Article Posted date
06 December 2024
世界的なエネルギートランジション(EX)が加速するなか、再生可能エネルギー(再エネ)の普及・拡大、エネルギーおよび資源効率の向上、これらに関連するインフラの拡充を中心に、さまざまな分野で大規模な投資機会が生まれています。これら分野の事業機会に対して、石油・ガス企業のほか、金融投資家、政府、次世代エネルギーの開発事業者、再エネ開発・発電事業者、エネルギー集約型企業など、多岐にわたるプレーヤーが投資活動を活発化させています。
エネルギートランジション投資調査2024は、EX分野の投資に携わる投資家・企業、政策立案者、エネルギー集約型企業、エネルギー企業に対し、現在および将来の投資計画に影響を与えるトレンドに関して示唆を提供することを目的に、エネルギートランジションに携わる36ヵ国11セクターにわたる1,400人の経営幹部・投資家の見解を収集・分析したレポートです。本稿では、公共政策、市場の動向、技術の進歩、金融イノベーションによるEX投資への影響に加え、地政学的な不確実性、規制リスク、経済の変動性などに起因する課題について考察します。
エネルギートランジション投資調査2024における主なポイント
- 主要各国で金利の高止まりや不安定な地政学的情勢が続くなかでも、EX投資家・企業の72%がEX資産への投資は依然として急拡大していると考えています。また、多くの投資家がクリーンエネルギー技術やプロジェクトへの投資を引き続き積極的に進める意向を示しています。
- EX投資家・企業は、多様で幅広い事業機会に積極的に取り組んでいます。(以下、過去2年間における上位投資対象例:)
- 電化を含むエネルギー効率化技術(64%)
- 再生可能および低炭素エネルギー(56%)
- エネルギー貯蔵および電力網インフラ(54%)
- 輸送および関連インフラ(51%) - 化石燃料への新規投資を継続している割合は75%に上り、EX投資家・企業が秩序あるエネルギートランジションにおける化石燃料の役割を十分認識しています。近年、再エネの普及・拡大が急速に進むなかでも、今後20年間においては、化石燃料(特に天然ガス)は、エネルギーの安全保障という観点から依然として重要とされており、世界各地のエネルギー需要を満たすための追加投資が必要とされています。
- EX投資家・企業の94%がリスク管理を共有できるパートナー企業の確保を優先事項としています。業界や官民を超えたパートナーシップは、財務面でのリスク軽減にとどまらず、企業の優位性・強み、多様なインフラ、市場への影響力やリソース・専門知識を結集できることから、EXプロジェクトの成功に不可欠な要素であるといえるでしょう。
- 政策・規制リスクは、EX投資における最大の懸念事項(78%)となっています。これらのリスクは、EX投資家・企業にとって管理が難しいことから、高い不確実性によりEXの取組みに対する資本・資金供給を阻害する可能性があります。安定性と透明性を備え、一貫性のある規制環境が整備されることで、クリーンエネルギーおよびインフラ分野への長期的な投資機会はさらに拡大されるでしょう。
EX投資の規模化・拡充における論点
EX投資家・企業の大多数(72%)が、足元におけるEX資産に対する投資がますます加速していると考えています。実際、2024年に予定されている世界のエネルギー投資総額3兆米ドル(過去最高)のうち、約2兆米ドルがクリーンエネルギー技術およびインフラに向けられる見込みで、これは化石燃料への投資額のほぼ2倍に相当します1。この資金の4分の3が民間企業からの投資であることを加味すると、民間セクターがEX事業において主導的な役割を果たしていることは明らかです2。今回の調査から、EX事業を推進する事業者・投資家の見解を通じて、EXのトレンドに関する論点に対して以下の重要な示唆が得られました。
1 World Energy Investment 2024、 IEA、 June 2024
2 World Energy Investment 2024、 IEA、 June 2024
2 World Energy Investment 2024、 IEA、 June 2024
