製品の選択時に環境への貢献度が考慮される昨今、その価値を可視化する動きが加速しています。
本稿では、サステナビリティ経営を実現する手段として、注目される製品の環境価値表出のアプローチと、企業が注意すべきポイントを解説します。
目次
【製品の環境価値とは】 製品の環境価値とは、製品が環境に与える影響や、その製品が持つ環境への貢献度を総合的に評価する考え方です。排出量取引やカーボンクレジットなどの環境価値の取引だけではなく、環境貢献の成果を製品の付加価値と捉えることでサステナビリティの取組みを企業活動に組み込めるため、今後さらに重要度が高まることが予想されます。製品の環境価値を可視化する主要な算出方法として、製品ライフサイクルアセスメント(以下、LCA)やカーボンフットプリント(以下、CFP)、削減貢献量などのさまざまな手法が存在しています。 |
1.製品の環境価値表出を通じたサステナビリティ経営の推進
2.目的設定の重要性
製品の環境価値表出による効果は、サステナビリティリスク回避から製品の競争力向上による機会獲得まで多岐にわたります。そのため、ただ単に製品の環境価値を評価し、主要なラベルや環境認証を表示するだけでは事業を通じた本質的なサステナビリティの取組みとして不十分と言えます。また、根拠のない環境価値の表出はグリーンウォッシュとして認識される可能性もあるため、実際の取組みに裏付けられた目的設定が必要です。
自社製品に適した法規制や消費者・業界団体などの外部動向を踏まえて、環境価値表出を通じて目指したい姿を明確にすることが可能です。このように目標設定を行うことで、企業活動とサステナビリティの両立を実現する製品の環境価値表出の第一歩が踏み出せます。
【環境価値表出に期待される効果】
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3.多様化する環境価値の訴求方法
【主な価値訴求パターンおよびISO環境ラベルとの対応】
一方で、グローバル市場では、グリーンウォッシュを回避するために製品のライフサイクルを考慮した客観的かつ第三者が検証可能な評価、および情報の受け手に対する誤解のない表示が求められています。このことから、企業が持続可能な競争力を維持・向上するためには、グローバル基準に適応する透明性と信頼性が担保された自社製品の環境価値訴求を目指した取組みが必要です。
【環境価値表出におけるグローバル基準への適応ポイント】 (1)多項目での環境影響評価 (2)訴求方法に応じた評価手法の採用 (3)環境データの透明性確保 (4)第三者による適合性証明 (5)消費者への正しい情報開示 |
また、環境価値の評価や表出は、それ自体で終わりではありません。環境表示に関する規制や国際動向のモニタリングを行ったうえで、市場ニーズをいち早く捉え、環境価値表出の取組みを継続的に高度化する仕組みづくりが求められます。
4.製品の環境価値表出に向けたアプローチ例
STEP1:製品ごとの目的・対応優先度整理
各製品の特性と自社戦略における位置づけを把握し、環境価値表出の目的および優先度を決定します。
(1)製品ごとの環境把握
まず、目的・優先度を決定するために製品ごとに以下の項目で内部・外部環境を把握します。
製品の市場および顧客特性 |
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外部環境 |
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内部環境 |
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(2)目的・手法整理
次に、内部・外部環境の調査結果を踏まえて、製品ごとの環境価値表出の目的を大きく「リスク回避」、「機会獲得」の両方で検討します。またこの時点で、目的に応じた製品環境価値の評価手法や訴求方法、訴求効果の測定方法を暫定的に設定します。
【主な目的の例】
リスク回避 |
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機会獲得 |
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(3)優先度付け
さらに、製品ごとに整理した目的および手法から主に以下の判断軸で対応優先度を検討し、先行着手すべき製品の特定を行います。
- 対応の遅れが事業継続のノックアウトファクターとなるか
- 環境価値評価・ラベル/認証取得にかかる暫定工数・コスト
- 自社マテリアリティとの関連性
次に、環境価値表出に向けた具体的な取組みを開始し、対象製品拡大を目指した計画を行います。
(1)先行対象の取組み詳細化・実行
評価や認証に必要な環境データやプロセスを特定し、必要に応じて評価手法・訴求方法の見直しを行います。各事業部門との連携や進捗管理を円滑に行うため、この段階で自社リソースやサステナビリティ目標等を鑑みた取組み全体の中長期スケジュールを作成することが望ましいです。その後、策定した計画に基づいて先行対象製品に対する具体的な取組みを開始します。
(2)他製品の方向性検討・対応拡大
先行対象への対応時に得られた学びやフィードバックを踏まえ、他製品に対する中長期的な取組みの方向性を明確化し、順次対応製品を拡大します。複数の製品に対して同時進行で取組みを進める場合は、環境価値表出にかかわる全社的な方針を各部門の担当者に適切に伝え、全体の統制を取る機能を備えることが重要です。
STEP3:リスク回避・高度化の仕組み構築
環境価値表出の効果を持続的にするためには、リスク回避・高度化の両方に対応可能な仕組みとガバナンスが必要です。まず、環境価値表出において特に注意すべきグリーンウォッシュやコンプライアンスリスクを回避するには、一連の取組みを統制するための全社的なガバナンス強化が不可欠です。また、社内外の要請や市場ニーズに対するセンシングを強化し、環境価値表出や訴求方法の高度化を推進する仕組みを確立することが求められます。
ここでは、「組織/体制」、「プロセス」、「システム」の3つの観点で仕組み構築のポイントを紹介します。
(1)組織/体制
- 日々変化する内外動向のタイムリーな把握や、各部門の取組み状況をモニタリングするための体制や各組織の役割を明確化
(2)プロセス
- 全体計画における各製品の取組み水準や進捗を考慮し、想定される業務・支援機能を設計
- 継続的に取組みを見直し・高度化することを目的に、「探索→実行→学習→修正」を繰り返すプロセスとなるような仕組みを構築
(3)システム
- 製品の環境価値表出に必要な環境データの管理方針や、維持および更新のマネジメントプロセスを設計
5.おわりに
国や企業・消費者の選択において、今後より一層製品の環境価値が重要視されることが予想されます。製品の環境価値表出を通じて新しい市場への適応を行うことは、事業目標とサステナビリティ目標の関連性を高めることにつながります。したがって、このような動向は企業にとって、サステナビリティ経営に向けた絶好の機会であると捉えることができます。
そのためには、製品ごとに環境価値表出に取り組む意義を明確化し、最適な手法・訴求方法を選択する必要があります。また、リスク回避と高度化に向けた仕組みを構築し、全社的な取組みのモニタリング、そして市場・ステークホルダーからの要請を継続的にセンシングすることで、製品の環境価値表出の効果を持続的に高め、サステナビリティを事業戦略に組み込むことで企業価値向上につなげることが重要となります。
※本文の解説にあたっては、以下の公式サイトを参考にしています。
- 環境省「環境ラベル等データベース」
執筆者
KPMGコンサルティング
マネジャー 渡邊 秀人
シニアコンサルタント 加々見 真帆
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