人工知能(AI)をはじめとするデジタルテクノロジーが急速に進化するこの時代に、革新的な企業は、それぞれの業界、エコシステム、そして働き方を絶えず進化させることで、大きな機会を生み出そうとしています。KPMGの調査によると、現在、大規模な企業の約80%が2つ以上の組織トランスフォーメーションを並行して進めていることが明らかになっており、約3分の1が、トランスフォーメーションはもはや単発的な改革では不十分だと回答しています。

本レポートでは、KPMGの継続的な調査結果と、さまざまな業界のクライアントとの共同作業から得たインサイトを紹介し、この機会をどのように活用すれば、より多くの価値を生み出し、長期的な競争優位を獲得できるかを具体的に示します。そして、テクノロジーを活用した効果的なトランスフォーメーションの実現においてリーダーシップが果たす永続的な役割を説明するとともに、こうした重要な課題に取り組む際に組織が検討すべきいくつかの周到なアプローチと新しい構成要素を明らかにします。

トランスフォーメーションの波を乗り越える ― 新たな追い風と前例のない課題

経済成長の減速は、競合企業同士の市場シェアやウォレットシェア(財布内シェア)の奪い合いを引き起こし、それが企業の成長の減速へとつながる可能性があります。また高い金利は、必要不可欠なテクノロジー、人的能力、その他のリソースの構築や調達を困難にします。

そうした課題があるにもかかわらず、多くの企業はデジタルトランスフォーメーションに多大な投資を行っています。なぜなら企業は、そこにプロセスの合理化から製品のイノベーション、AIの活用までさまざまなテクノロジーの進歩やその他の改善の推進機会を見出しているからです。

【現在のトランスフォーメーションで追求している変革のトップ5】

1 コアビジネスプロセスとワークフローの合理化と最適化
2 テクノロジープラットフォームのアップグレードや先進化
3 新しい市場機会に対応する製品やサービスの開発
4 ビジネスモデルの適応やイノベーション
5 データの論理的な解釈によるインサイトの獲得と、AIや生成AIを利用した効率化

テクノロジーはシニアリーダーがトランスフォーメーションを計画するうえで極めて重要な役割を果たしています。これには、従業員エンゲージメントをステークホルダーの利害と一致させることや、重要業績評価指標(KPI)をさまざまな職務・事業部門にわたってほぼリアルタイムで追跡することも含まれます。こうしたことにより、連携が向上し、タイムリーな調整が可能になるため、価値の創出が加速されます。ほとんどのラインリーダーとシニアリーダーの意見は、テクノロジーの進歩がトランスフォーメーションの成功を後押しするという点で一致しています。

【シニアリーダーとラインリーダーの約60%が、先進テクノロジーの採用はトランスフォーメーションの成功確率を向上させると回答している】

企業を成功に導くトランスフォーメーション_図表1

その一方で、トランスフォーメーションの成功を阻害する主要な要因についても、シニアリーダーとラインリーダーの意見は一致しています。たとえば、リソースや専門知識の不足、従業員やその他のステークホルダーの抵抗、組織の「変革疲れ」、テクノロジーやデータの不足などです。

成功をもたらすデジタルリーダーはどのように考え、行動しているか

最も優れたシニアリーダーはデジタルリテラシーを備えています。すなわち、情報を理解し、それを創造的かつ安全に責任を持って使用する能力です。またデータを、改善、イノベーション、そして他社を上回る高業績をもたらす手段であるとみなす能力でもあります。そうした力を備えたリーダーの多くは、デジタルの採用で模範を示し、従業員の参画とイノベーションの意欲を高めています。

本調査結果でも、最新の知識と専門能力はリーダーが信頼を構築・維持する助けとなることを示唆しています。ラインリーダーの約65%が、担当の部門や職務におけるトランスフォーメーションは非常に効果的であったと回答しています。さらに、上司に対する信頼度の高いラインリーダーの方が、トランスフォーメーションを効果的であると評価する傾向がより強くみられました。

信頼、アライメント(整合性・連携)、レジリエントな文化、デジタル成熟度、デジタルリテラシーはいずれも、トランスフォーメーションをより一層効果的にする好循環を生み出すことができます。この循環は、強力な競争優位(コスト効率、収益成長、イノベーションのスピード、最高の人材を採用・定着させる能力など)の実現を可能にします。そしてこのような改善は、最終的に、株主、従業員、顧客、その他のステークホルダーに、より多くの価値をもたらします。

