2022年4月に東京証券取引所(以下、東証)の市場区分が再編され、約3年が経過しようとしています。この間、2023年4月に公表された「コーポレートガバナンス改⾰の実質化に向けたアクション・プログラム(以下、アクション・プログラム)」は、2024年6月にアップデートされ、上場企業では同プログラムを踏まえたコーポレートガバナンス改革の実質化に向けた取組みの着実な実践が求められています。
また、2023年3月に要請された「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」や、2025年1月に公表された「『稼ぐ力』の強化に向けたコーポレートガバナンス研究会 会社法の改正に関する報告書」も踏まえると、資本収益性や市場評価の改善・向上、「稼ぐ力」の強化への対応に向けて、コーポレートガバナンス改革が形式から実質へさらに進展することが予測されます。
本稿では、昨今のコーポレート・ガバナンスに関する官公庁や東証の動きを踏まえながら、東証上場会社の「コーポレート・ガバナンスに関する報告書(2024年6月末時点)(以下、CG報告書)」を分析し、過去との比較※を行うことで、コーポレートガバナンス改革の実質化に向けた動向を考察します。
なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることを、あらかじめお断りします。
※東京証券取引所「コーポレート・ガバナンス情報サービス」から取得した過去のCG報告書データのうち、比較可能な最も古い2019年、および2023年のデータを使用。
ポイント
東証上場会社の「CG報告書」の分析およびコーポレート・ガバナンスに関する動向から、以下の3つのポイントが注目ポイントとして挙げられます。
Point 1 社外取締役の活躍の場の進展に伴う期待役割の明確化、および機能発揮の要請のさらなる高まり Point 2 投資家との対話を促進・実効化させるための企業情報開示のあり方の変革 Point 3 モニタリングモデルを志向する会社の増加を踏まえた最適な機関設計制度に関する議論の萌芽 |
目次
1.社外取締役の活躍の場の進展に伴う期待役割の明確化および機能発揮の要請のさらなる高まり
【図表1・2:独立社外取締役の比率】
出典:東京証券取引所「コーポレート・ガバナンス情報サービス」から取得したデータを基にKPMGにて作成
(2)取締役会議長を務める社外取締役のさらなる増加
取締役会の議長の属性の変化は顕著ではなく、全体的に社長が多い傾向にありますが、社外取締役の割合は上昇し続けています。2019年は市場第一部で約1.5%でしたが、2024年にはプライム市場で約5.5%となりました。また、プライム市場上場会社のうち指名委員会等設置会社では、約36%の会社が社外取締役を取締役会議長に選任しています。
【図表3・4:取締役会の議長の属性】
出典:東京証券取引所「コーポレート・ガバナンス情報サービス」から取得したデータを基にKPMGにて作成
(3)関連動向
- 2023年4月に策定されたアクション・プログラムでは、「取締役会等の実効性向上(独立社外取締役の機能発揮)」が課題の1つとして挙げられていました。2024年6月のアップデート版では、独立社外取締役の選任や、指名委員会・報酬委員会の設置が進む一方で、社外取締役や各委員会の議長・委員長が果たすべき役割の認識が共有されておらず、未だ取締役会が実効的には機能していない、との課題認識を具体的に示しています。
- 社外取締役の機能強化の観点を踏まえ、2024年1月に公表された「社外取締役のことはじめ」では、特に新任や経験年数の浅い社外取締役を対象として、取締役会の役割・責務や社外取締役として期待される役割・機能、社外取締役の心得等が整理されています。上場会社においては、社外取締役の新任や再任時に資料を交付し、社外取締役に期待される役割・機能に関する意見交換等に活用し、認識共有を促進させることが期待されています。
- 2025年2月に公表された「記述情報の開示の好事例集2024(第4弾)」では、投資家・アナリスト・有識者が期待する主な開示のポイントを提示し、ポイントに対応する具体的な開示の好事例を紹介しています。特に、社外役員の機能発揮や実効性向上の観点から社外役員の選任理由と期待される役割を開示することの有用性や、社内取締役及び社外取締役の支援体制に関する開示の有用性が指摘されている点は、社外取締役の一層の機能発揮への期待が高まっているものと考えられます。
