CSRD限定的保証ガイドラインの主な概要

本稿では、CSRD限定的保証ガイドラインの主な概要を解説します。

本稿では、CSRD限定的保証ガイドラインの主な概要を解説します。

CSRD(Corporate Sustainability Reporting Directive:企業サステナビリティ報告指令)に基づくサステナビリティ報告(sustainability statement )の開示は、2025 年1月以降に始まることになります。その対象は、主に大規模企業の要件に該当し、平均従業員数500名超のEU域内上場企業等です。CSRDでは、sustainability statementに対する限定的保証( limited assurance )を求めていますが、そのための基準( limited assurance standards)は2026年10月1日までにEC( 欧州委員会)が採択することになっています。したがって、2025年1月以降のサステナビリティ開示には基準の採択が間に合わないことになります。

こうした状況を踏まえてCSRDでは、1つの対処方法としてCSRDの前文においてCEAOB(Committee of European Auditing Oversight Bodies:欧州監査監督機関委員会)に対してnon-binding なガイドラインを採択するように求めています。この要請に対応して、CEAOBは2024年9月30日にガイドラインCEAOB guidelines on limited assurance on sustainability reporting( 以下、ガイドライン)を採択しています。

EUのサステナビリティ報告に対する限定的保証業務は、このガイドラインを活用してなされることが予想されること、CSRD開示には気候変動や環境に止まらず広くESG全体が含まれ保証の対象も同様と考えられることから、上記のlimited assurance standardsの検討に与える影響は大きいものと思われます。

本稿では、当該ガイドラインの主な概要を解説します。

なお、本稿の意見等は執筆者の個人的見解であり、その所属する組織の公式見解ではありません。文中の誤り・表現等については、すべて執筆者の責任に帰します。

Point

  • CSRD/ESRSの開示に対する限定的保証

世界に先駆けて、EUのCSRD/ESRSに基づくサステナビリティ開示が2025年1月以降に始まる。このサステナビリティ開示には、限定的保証の報告書を添付することが義務付けられている。しかし、CSRDが定める限定的保証基準の採択は2026年10月1日までに行うこととされており、2025 年1月以降の開示には間に合わない状況である。この制度的な不備を補完するためにCSRDはCEAOBに対してnon-binding(拘束力のない)な限定的保証のガイドラインを採択することを求めており、2024年9月30日に実際に採択されている。

  • CEAOBのCSRD限定的保証ガイドラインと内部統制・forward-looking

開示企業にとっては、サステナビリティ開示に関する内部統制を構築する必要があるのか、その必要があるとしてどの程度の強固な内部統制を構築する必要があるのか、構築した内部統制をどの程度限定的保証業務で見られるのか、といった関心が高いものと思われる。CEAOBガイドラインには、Responding to risks(リスク対応手続)においてコントロールテストを要求しないことを原則とする記載が含まれている。その内容は、一定の目線のヒントを開示企業に与える可能性がある。

  • CEAOBのCSRD限定的保証ガイドラインと保証業務の実務

CSRD開示に対する限定的保証業務の提供は、世界に先駆けて実施されるとともに、その対象範囲もCSRD開示と同様にESGすべてとなり広範囲のサステナビリティ課題にわたっている。そのため、他の国家・地域に対する先行事例として重要な意味を持つとともに、今後の保証実務の根幹を形成していく可能性がある。

Ⅰ.ガイドラインの構成

当該ガイドラインの大枠の構成は以下のとおりです。

当該ガイドラインの構成

Ⅰ General principles and approach
Ⅱ Disclosures provided to address Taxonomy Regulation Article 8
Ⅲ Digitalisation of the information
Ⅳ Limited assurance report
Ⅴ Other overarching provisions for the limited assurance engagement

上記のうちⅡ Disclosures provided to address Taxonomy Regulation Article 8は、EUタクソノミーの開示を指します。そこには、グリーン売上等の3 つのKPIとそれに関する定性情報の開示が含まれます。EUタクソノミー開示は、CSRDに基づくサステナビリティ開示に含まれるからです。

