ヘルスケアにおけるリアルワールドデータ(RWD)は、さまざまなヘルスケアプロバイダー(病院やクリニック、健診/検査機関、薬局等)で取り扱われる健康・医療情報システムを通じて得られる患者データや、ウェアラブルデバイスなどから直接得られるデータ等を主要な生成元としています。
過去数十年間のインフラ、および相互運用性への投資により、医療提供者は高品質で多様な形式の長期RWDを蓄積できるようになりました。また、RWDだけでなく、リアルワールドエビデンス(RWE)は、医薬品の開発、およびライフサイクルの各段階での評価を支援する役割として、さらに需要が高まっています。
しかし、2022年7月、国際医薬品規制当局連合(ICMRA)が、規制意思決定におけるRWEの利用を可能にする活動に関する国際協力の強化を強く支持する声明を出したように、現在、RWDおよび、RWEの国際的に調和された定義は存在していません。そのため、RWDソース間のデータ品質の差異、疾患、医薬品、規制の文脈に応じた、さまざまな研究デザインに対処する必要があります。
現状では、RWDとRWEの明確なグローバル共通の定義はなく互換的に使用されていますが、段階的な調和アプローチの必要性が認識されており、今後定義や評価のフレームワークが標準化されることで、さらに活用が加速すると予想されています。
日本においても、統一されゆくRWD、およびRWEの定義を踏まえた研究計画の策定等が望まれていくと予想され、今後のグローバル動向を注視することが重要です。その第一歩として、本稿では、米国、欧州、そして日本のRWD、およびRWEの現在の定義を読み解き、各国の差異について整理・解説します。
RWDとRWEの定義
図表1は、米国、欧州、および日本におけるRWDとRWEの定義です。
米国ではアメリカ食品医薬品局(FDA)、欧州では欧州医薬品庁(EMA)が主体となり、 医薬品開発へのRWD活用に向けた活用方法、規制、評価について提言が出されており、すでに医薬品開発で実際に活用されている例もあります。
一方、日本では、KPMGが行った調査(2024年11月上旬時点)においても、日本におけるRWD、およびRWEの定義について明確な言及は見つけられていません。
医薬品規制調和国際会議(ICH)のリフレクションペーパーでは、段階的な調和アプローチの必要性が述べられており、2024年12月を目途に、RWD/RWEの種類と範囲に関する共通の理解の促進を目的とし、「RWD/RWEの用語、メタデータ、および評価原則」に成果物を発行するとしています。
【図表1:各国におけるRWD/RWEの定義】
地域名 | 参照元 | 定義 |
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米国 | FDA |
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欧州 | EMA |
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日本 | - |
※製薬協の医薬品評価委員会による、「臨床評価部会2019年度タスクフォース」によれば、タスクフォース参加製薬企業(15社)が活用を検討したソースとしてレセプト、EMR(Electronic Medical Record)、レジストリ、臨床検査値、特定健診の5種類のデータをRWDとして挙げている |
各国のRWD/RWEの活用状況
RWEを使用する際の評価であるフレームワークについて、米国ではFDAが、承認された薬の新しい適応症の承認、または薬の承認後の研究要件を満たすことを目的に作成しています。欧州では、RWEの生成を支援するためのガイドやDARWIN EUと呼ばれる欧州連合(EU)全域の実世界の医療データベースを提供しており、適応拡大支援や市販後安全性試験(PASS)においてレジストリデータが活用されています。
欧州においては、従来のランダム化比較試験(RCT)が実施困難、または非倫理的である希少疾患用製品等、従来の医薬品開発経路に適合するのが難しい製品において、RWD/RWEが使用される傾向があり、今後もこのようなケースは増加すると予想されています。
一方、日本においては、2018年のGPSP(医薬品の製造販売後の調査及び試験の実施基準)改正で、製造販売後調査や条件付き早期承認制度におけるRWD活用が認められましたが、承認申請に耐え得るRWDや、その環境の構築やアウトカム定義のバリデーションについては、引き続き利用の範囲や信頼性担保等の議論を継続していく必要があると考えられます。
【図表2:各国におけるRWEの差異】
項目 | 米国 | 欧州 | 日本 |
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審査機関 | FDA | EMA | PMDA |
RWEガイドラインの有無 |
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RWEとして認められている事例 |
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医薬品医療機器総合機構(PMDA)はRWDに関する明確なガイドラインは発出していないものの、対面助言のなかでケースに応じた活用方法の相談を行う枠組みを設けています。
こうした事例の集積や、2024年5月にICHより発出されたリフレクションペーパーを契機に、日本におけるガイドライン整備や、さらなるRWD活用を促進する仕組みづくりが進展する可能性があります。
【図表3:臨床試験、および承認申請におけるRWDガイドライン例】
項目 | 米国 | 欧州 | 日本 |
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審査機関 | FDA | EMA | PMDA |
無作為化比較試験におけるRWDの活用 |
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- | - |
非介入試験におけるRWDの活用 |
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- |
外部対照群試験におけるRWDの活用 |
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- | - |
臨床試験における電子カルテの利用 |
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- | - |
薬事申請時のデータ基準・提出文書 |
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- |
RWDを活用した新規薬剤承認は米国が先行しています。承認件数の年次推移から見ると承認申請の利用はまだ黎明期であるものの、希少疾患を中心に着実に件数が増えており、今後ブレイクスルーが期待されます。
【図表4:RWDを活用した承認申請認可件数】
項目 | 米国 | 欧州 | 日本 | |
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審査機関 | FDA | EMA | PMDA | |
新規承認 | 外部対照群 | 11 | 4 | 3 |
※各審査機関医薬品検索サイトから審査報告書に対してRWDに関連するキーワード検索より抽出、有効性の補足資料等での活用については件数に含めていません。
<参考資料>
- Real‐World Data for Regulatory Decision Making: Challenges and Possible Solutions for Europe(National Library of Medicine)
- Real-World Evidence(FDA)
- Oncology Real World Evidence Program(FDA)
- Real-world evidence(EMA)
- Data Analysis and Real World Interrogation Network(DARWIN EU)
- RWD WG(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構)
- 医薬品/再生医療等製品レジストリ活用相談(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構)