法人税等会計基準改正に伴う実務ポイント
旬刊経理情報2024年6月20日の「2024年6月第1四半期決算の直前対策」にあずさ監査法人の解説記事が掲載されました。
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この記事は、「旬刊経理情報(中央経済社発行)2024年6月20日号(No.1713)」に掲載したものを一部訂正したものです。発行元である中央経済社の許可を得て、あずさ監査法人がウェブサイトに掲載していますので、他への転載・転用はご遠慮ください。
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エッセンス
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1.はじめに
2022年10月28日に企業会計基準委員会(ASBJ)より、次の企業会計基準および企業会計基準適用指針(以下、あわせて「本会計基準等」という)の改正基準が公表されており、2024年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から適用されている。
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本会計基準等では、次の2つの項目について改正されている。
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本章では、本会計基準等の改正の概要について、設例を交えて説明するとともに、改正の影響を受ける取引または事象(以下、「取引等」という)をスクリーニングする際の留意点についても解説する。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめ申し添える。
2.税金費用の計上区分
1.改正の概要
(1)原則的な取扱い
本会計基準等の改正により、当事業年度の所得に対する法人税、地方法人税、住民税及び事業税(以下、「法人税、住民税及び事業税等」という)の計上区分の見直しが行われている。従来、法令に従い算定された法人税、住民税及び事業税等の額はすべて損益に計上されていたが、改正後は、その発生源泉となる取引等に応じて、損益、株主資本およびその他の包括利益(または評価・換算差額等)に区分して計上されることとなっている(法人税等会計基準5項、5-2項)。
(2)改正理由
改正が行われた理由は、主として、税引前当期純利益と税金費用の対応関係を図るためである。従来の法人税等会計基準では、その他の包括利益に計上された取引等が課税所得計算上の益金または損金に算入され、法人税、住民税及び事業税等が課される場合において、取引等についてはその他の包括利益に計上される一方で、これに対して課される法人税、住民税及び事業税等は損益に計上されることとなり、税引前当期純利益と税金費用の対応関係が図られていなかった。そこで、このようなその他の包括利益に対して課税される場合のほか、株主資本に対して課税される場合も含めて、所得に対する法人税、住民税及び事業税等の計上区分についての見直しが行われている。また、本改正によって、国際的な会計基準における処理との整合性も図られている(法人税等会計基準29-3項)。
(3)例外的な取扱い
前述(1)の取扱いにかかわらず、次のいずれかの場合には、該当する法人税、住民税及び事業税等を損益に計上することができるとされている(法人税等会計基準5-3項)。
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なお、後者に該当する場合として、本改正会計基準等の開発時点においては、退職給付に関する取引のみが想定されているが(法人税等会計基準29-6項、29-7項参照)、将来の会計基準の開発や税法の改正によって同様の状況が生じる可能性があるため、会計基準上は、退職給付に関する取引に限定した定めとはなっていない(本改正会計基準等の公開草案に寄せられた「主なコメントの概要とそれらに対する対応」(以下、「コメント対応表」という)論点の項目7参照)。
2.設例による解説
その他の包括利益に対する課税に関する会計処理は、本改正の前後で、それぞれ 設例1のとおりとなる。
(設例1)税金費用の計上区分(その他の包括利益に対する課税)
1.前提条件
- A社は取得原価1,000のその他有価証券を保有。
- X1期末におけるその他有価証券の時価は1,500であり、発生した評価益(その他有価証券評価差額金として計上)500は課税対象となった。この他に課税所得は生じていない。
- X2期中に1,700で売却。
- X1期およびX2期における法人税、住民税及び事業税等の税率ならびに法定実効税率は30%とする。
2.会計処理
X1期およびX2期におけるA社の会計処理は、本会計基準等の改正前後でそれぞれ次のとおりとなる。なお、本設例では、勘定科目の略称として以下を用いている。
勘定科目名 | 略称 |
その他有価証券評価差額金 | 評価差額金 |
法人税、住民税及び事業税 | PL法人税等 |
その他有価証券売却益 | 売却益 |
図表1 X1期の仕訳
(1)その他有価証券の時価評価益500=X1期末時価1,500ー取得原価1,000
(2)法人税、住民税及び事業税等150=その他有価証券の時価評価益500×法人税、住民税及び事業税等の税率30%
(3)評価・換算差額等(評価差額金)への振替額150=その他有価証券の時価評価益500×法定実効税率30%(下記【関連論点】参照)
【関連論点】その他の包括利益に計上する金額の算定
