はじめに:「DX疲れ」とは

最近、DXを際限なく続けていくことの徒労感からくる「DX疲れ」といった言葉が聞かれるようになりました。デジタル化や業務効率化を目指した取組みが企業にとって不可欠である一方で、その過程での負担や成果が見えにくい状況に、現場が疲弊しているケースも少なくありません。推進する現場が抱えるストレスは、DXの必要性が一般的となった現代では声をあげづらく、気づかないうちに現場はDXに対しての積極性を失っていきます。

KPMGが2024年に発効した調査レポート「企業を成功に導くトランスフォーメーション」では、シニアリーダー(Cクラスの経営層)に比べ、ラインリーダー(中間管理職)の多くは新しい働き方、組織の変革に対して感じるストレスが高いレベルにあることが見てとれます。

KPMGが相対する業務部門のクライアントからは、「いつになったらDXは終わるのか?」といった問いを受けることもあります。しかしながら、DXは常に現状を俯瞰し、繰り返し業務の見直しを行うための継続性が不可欠な取組みです。呼び方や捉え方は変われども、DXは一過性のものではなく、恒久的に対応すべきものであり、長く続けられるような企業文化、組織体制、デジタルリテラシー教育、パートナーエコシステムの構築、全社視点でのオペレーションの確立、将来を見据えたデータアーキテクチャ設計などさまざまな対策を施さなければいけません。

DXは来たるAI・ロボット中心の世界への中間段階であり、いかに前述の対策を基に品質高く、鮮度をもって構造的なデータモデルを維持しておくかによって、今後のテクノロジーがスムーズに採用できるかが変わってきます。

本稿では、「DX疲れ」を発生させず、継続的なDX実現の仕組みを構築するための、課題解決の方向性や取組みについて考察します。

業務部門に蔓延する「DX疲れ」とは?_図表1

1.「DX疲れ」の原因とは

ではDX疲れの要因はどこにあるのでしょうか?

「DX疲れ」の要因としてよく挙げられるのが、日本特有の「ベンダー依存体質」からいまだ脱却できていない現状です。本来、DXの目的は自社の業務を深く理解したうえで、その変革のために必要なデジタルツールの仕組みを理解、習得し、効率化や利便性の向上を図ることにあります。

しかし、多くの企業では自律したDXのビジョンがなく、内製化も進まない状態で、外部のベンダーが提供するDXソリューションに依存してDXを進める傾向が見られます。その結果、現場では自社の社員が便利になるテクノロジーとしてDXが効果を発揮せず、次々と提供される新たなベンダーソリューションを理解し、習熟していかなければならないという課題が発生します。

たとえば、新たなテクノロジーとして登場した生成AIなどは、内製化が進む米国では、事業会社が生成AIをプログラミングで活用しており、プログラムが楽になり利便性が非常に高まっているものの、日本ではチャットベースの活用に留まっています。

そして業務改革の際には外部ベンダーの新ソリューションとして提供され、導入には新たな習熟タスクが増えるため、現場にとっては負荷が高くなります。現場にとってこのような状況は、DXの進捗を促すどころか、現場の負担を増大させ、作業効率を下げる一因となってしまいます。結果として、DXの進展そのものが疲労感や徒労感を伴い、社員のモチベーションを低下させる要因になると考えられます。

2.「DX疲れ」を起こさせないために

DX疲れを起こさせないためには、まずDXのあるべき姿を正しく理解することが重要です。ただ単に外部から提供される最新のツールやシステムを導入するのではなく、自社の業務プロセスや課題をしっかりと見つめ直し、それに基づいて自発的に変革を進めることができる最適なロードマップを作成することが必要です。このロードマップは、短期的な成果に捉われず、長期的な視点で自社が目指すべきゴールを明確にし、その実現に向けた具体的なステップを示すものです。

さらに、自社に適したロードマップを実現するためには、外部のベンダーに過度に依存するのではなく、必要な領域での内製化を進め、自律的な体制を構築することが求められます。この体制には、現場のスタッフがDXの意義を理解し、自発的に取り組める環境づくりや、必要なスキルを習得するための教育体制も含まれます。また、DXの進捗状況を継続的にモニタリングし、柔軟に計画を見直していくことも不可欠です。

こうしたアプローチを取ることで、DXが「疲れる」ものから「成長のための武器」へと変わり、業務効率化や競争力向上といった本来の目的を達成することが可能になります。DXを成功させる鍵は、自社の特性に根ざした独自の取組みを推進することにあります。

3.おわりに

現場主導でDXを進めていくことは重要ですが、取組みが現在の業務の延長線上であったり、ゴール基準があいまいのままで進みがちです。大きな山を越えれば越えるほど、次のチャレンジに委縮し、DXが何か途方もないようなものに捉えられてしまいます。こうした課題に対応するために、外部の支援を受けてアイディエーションし、思考を広げ、DXに向けての明確なゴール設定や、改めて現在地の確認をすることで、持続可能なDXを進めていくことができます。

DXは一度きりのプロジェクトではなく、継続的な改善プロセスです。「DX疲れ」を回避しつつ、現場に定着するDXを実現するために、自社の状況に適したアプローチを用いて変革を進めることが肝要です。

執筆者

KPMGコンサルティング
パートナー 池田 和繁

お問合せ

KPMGによる支援

継続的なDX実現の仕組みを構築するためには、中期計画、事業環境、これまでのDXへの取組みを理解したうえで、クライアントに合ったDXのプロセス定義と組織設計、および自社の知見保有をどうすべきかを定めたベンダー利用スキームの定義を行っていく必要があります。

KPMGでは、以下の4ステップの支援内容をベースに、クライアントの課題やスピード感に応じて個別にカスタマイズした支援が可能です。

業務部門に蔓延する「DX疲れ」とは?_図表2

関連サービス

本記事に関連するサービスを紹介します。下記以外にも、お気軽にお問い合わせください。