【シニアリーダーに対するラインリーダーの信頼度(組織のデジタル成熟度ごとに分類)】

企業を成功に導くトランスフォーメーション_図表2

成功をもたらす新たなデジタル構成要素

本調査結果と、さまざまな業界のクライアントとの共同作業の経験に基づいて、KPMGでは、今後数年のうちに高業績企業が以下の4つの領域で特別な強みを示すと予想しています。

【デジタル時代のトランスフォーメーションの成功に重要な要素】

1 レジリエントな文化:変化が常態化すると、文化が優位性をもたらすようになる
2 デジタル成熟度:デジタル成熟度の高い企業は高業績を上げる可能性が高い
3 目的に適ったパートナーエコシステムの構築と維持:パートナーエコシステムを強化すると、競争優位が高まる
4 強力なオーケストレーション能力:組織のアライメント(整合性)とオーケストレーションが変革の進展を加速させる

(1)レジリエントな文化:変化が常態化すると、文化が優位性をもたらすようになる

信頼、共通の価値観、戦略的ビジョンとのアライメント(整合・連携)を基盤とする文化を確立することは、トランスフォーメーションの成功と組織の長期的なレジリエンスの鍵です。しかしその一方で、抵抗は、トランスフォーメーションに付き物の課題です。変革には、明確な優先順位、規律、決意が必要ですが、目標が変遷し、疲労感が忍び込み、マイルストーンの達成を繰り返しているうちに、どんなに高い意欲を持っていても徐々に衰えていきます。

抵抗が公然たる反抗として生じることは稀であり、気付くことが難しい場合もあります。シニアリーダー、ラインリーダーともに、組織の変革疲れと従業員の抵抗を一貫してトランスフォーメーションの最重要課題として挙げています。KPMGの調査によれば、信頼され、尊重され、自らの声が聞き入れられていると感じている時にこそ、従業員は自社に資する優れた成果を達成する公算が高くなることがわかっています。

【レジリエントな文化実現のための主な施策】

  • よりレジリエントな文化を構築する ― 文化は組織のアイデンティティ(同一性)、マインドセット(思考様式)、行動様式、基礎構造の産物である
  • 不明確な状況に耐える高い能力を維持する
  • 変革の進行中に周囲への気配りを示す
  • 従業員への価値提案をアップグレードする
  • 従業員の感情の先にあるものに目を向けて、行動を理解し適応させる

(2)デジタル成熟度:デジタル成熟度の高い企業は高業績を上げる可能性が高い

堅固なテクノロジー基盤は、トランスフォーメーションを実現する手段であり、ほぼすべての有益な成功評価指標(コラボレーション、イノベーション、顧客満足度、財務成績、アジリティなど)を向上させることができます。データを製品化または資産化し、そのデータ製品や資産から価値を生み出すことは、継続的な全社の取組みでなければなりません。しかし、多くの企業は、データからインサイトを見つけ出して活用することに苦労しています。なぜなら、データがサイロ化しており、複数のシステム、プロセス、プラットフォーム、地域にまたがって散在しているためです。

今回の調査では、シニアリーダーの3分の2が、自社のテクノロジー基盤は必要最小限の域を出ていないと評している一方で、大多数が、今後1~3年でテクノロジーがトランスフォーメーションに及ぼす影響は増大するだろうと予想しています。

【シニアリーダーはテクノロジーが影響力を持つと予想しているが、テクノロジー基盤はまだ整っていない】

企業を成功に導くトランスフォーメーション_図表3

トランスフォーメーションの実行を支援するためのテクノロジー投資という点では、デジタル成熟度の高い組織と低い組織の間には大きな差がみられます。そして、こうした投資は実際に成果を上げています。なぜなら高業績の企業は、トランスフォーメーションの成否がますますデータに左右されるものになっていること、そして収益性の成長には、生成AIなどの強力なツールによるアクセス・利用が可能な高品質のデータが必要であることを認識しているためです。

デジタルリテラシーもますます重要性を増しています。多くの場合、アウトプットの品質は、AIアルゴリズムと大規模言語モデルに入力されるデータの基礎的な品質に大きく依存しています。低品質データからのアウトプットには、偏向、不正確、不適切などの問題が伴います。