その他の包括利益(または評価・換算差額等)に対して課される法人税、住民税及び事業税等は、本会計基準等の改正により、その他の包括利益(または評価・換算差額等)に計上されることとなるが(法人税等会計基準5項(2)及び5-2項(2)参照)、その金額の算定は、その他の包括利益(または評価・換算差額等)の区分に計上した額に、課税対象期間における法定実効税率を乗じることにより行う(法人税等会計基準5-4項参照)。 ただし、課税所得が生じていないことなどから法令に従い算定した額がゼロとなる場合、株主資本またはその他の包括利益に計上する法人税、住民税及び事業税等についてもゼロとするなど、他の合理的な計算方法により算定することができる(法人税等会計基準5-4項)。 |
【関連論点】リサイクリング
その他の包括利益(または評価・換算差額等)に計上した法人税、住民税及び事業税等については、過年度に計上したその他の包括利益(または評価・換算差額等)を損益に計上(リサイクリング)した時点で、これに対応する税額も損益に計上(リサイクリング)する(法人税等会計基準5-5項)。 なお、本設例とは関係ないが、その他の包括利益(または評価・換算差額等)に法人税、住民税及び事業税等を計上した後、リサイクリングがなされるまでに税法の改正に伴い法人税、住民税及び事業税等の税率が変更される場合、税率の変更により生じる差額は税率の変更時においてはリサイクリングさせない(法人税等会計基準29-10項)。 |
3.改正の影響を受ける取引等のスクリーニング
本改正により、「株主資本に対して課税される場合」と「その他の包括利益に対して課される場合」において、改正の影響を受けることとなる。しかし、前者の「株主資本に対して課税される場合」については、従来から税効果適用指針等において個別に手当てがなされており、「改正企業会計基準27 号『法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準』等の公表」(以下、「本会計基準等の公表」という)によれば、図表1の場合を除き、本会計基準等の改正による影響は生じないとされている。したがって、実務では、後者の「その他の包括利益に対して課税される場合」について、個別に検討することが重要となる。「本会計基準等の公表」において、該当する取引等の例として(図表2)の取引等が示されている。本改正の影響を受ける取引等はそれほど多くはないと考えられるため、まずはこれらの取引等を把握しておくことが重要と考えられる。
なお、過年度の取引等に関しては経過措置が定められており、適用初年度の累積的影響額を、適用初年度の期首の利益剰余金に加減するとともに、対応する金額を資本剰余金、評価・換算差額等またはその他の包括利益累計額のうち、適切な区分に加減することができるとされている(法人税等会計基準20-3項)。
(図表1)株主資本に対して課税される場合において本改正の影響を受ける取引等
子会社に対する投資の追加取得や子会社の時価発行増資等に伴い生じた親会社の持分変動による差額に係る連結財務諸表固有の一時差異について、資本剰余金を相手勘定として繰延税金資産または繰延税金負債を計上しており、その後、当該子会社に対する投資を売却した場合 |
(図表2)その他の包括利益に対して課税される場合の例示
(1) | グループ通算制度の開始時または加入時に、会計上、評価・換算差額等またはその他の包括利益累計額が計上されている資産または負債に対して、税務上、時価評価が行われ、課税所得計算に含まれる場合 |
(2) | 退職給付について確定給付制度を採用しており、連結財務諸表上、未認識数理計算上の差異等をその他の包括利益累計額として計上している場合において、確定給付企業年金に係る規約に基づいて支出した掛金等の額が、税務上、支出の時点で損金の額に算入される場合(注) |
(3) | 非適格組織再編において、会計上、評価・換算差額等またはその他の包括利益累計額が計上されている資産または負債に対して、税務上、時価評価が行われ、課税所得計算に含まれる場合 |
(4) |
投資をしている在外子会社の持分に対してヘッジ会計を適用している場合などにおいて、税務上は当該ヘッジ会計が認められず、課税される場合 |
(注)退職給付に関する取引については、通常であれば、金額の算定が困難な場合(前述(1)(3)の「例外的な取扱い」)に該当するとされている(コメント対応表論点の項目7参照)。したがって、上記の例示には記載されているが、金額の算定が困難な場合に該当すると判断された場合には、本改正の影響を受けないこととなる。
4.四半期特有の会計処理への影響
四半期の税金費用の計算方法について四半期特有の会計処理(税引前四半期純利益に年間見積実効税率を乗じて税金費用を計算する方法)を採用している場合において、株主資本およびその他の包括利益に区分される税額がどのように取り扱われるかについては明文の規定が存在しない。この点については、コメント対応表の論点の項目5において取扱いが記載されており、図表3のようになるとされている。
(図表3)四半期特有の会計処理を行う際の取扱い
3.グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果
1.改正の概要
本改正により、グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る連結財務諸表上の税効果会計について、見直しが行われている。具体的には、連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益について、税務上、当該売却損益を繰り延べる場合(法法61の 11)、「子会社株式等の売却損益に係る一時差異」と「子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の一時差異」に係る税効果会計が、それぞれ図表4および図表5のとおり改正されている。
(図表4)改正の概要(子会社株式等の売却損益に係る一時差異に対する税効果の取扱い)
改定前 | 改正後 | |