また、Ⅲ Digitalisation of the information 及びⅤOther overarching provisions for the limited assurance engagementは、本稿の目的に照らして説明を割愛します。

以下、概要を順次解説します。

Ⅱ.General principles and approach

ここに含まれる主な概要は以下のとおりです。

① Context

  • 冒頭に記載したような経緯で、CSRD がCEAOBにガイドラインの採択を要請した。

② Objectives of the CEAOB guidelines

  • CSRDが求める限定的保証業務の要求事項をカバーする国際的な保証基準がない状態で、ガイドラインはCSRDが導入する限定的保証業務の重要な側面の共通理解を円滑化するためのhigh level assistance を提供することを目的としている。
  • 各EU加盟国の当局は、このガイドラインの利用が推奨されるまたは要求することができる( recommend or require the use)。

③ Ethics, engagement acceptance and quality control

  • このガイドラインは、限定的保証業務で必要になる手続のすべてでなくいくつかを含むものである。
  • このガイドラインは倫理規定を含んでいない。それらは監査指令/規則を参照する。
  • このガイドラインは契約の引受けを含んでいない。
  • 保証業務実施者(practitioners)は品質管理手続/メカニズムの対象であり、限定的保証業務をカバーする品質管理システムを構築する必要がある。

④ Objective of the limited assurance engagement

  • 保証業務実施者は、企業によって報告された情報に、重要な虚偽表示がない(free from material misstatement(s))という限定的保証の心証を得る。
  • 保証業務実施者は、ESRS、EUタクソノミー、デジタル開示等のsustainability statements の表示に対する結論を得ることを可能とする手続を実施する。

⑤ Material misstatement for practitioners in the context of an assurance engagement

  • misstatement( 虚偽表示)は、企業による disclosure( またはomitted( 省略))とESRS(European Sustainability Reporting Standards:欧州サステナビリティ報告基準、CSRDに基づいて設定されたサステナビリティ開示基準のこと)、EUタクソノミーの reporting framework が要求する appropriate disclosurとの差異をいう。quantitative orqualitative であり、omitted information を含む。誤謬または不正から生じる。
  • 仮に保証業務実施者の professional judgement に照らしてこれらのmisstatements がsustainability statements の利用者による意思決定に影響しないと合理的に期待される場合には、保証業務実施者は個別にまたは合計してマテリアルでない misstatements を受け入れることができる。
  • misstatements のマテリアリティは、企業が開示で用いるダブルマテリアリティとはリンクするが同じではない。
  • マテリアリティは定量情報及び定性情報に関連する。misstatements の情報ユーザーに対する潜在的な影響を考慮する。

⑥ Fraud and non-compliance with laws or regulations

  • 不正及び違法行為に注意する。
  • 違法行為の疑いがない場合、または識別されなかった場合には、sustainability statements 外の違法行為に関する手続を実施する必要はない。

⑦ Procedures targeted at risk identification and assessment

  • 保証業務実施者は、法令・規則を含む経営環境、内部統制システムを理解する。この理解は、開示レベルの material misstatements リスクの識別/評価に十分なものであり、追加手続の要否の判断の基礎となる。
  • 理解のために、management に質問し、情報を要求する。また、分析的手続、physical observation and inspections を実施する。
  • material misstatements のリスクを識別した場合には、情報利用者の最も重要なニーズがあると想定される開示、及びその開示がESRSの求める情報の質的特性に整合しているかに留意 する。

⑧ Process carried out and described by the entity

  • 保証業務実施者は、企業がダブルマテリアリティに基づいて開示するべきと識別/決定したプロセスを理解する。
  • 保証業務実施者は、企業がsustainability statements に記載したプロセスが実施されたプロセスと整合しているか否かを評価し、そのプロセスがESRSの定める内容に整合しているか否かを判定できるような手続をデザインし、実行する。
  • 実施した手続及び入手した証拠に基づいて、そのプロセスがすべてのマテリアルなIROをESRSにしたがって開示することにならないと判断した場合には、保証報告書の結論にこの状況を反映する。