- なお、2023年12月、「支配株主・支配的な株主を有する上場会社において独⽴社外取締役に期待される役割」が公表されています。「コーポレートガバナンス・コード」(以下、CGコード)では、独立社外取締役の役割・責務の1つとして「経営陣・支配株主から独立した立場で、少数株主をはじめとするステークホルダーの意見を取締役会に適切に反映させること」(コーポレートガバナンス・コード 原則4-7.独立社外取締役の役割・責務(ⅳ))が挙げられているように、独立社外取締役は他の取締役と比較して支配株主の影響を受けづらいことから、少数株主の利益を適切に保護することが期待されています。
「記述情報の開示の好事例集2024(第4弾)」でも、「従属上場会社における少数株主保護は重要な観点であり、従属上場会社を有する場合には、当該会社のガバナンスの実効性確保の取組み等について積極的に開示することが有用」とされています。
2.投資家との対話を促進・実効化させるための企業情報開示のあり方の変革
(1)取締役会における株主・投資家・ステークホルダーへの関心の高まり
「CG報告書」における取締役会実効性評価の記述(4-11(3))を対象に、実効性やテーマに関するキーワードをカウントし傾向を分析したところ、幅広いテーマに関するキーワードが増加しており、取締役会で取り扱われるテーマは引き続き多様化の傾向にあると考えられます。特に株主・投資家・ステークホルダーに関するキーワードの増加率が著しく大きいことから、これらのテーマに対する近年の関心の高まりが取締役会の議題にも反映されていると推察されます。
2022年の東証市場区分の見直しにより、プライム市場が「グローバルな投資家との建設的な対話を中心に据えた企業向けの市場」と位置付けられたことで、CEOや社外取締役等によるステークホルダーエンゲージメントの実施や、それにより得られた株主・投資家等の意見の取締役会への報告が増加していると考えられます。また、2024年6月に株主総会を開いた上場会社のうち、株主提案を受けた会社が過去最多を記録したように、活性化する国内外のアクティビストの活動への対応を迫られていることも背景にあると推察されます。
【図表5:取締役会の実効性に関するキーワード分析】
出典:東京証券取引所「コーポレート・ガバナンス情報サービス」から取得したデータを基にKPMGにて作成
(2)関連動向
- 2023年4月に策定されたアクション・プログラムでは、「情報開示の充実・グローバル投資家との対話促進」が課題の1つとして挙げられています。これに対して、2024年5月、「プライム市場における英文開示の拡充に向けた上場制度の整備に係る有価証券上場規程等の一部改正について」が公表されました。2025年4月より、プライム上場会社は、可能な限り、日本語による開示と同時に、英語による同一内容の開示を行うことが努力義務となります。また、決算情報および適時開示情報については、日本語と同時に英語による開示を行うことが義務付けられます。
- また、2024年6月にアップデートされたアクション・プログラムでは、今後の方向性として、有価証券報告書の開示タイミングを株主総会前にすることが示されています。これにより、株主・投資家の議決権行使や株主提案の検討に、開示情報が有効活用される期待が高まっています。なお、2025年2月に公表された「記述情報の開示の好事例集2024(第4弾)」では、2023年4月期から2024年3月期決算の上場企業を対象に、株主総会前に有価証券報告書を開示した上場会社の市場区分を調査・集計した定量分析の結果を公表しています。
- 2024年4月、金融庁によって「企業情報開示のあり方に関する懇談会」が立ち上がり、将来的な情報開示の目指すべき姿が議論されています。2024年6月に公表された中間報告では、上述の英文開示や、株主総会前の情報開示に加えて、XBRL化、開示書類の統合(事業報告等、有価証券報告書とコーポレート・ガバナンス報告書の一体開示)等に関する方向性が示されています。
3.モニタリングモデルを志向する会社の増加を踏まえた最適な機関設計制度に関する議論の萌芽
監査等委員会設置会社の割合は年々増加しており、2019年は市場第一部で約26%でしたが、2024年には約43.8%に上昇しました。2023年7月から2024年6月の1年間では、プライム上場会社のうち46社が、監査役会設置会社から監査等委員会設置会社へ移行しました。なお、指名委員会等設置会社の割合は、微増にとどまっており、ほとんどの企業が監査役会設置会社の維持または監査等委員会設置会社への移行を選択していることがわかります。