個別財務諸表において子会社株式等の売却損益に係る一時差異に対する繰延税金資産または繰延税金負債が認識されている場合における連結財務諸表上の取扱い | 税効果を取り崩さない | 税効果を取り崩す |
※個別財務諸表において、子会社株式等の売却損益に係る税効果が認識されている場合、改正前は、当該税効果を取り崩さないこととされていたが、改正後は取崩しを行うこととなっている。なお、法人税法 61 条の 11 に規定されている、課税所得計算上、繰り延べられた損益を計上することとなる事由(たとえば、購入側の企業による当該子会社株式等の再売却等)についての意思決定がなされた時点において、当該取崩額は戻し入れる(税効果適用指針39項)。
(図表5)改正の概要(子会社投資に係る連結財務諸表固有の一時差異の取扱い)
子会社株式等の売却の意思決定等を行ったが、売却時において、税務上の要件を満たし課税所得計算において売却損益が繰り延べられるとする(法法61 の 11)。
この場合、子会社株式等の売却の意思決定を行った年度における子会社投資に係る連結財務諸表固有の一時差異に対する税効果会計は次のとおりとなる。
改正前(1) | 改正後(1) | 税効果適用指針 | |
繰延税金資産 | 認識する(2) | 認識しない | 22項 |
繰延税金負債 | 認識する | 認識しない | 23項 |
(1)改正前は、グループ法人税制により売却損益が繰り延べられる売却等の意思決定であっても、売却等の意思決定を行ったのであれば、その時点で税効果を認識し、その後の売却年度において、売却により解消する一時差異に係る税効果を取り崩すこととされていた。一方、改正後は、グループ法人税制により売却損益が繰り延べられる売却等の意思決定については、税効果を認識しないこととされた(税効果適用指針22項、23項)。
(2)繰延税金資産は回収可能性があることを前提としている。
2.改正理由
改正が行われた理由は、連結財務諸表上の税引前当期純利益と税金費用の対応関係を図るためである。税引前当期純利益と税金費用を合理的に対応させることが税効果会計の目的とされているなかで、従来の会計処理は、連結決算手続上、消去される取引に対して税金費用を計上するものであり、税引前当期純利益と税金費用の対応関係が図られないものとなっていたため、この点を改善するために、本改正が行われている(税効果適用指針143-2項)。
3.設例による解説
連結会社間における子会社株式の売却に伴い生じた売却損益を税務上繰り延べる場合の連結財務諸表上の会計処理は、本改正の前後で、それぞれ設例2のとおりとなる。
(設例2)連結会社間における子会社株式の売却に伴い生じた売却損益を税務上繰り延べる場合の連結財務諸表上の税効果会計
1.前提条件
- P社はA社株式(個別財務諸表上の簿価および税務上の簿価=100)を保有。
- X1期において、P社は、P社の完全子会社であるS社に対して、A社株式を130で売却することを意思決定し、X2期において売却を実施した。
- グループ法人税制により、上記の売却益30に対する課税は繰り延べられるものとする(法法61 の 11)。
- S社においてA社株式の売却の予定はない。
- X1期およびX2期におけるA社株式の連結財務諸表上の簿価は150とする。
- X1期およびX2期における法定実効税率は30%とする。
2.連結財務諸表における繰延税金資産および繰延税金負債の計上額
X1期およびX2期におけるP社の連結財務諸表における繰延税金資産および繰延税金負債の計上金額は、本会計基準等の改正前後でそれぞれ次のとおりとなる。
( ):繰延税金負債
X1期(売却の意思決定年度)
改正前 | 改正後 | |
A社株式に係る連結固有の一時差異(50)(1) | (15)(2) | - |
(1)連結財務諸表上の簿価150-P社の個別財務諸表上の簿価100
(2)A社株式に係る連結固有の一時差異50×法定実効税率30%X2期(売却の実行年度)
改正前 | 改正後 | |
A社株式売却益に係る一時差異(30) | (9)(3) | - |
A社株式に係る連結固有の一時差異(20)(4) | -(5) | - |
(3)A社株式売却益に係る一時差異30(=売却額130-売却原価100)×法定実効税率30%
(4)連結財務諸表上の簿価150-S社の個別財務諸表上の簿価130
(5)S社において、A社株式の売却予定がないため、X1期に計上したA社株式に係る連結固有の一時差異に対する繰延税金負債15については、売却の実行時に取り崩す(改正前税効果適用指針39項)
4.改正の影響を受ける取引のスクリーニング
本改正の影響を受ける取引は、法人税法61条の11に基づき譲渡損益が繰り延べられる「子会社株式等(子会社株式又は関連会社株式)」の譲渡である。本改正の影響を受ける取引を識別する際の留意点としては、次のような事項が挙げられる。
まず、法人税法61条の11が適用される取引は、完全支配関係(100%の支配関係)のある法人間の取引のみであるため、完全支配関係のない連結会社間の取引には適用されない点に留意が必要となる。なお、完全支配関係のある法人間の取引であっても、グループ通算制度を適用している場合には本改正の影響を受けないものと考えられる。これは、通算子会社株式を他の通算会社に売却した際に生じる譲渡損益は、損金または益金に算入されないものの、留保項目ではなく社外流出として処理されるため(法法61の11(1)(8)、法令9一チ)、一時差異に該当しないためである。
次に、グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果の取扱いについては、適用初年度における経過措置の定めがなく、遡及適用をする必要があるため、過年度に生じた取引についても、売却元企業の税務申告書等により把握する必要がある点にも留意が必要である。
執筆者
有限責任 あずさ監査法人
シニアマネジャー 公認会計士
荒巻 賢(あらまき けん)