⑨ Responding to risks

  •  material misstatements( 重要な虚偽表示)が発生する可能性がある場合には、追加の手続をデザインし、実施する。不正及びその疑い、または識別された違法行為に起因する material misstatements のリスクに対応する手続を実施する。
  • 追加手続の例:調査、観察、確認、再計算、再実施、分析的手続、質問等の実施または組合せて実施する。
  • 詳細テスト( 実証性手続)及びコントロールテストは要求されないが、保証業務実施者がその環境において証拠を入手するために効果的であると考える場合には実施されることがある。
  • 手続の実施時期、範囲等はsustainability statements が 重要な虚偽表示がない( free from material misstatements)か否かを結論付けるためにデザイン、実施される。

⑩ Forward-looking information

  • 保証業務実施者は、forward- looking情報が開示されているとおりに実現することを保証することは期待されていないが、forward-looking 情報の生成に使用された手法が適切で一貫して適用されているか否かを含めて、forwardlooking情報に対しては批判的であり続けるべきである( should remaincritical with regards to forward-looking・ リスクの識別/評価のための手続によって識別されたforward-looking 情報が合理的でないと考えられる場合には、ESRSが求める情報の質的特性を追加して評価し、保証報告書の結論に対する implications を評価(evaluate) する。

⑪ Estimates

  • リスクの識別/評価のための手続によって識別された見積りが合理的でないと考えられる場合には、ESRSが求める情報の質的特性を追加して評価し、保証報告書の結論に対する implications を評価(evaluate) する。
  • 保証業務実施者は、企業が見積りに使用した仮定に対する詳細テスト( 実証性手続)の実施は要求されないが、見積方法を含めて見積に対しては批判的であり続けるべきである( should remain critical with regards to estimates)。

⑫ Communication between practitioners and other professionals

  • sustainability statements の保証業務実施者と financial statements の法定監査人との communication は、限定的保証業務の実施中の適当なタイミングかつ保証報告書/監査報告書にサインする前に行うこと。
  • communication の目的は、financial s t a t eme n t s と s u s t a i n a b i l i t y statements の connectivity に関してリスクと misstatements の情報を両者が共有すること。
  • 保証業務実施者は、f i n a n c i a l statements で開示された relevant m a t t e r s に関連する情報の sustainability statements で提供された情報との整合性を評価するために必要な範囲で法定監査人とコミュニケーションする(communicate)。
  • 保証業務実施者と法定監査人は、それぞれの業務に対して全責任を負う。
  • 法定監査と保証業務が同じ audit firmで実施される場合には、双方の業務のkey partners/leaders の間でコミュニケーション(communication) する。

⑬ Accumulation and consideration of identified misstatement(s)

  • サステナビリティ報告では、情報のタイプが多様であることから misstatements を累積(accumulate)できない。
  • 保証業務実施者は結論の前に以下を決定するためにすべてのmi sstatements を検討する。misstatements が1つなのか1つ以上なのか否か、すべて(規模、性質、数)を検討したときに利用者の意思決定に影響することが合理的に予想されるか 否か。

Ⅲ. Disclosures provided to address Taxonomy Regulation Article 8

ここに含まれる主な概要は以下のとおりです。

① Obtaining an understanding of the processes for determining eligible and aligned activities

  • 保証業務実施者は、企業が eligible activities( EUタクソノミーによってグリーンな経済活動になる可能性がある経済活動)、 aligned activities(EUタクソノミーによってグリーンな経済活動と判断される経済活動) を識別し、EUタクソノミー開示するために実施したプロセスを理解する。
  • 特に保証業務実施者は、連結範囲内の企業のすべての economic activities ( 経済活動)がプロセスによってカバーされているか否かを評価する、EUタクソノミー開示のフレームワーク( taxonomy reference framework )の観点からプロセスが要求事項に準拠しているか否かを評価する、EUタクソノ
    ミーのKPI に利用したデータが会計情報と一致させる( reconcile )ようなプロセスか否かを評価する。