【デジタル成熟度実現のための主な施策】

  • データの価値を重視する ― 価値の発見から実現まで
  • データの質を維持し、適切なフォーマットで容易にアクセスできるようにする
  • 経営層から最前線の従業員までのデジタルリテラシーに投資する

(3)目的に適ったパートナーエコシステムの構築と維持:パートナーエコシステムを強化すると、競争優位が高まる

リーダーは、パートナーやアライアンス企業の一体化を追求することによって、市場展開を迅速化し、コストを削減し、リスクを緩和し、能力ギャップを解消しようとしています。こうしたアライアンスは、特にテクノロジーの革新に関連して、自社開発か外部購入かの二者択一で変化に対応していくアプローチが時代遅れとなるにつれて、次第に重要性を増してきています。緊急に必要なビジネス能力やテクノロジー、あるいは人材を自社で開発・育成したり外部から調達したりすることができる企業は、ますます減少しています。

調査結果もこの問題を明瞭に示しています。シニアリーダーは、テクノロジーの開発や購入への投資を減らしてパートナーシップへの投資を増やすことを考えており、パフォーマンスベース(業績連動型)のモデル、すなわち、パートナーが期待に応えた場合に成功報酬を分配する制度を設けることをも計画しています。

【テクノロジーを導入する組織は資本投資からパートナーシップモデルへと方向転換しつつある】

企業を成功に導くトランスフォーメーション_図表4

【パートナーエコシステムの構築と維持実現のための主な施策】

  • エコシステムをビジネス戦略およびバリューストリームと整合させる
  • トップクラスのエコシステムパートナーに対するアウトサイドインの視点を育成する
  • パートナーから得られる機会だけでなく、能力のギャップ、オーバーラップ、冗長性に対しても透徹した目でレビューを実施する
  • エコシステムから得られる機会を最大限に活用する未来志向のパートナーシップ戦略を策定する

(4)強力なオーケストレーション能力:組織のアライメント(整合性)とオーケストレーションが変革の進展を加速させる

本調査によると、ラインリーダーとシニアリーダーは、トランスフォーメーションを効果的に実施するうえで先進テクノロジーが重要な役割を果たすという考えにおいて見解が一致していました。各回答者グループの約60%が、そのようなテクノロジーがトランスフォーメーションの成功確率を著しく上昇させると考えています。

ただしラインリーダーは、先進テクノロジーがずさんな計画や実行、非効率的なコミュニケーションなどの問題を解決することを期待しているのに対し、シニアリーダーの50%は、効率性や生産性を向上させるこれらの能力により高い価値を見出しています。そうした先進テクノロジーをどのように使用するかに関係なく、リーダーたちは、トランスフォーメーションを成功へと導くうえで効果的なアライメントとオーケストレーションを図っていくことが極めて重要であると理解する必要があります。

【約60%のシニアリーダーとラインリーダーが先進テクノロジーの採用はトランスフォーメーションの成功確率を上昇させると回答している】

企業を成功に導くトランスフォーメーション_図表5

シニアチーム、および各部門、職務、事業体のすべてのメンバーは、組織のミッション、仕事の進め方、そして戦略的目標とのアライメントを維持するべきです。この基盤によって、全員がそれぞれのトランスフォーメーションのなかで共通目標に向かって努力することができます。

現代の流動的な経営環境では最終目標も絶えず変化しますが、この将来ビジョンは、組織全体を通じて統一され、多くの要求、制約、ビジネス機会を総合したものであるのが望ましいです。KPMGの経験によれば、ビジネスモデルとオペレーティングモデルの不整合は、価値の取り逃がしが最も発生しやすい問題点の1つです。

【強力なオーケストレーション能力実現のための主な施策】

  • 変革に対する全社視点を維持する
  • 新規の各取組みを適切に順序付けて管理することにより、全社的な効果を最大化する
  • 計画立案のサイクル、リリース基準、およびオペレーティングモデルへの影響の記載(文書化)ルールを定義するための共通アプローチ)に基づいてアライメントを確立する
  • 価値を継続的に追跡する

※レポートの全文はPDFからダウンロードできます。各社の成功事例も紹介していますので、ぜひご覧ください。

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