EX投資の対象
EX投資の対象としては、プロセスの電化、生産効率の向上、高効率技術の導入を目指す企業によって、エネルギー効率の向上を実現する技術が最も注目されており、回答企業の64%がこの分野に投資しています。また、再エネ、エネルギー貯蔵、輸送インフラに対する投資も重視されており、EX資産への投資が幅広く展開されていることが明らかとなりました。なお、これらの分野には、2024年に予定されている2兆米ドル規模のクリーンエネルギー投資の大部分が投入される見込みです。
EX投資で最も魅力的な地域
EX投資家・企業の半数以上が、東アジア、欧州、北米での投資に注力しています。また、昨今では、規制整備の推進や積極的な再エネ目標を掲げる東南アジアや中東への関心も高まりを見せています。一方で、アフリカや南米といった地域では、大規模なEX投資を誘致するために、さらなるインフラや規制の整備が必要となっています。
化石燃料投資の必要性
世界各地で地政学的情勢の不安定化が進むなか、石油やガスへの関心が再び高まっており、化石燃料の段階的廃止が依然として大きな課題であることが浮き彫りになっています。ただ、多くのEX投資家・企業は、再エネインフラの規模化・拡充が進むなかでも、化石燃料、特に天然ガスが、エネルギー安全保障を確保し、EXを安定的に管理・推進するうえで、重要な役割を果たし続けると認識しています。
EX資産に投資する理由
金融投資家と事業投資家は、それぞれ異なる優先事項をもって、EX投資に取り組んでいます。金融投資家が主に収益性の追求とポートフォリオの多様化を重視する一方で、事業投資家はエネルギー安全保障と規制遵守に重点を置いています。しかし、持続可能な取組みを求めるステークホルダーからの圧力がますます高まるなか、両者とも投資収益とリスク管理をEX投資における重要な判断基準としています。
EX投資家・企業が直面する主な課題
EX投資家・企業は、政策の急激な変更によって長期的な投資計画が阻害される政策・規制リスクに強い懸念を抱いています。また、新興市場では、インフラ整備の遅れが続くなか、マクロ経済の不安定性や革新的テクノロジーの性能やコストに関する不確実性がさらなる課題として浮上しています。
政策・規制によるEX投資への影響
固定価格買取制度やカーボンプライシング、各種脱炭素テクノロジーへの補助金などの政府支援策は、EXプロジェクトへの投資促進において重要な役割を果たしています。EX投資家・企業は、長期契約や入札といった収益の確実性を担保するメカニズムを好む傾向にあります。また、近年では、成熟した再エネ技術に関しては、固定価格買取制度から、より競争力とコスト効率の高い市場メカニズムへの移行が進んでいます。
EX投資におけるパートナーシップの役割
EXプロジェクトのリスク軽減と成功には、パートナー企業との協業が不可欠です。EX投資家・企業は、エネルギー事業者や金融機関、テクノロジー企業と協力のもと、専門知識の結集、コストの分担、そしてプロジェクトリスクの低減を実現しています。近年では、安定した収益を確保しながら大規模プロジェクトの資金調達が可能であることから、官民連携や電力購入契約(PPA)は、特に有力な協業手法の1つとして注目されています。
今後2年間におけるEX投資家・企業の期待と展望
EX投資は、今後2年間において、高金利の緩和、資材コストの低下、政府支援政策の拡充を背景に大幅な成長が期待されています。特に、エネルギー効率の向上、再エネ、輸送インフラは、特に魅力的な投資分野と見なされていますが、再エネのポテンシャルを最大限に引き出すには、電力網の統合やエネルギー貯蔵といったボトルネックの解消が必要となるでしょう。
おわりに
世界的に拡大するEXは、今世紀最大かつ最も重要な投資機会の1つです。
国際的な気候目標を達成するには、再エネ、エネルギー効率、関連インフラへの年間投資を2030年までに約3倍に拡大する必要があります。
規制、市場、技術の課題を克服するために必要なイノベーションやパートナーシップに資金を提供するEX投資家・企業は、今後さらにEX推進の中心的な役割を担うことが期待されます。