なお、監査等委員会設置会社への移行の主な目的としては、「監督機能の強化」が最も多く、「意思決定/業務執行の迅速化」が次いで多くなっています。
【図表6・7:各組織形態の採用比率の推移(上 東証全社、下 市場別)】
出典:東京証券取引所「コーポレート・ガバナンス情報サービス」から取得したデータを基にKPMGにて作成
【図表8:監査等委員会設置会社への移行の主な目的(2023年7月~2024年6月、プライム)】
監督機能の強化 | 監視体制/監査機能の強化 | 経営の透明性の向上 | 意思決定/業務執行の迅速化 |
---|---|---|---|
41 | 13 | 7 | 36 |
出典:各社のプレスリリース等の内容を基にKPMGにて集計
(2)関連動向
- 2022年7月に改訂された「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針」(以下「CGSガイドライン」)では、自社の特徴を踏まえ、取締役会の機能を発揮するための最適なガバナンス体制を自律的・自覚的に選択することが重要であるとした上で、取締役会のモニタリング機能を重視したガバナンス体制※を徹底するためになじみやすい機関設計として、指名委員会等設置会社を挙げています。
※取締役会では経営戦略決定や業績評価を中心として行い、経営陣に個々の業務執行の決定を委任することを重視するガバナンス体制
- 一方、CGSガイドラインでは上場会社の機関設計の傾向について、「指名委員会等設置会社への変更は、業務運営等に一定の影響が及び、現状では、これを避けることなどを動機として、モニタリング機能を重視する会社が監査等委員会設置会社に移行することも多い」と分析しており、当該傾向を踏まえ「監査等委員会設置会社へ移行する際の検討事項」や「監査等委員会設置会社へ移行する際の視点」(CGSガイドライン別紙2)を具体的に示しています。
- また、2022年7月にCGSガイドラインと共に公表された「CGS研究会(第3期)における『今後の検討課題』」では、指名委員会等設置会社制度について、指名委員会等設置会社の多くで社外取締役が過半数を占めている近年の状況にもかかわらず、委員会における決定を取締役会で覆すことができない点を課題として挙げています。
- 上記の課題は「『稼ぐ力』の強化に向けたコーポレートガバナンス研究会 会社法の改正に関する報告書」においても「モニタリングモデルを志向する企業においても使いにくい制度となっている」旨が指摘されており、指名委員会等設置会社における委員会の権限の優先的な見直しの要否については、引き続き検討されることとされています。今後、企業経営の変化を踏まえ、企業が最適なコーポレートガバナンスを実現する上で、現行法上の3つの機関設計制度が適切な選択肢を提供しているか、という観点から、モニタリングモデルを志向する企業に相応しい機関設計のあり方の議論が進んでいくものと考えられます。
<免責事項>
本稿における「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」の分析は、東京証券取引所「コーポレート・ガバナンス情報サービス」の情報を基に実施しています。
各分析結果に関する留意事項は以下のとおりです。
- 数値データは四捨五入して用いているため、図表のデータの合計が100%にならない場合がある。
- 過年度の数値データには、すでに上場を廃止した企業は含まれず、対象となる会社数は実際より少ない。
- 上場会社が提出する「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」(3.企業属性(1)上場取引所及び市場区分)に記載された市場区分に基づいて分析しており、市場区分を変更したにもかかわらず同報告書を更新し再提出していない会社については、変更前の市場区分の数値データに含まれる。
加えて、取締役会実効性評価(コーポレートガバナンス・コード 補充原則4-11(3))のキーワード分析結果に関する留意事項は、以下のとおりです。
- KPMGが設定したキーワードに依存しており、可能な範囲で各社のコーポレート・ガバナンスに関する報告書における表記ゆれ等を考慮しているが、すべての表記ゆれ等に対応しているわけではない(傾向分析への影響は限定的と考えられる)。
執筆者
KPMGコンサルティング
パートナー 木村 みさ
シニアマネジャー 松田 洋介
リードスペシャリスト 佐藤 基右
マネジャー 野口 瞳
マネジャー 渡部 悠希
シニアコンサルタント 椎村 亮太