② Presentation

  • 保証業務実施者は、EUタクソノミー開示がESRS及びEUタクソノミー開示のフレームワークに準拠しているか否かを評価する。特に、EUタクソノミー開示のフレームワークに定義されている各環境目標ごとに開示されていること、sustainability statements の環境セクションにclearly identifiable partとして
    開示されていること、EUタクソノミー開示のフレームワークに定められたルールに準拠して開示されていることを評価する。

③ Procedures on Article 8 disclosures

  • 保証業務実施者は、表示フォーマットを含めて開示がEUタクソノミーの開示フレームワークに整合しているか否かを評価する、eligible activitiesが aligned acti v ities となるためのcumulative conditions( 重層的要件)、特に、technical criteria( 技術的規準)と整合しているか否かを評価する、KPIその他の開示がEUタクソノミーの開示フレームワークに準拠しているか否かを評価する、EUタクソノミー開示の裏付けとなる会計データを financial statements と一致させ( reconcile )、必要な場合には法定監査人とコミュニケーションする(communicate )、開示が他の報告情報と整合しているか否かを評価する。

 

Ⅳ.Limited assurance report

ここに含まれる主な概要は以下のとおりです。

① Format and content

  • 保証報告書には、特に企業に関して以下の情報を記載する。限定的保証業務の対象となった企業、sustainability statement が連結か否か、sustainability statement の日付と期間、ESRS/EUタクソノミーの開示フレームワークを適用していること。
  • 保証報告書には、実施した限定的保証業務について以下の情報を記載する。限定的保証業務のスコープ、限定的保証業務のan identification of the standard(s) and/or pronouncement(s) 。
  • 保証報告書には、保証業務実施者の結論として、sustainability statements がrelevant legal requirements 及び ESRS(プロセスと開示情報、ダブルマテリアリティを含む)に準拠していること、Article 8 of the Taxonomy Regulation の情報(KPI )がEU Regulation に準拠していること、sustainability statements がdigitalisation requirements に準拠していることに関する記載を行う。
  • 保証報告書には、実施した手続のサマリーを記載する。

② Adapting the conclusion in the limited assurance report

  • 保証業務実施者の判断により、sustainability statements、EUタクソノミー開示に material misstatements が含まれている場合には、①限定的結論: qualified conclusion(misstatements is not pervasive )、②否定的結論: adverse conclusionを表明する。
  • 保証業務の制約に直面し、その制約がなければ material misstatements を発見できたか否かを判断できない場合には、①限定的結論:qualified conclusion( if the potential extent of the misstatements is not pervasive )、②結論不表明: disclaimer of conclusion とする。

Ⅴ.さいごに

CSRD開示に対する限定的保証業務の提供は、世界に先駆けて実施されるとともに、その対象範囲もCSRD開示と同様にESGすべてということで広範囲のサステナビリティ課題にわたっています。EUで始まる限定的保証業務の実務は、他の国/地域に対する先行事例として重要な意味を持つとともに、今後の保証実務の根幹を形成していく可能性があります。

また、開示企業サイドから考えてみても、初期における内部統制構築のレベル感の目線を提供することにもなり得ると思われます。

加えて、開示されるサステナビリティ情報の利用者にとっては、どのような手続を実施した結果として保証報告書が付されているのかを一定の目線で分析することが可能ではないかと思われます。

サステナビリティ開示は、グローバルな観点から考察したとしてもまだ草創期にあります。開示企業、保証業務実施者、情報利用者等の各ステークホルダーにとって、本稿で取り上げたガイドラインが共通の了解事項となってそれぞれのサステナビリティ開示に関する理解と深化の1つの礎になるものと考えています。

執筆者

あずさ監査法人
金融統轄事業部 兼 サステナブルバリュー統轄事業部
加藤 俊治/テクニカル・ディレクター

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