー(Absher)プラットフォームを普及させるために、ターゲット・ペルソナの細分化と、テーラリングされた広報施策を打ち出しています。たとえば、高齢者や農村地域の住人など、デジタル技術に不慣れな人に対しては、自治体任せにするのではなくDGA等から派遣された専門家が伴走するなどの対策を取っています。若年層に対しては、インフルエンサーを通じた広報活動や教育コンテンツへの組込み等を実施しています。

(3)考察

サウジアラビアの代表的な取組みのうち、デジタルIDについて考察します。

日本では、マイナンバーカードの導入から約9年が経過しました。これまで、約3兆円を越える予算が普及促進施策に投じられたとも言われますが、2024年12月末時点におけるマイナンバーカードの保有率は約76%に留まっています。マイナンバーカードを取得したのち、キャッシュレス決済を利用することでポイントが還元される「マイナポイント事業」といった金銭的なインセンティブを伴う施策を実施しても、普及率増加への貢献度は約10%という結果でした。

2022年のデジタル庁資料「業種別マイナンバーカード取得状況等調査」によると、マイナンバーカード未取得の主な理由として、「情報流出の懸念」「申請方法が面倒」「メリットを感じない」等が挙げられています。情報の誤登録、個人情報の流出、別人の銀行口座への公金振込み等の不祥事もイメージを悪化させる要因になっています。

日本において、これからユーザビリティの高い新規のデジタルプラットフォーム(4.(1)iv、同(2)iv参照)を開発・導入することは現実的ではないかもしれませんが、国民とのコミュニケーション(4.(2)v参照)は十分参考にすることが可能だと言えます。デジタルIDは一例ですが、新しいデジタル技術を社会実装し、広く国民に利用してもらうためには、国民の理解を得ることが必要不可欠です。

日本がより一層デジタル化を推進していくためには、型どおりの情報発信ではなくマーケティングの視点をもって、より戦略的に国民とのコミュニケーションを図っていくことが必要でしょう。

5.おわりに

進捗スピードに差異はあるものの、新型コロナを契機として、アジア地域の中・低所得国やアフリカ諸国も含めた世界各国の公共分野におけるデジタル化が着実に進展してきています。

公共分野のデジタル化は、「すべての人に健康と福祉を」「質の高い教育をみんなに」「産業と技術革新の基盤をつくろう」など持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けた基盤となる要素であり、デジタル化の進捗度合いがSDGsの達成度合いに大きく影響を及ぼす可能性があります。換言すれば、デジタル化が遅れることで、持続可能な経済成長の実現が難しくなる可能性(国家間の格差が拡大し、国際情勢の不安定化につながるおそれ)があります。

これは、対外貿易に大きく依存する日本経済にとっても重要な観点です。国際社会の安定と健全な経済成長のためには、取り残される国がないように、世界各国が着実にデジタル化を進めていくことがきわめて重要です。

デジタル化のスピードを高めていくために、サウジアラビアなど高いパフォーマンスを上げている国のベストプラクティスを取り込むことも有効でしょう。政策実行能力が高い政治体制への移行や、すでに構築した基盤システムの更改など、ドラスティックな取組みは現実的ではないかもしれませんが、サウジアラビアの例で見たように、効果的な国民とのコミュニケーションなどソフト面での取組みは日本にとっても大いに参考になるでしょう。

どれだけ効果的な制度やインフラを整えようとも、多くの国民の理解を得て、国全体に普及しなければデジタル化の意義は減じられてしまいます。ユーザビリティの高いシステムの構築などハード面の取組みからさらに踏み込んで、デジタルサービスに関する国民の理解促進および、利用拡大に繋がる現場レベルで役立つソフト面での取組みを積極的に学び取り入れていくことが、日本のデジタル化をより一層推し進めていくための大きな助力になるでしょう。

※本文およびグラフの数値は下記資料を参考にしています。また、本文中の「国」および「ヵ国」という表記については、場合により国以外の地域・行政区・管轄区等を含むことをお断りいたします。

執筆者

KPMGコンサルティング
コンサルタント 稲葉 大樹
コンサルタント 平澤 友華

公共分野におけるデジタル化の潮流

お問合せ

関連記事

ガバメント・パブリックセクターの関連する記事を紹介します。