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世界46の国と地域に展開する650の拠点ネットワークを生かして、海上・航空貨物輸送、倉庫・配送サービス、サプライチェーンマネジメントなど、顧客企業に適切なソリューションを提供する郵船ロジスティクス。温室効果ガス(GHG)排出量を可視化・削減したいという顧客の要求に応え、国内のフォワーダーに先駆けて、持続可能な航空燃料であるSAF(Sustainable Aviation Fuel)を利用した輸送サービスを提供している。 KPMGコンサルティングは、このサービスモデルの設計と展開準備を支援した。
【インタビュイー】
郵船ロジスティクスグローバルマネジメント株式会社
サプライチェーン・ソリューショングループ グループ長 アイリーン・トン氏
郵船ロジスティクス株式会社
エアフレイトフォワーディンググループ 副グループ長 ケビン・チア氏
KPMGコンサルティング株式会社
パートナー 金子 直弘
アソシエイトパートナー 中野 裕介
サステナブルな物流に貢献するSAFを利用した航空輸送サービス
物流によって排出される温室効果ガス(GHG)は、世界全体の排出量の15~20%近くを占めるとされている。そのため、航空・陸上・船舶の輸送で排出されるGHGをどう抑制するかが、2050年のカーボンニュートラル実現に向けた重要なテーマの1つとなっている。
航空輸送のGHG排出量を削減する方法として注目されているのが、持続可能な航空燃料であるSAFの活用だ。SAFとは、石油を原料とするケロシン(ジェット燃料)の代わりに、食料油などの廃油や植物、廃プラスチックなどの再生可能な原料から製造する“持続可能な”航空燃料の総称である。
SAFを利用するメリットは、その航空会社を利用する荷主のGHG排出量(スコープ3)削減にも寄与することだ。一般にSAFを利用する航空会社は、ケロシンと比べ、SAFによって「どれだけGHG排出量が削減できたか」を環境価値として示す証明書を発行する。荷主はその証明書をエビデンスとして、自社が利用した航空輸送におけるGHG削減量を開示できるようになる。
SAFがもたらす環境価値を活用したサービスは、航空会社が直接顧客に提供する以外の方法でもすでに始まっている。郵船ロジスティクスは、フォワーダーとして国内で先駆けて取組みを始めた。
「当社は、お客様のサプライチェーンマネジメントを最適化するワンストップソリューションを提供しています。早く、安価にという従来からのニーズだけでなく、カーボンニュートラルの実現というお客様の新たな課題にもお応えするため、SAFを利用するサービスを開始しました」。
郵船ロジスティクスグローバルマネジメントで、サプライチェーン・ソリューショングループを統括するアイリーン・トン氏は、こう語る。
郵船ロジスティクスは、顧客である荷主に代わって貨物の輸送業務を行うフォワーダー。自社では輸送手段を持たず、航空会社や海運会社などと契約することで荷主の貨物を運ぶ役割を担う。2023年4月に同社が開始したサービス「Yusen Book-and-Claim」は、SAFを燃料の一部として利用することで、航空輸送量に応じてGHG排出削減量を航空会社から取得し、同社が保有する削減割当量(以下、SAF割当量)を荷主に提供するという、SAFを利用した輸送サービスである。
【Yusen Book-and-Claim サービスイメージ】
「すでに多くの航空会社がSAFの活用を始めています。調達コストは、従来のケロシンの数倍から十数倍と非常に割高ですが、GHG排出量は約80%削減されます。航空輸送におけるカーボンニュートラル実現に効果が期待できる数少ない施策の1つであるため、日本政府は2030年までに航空燃料の10%をSAFに置き換える目標を掲げています。『Yusen Book-and-Claim』はこれに貢献する国内で先駆的なサービスだと言えるでしょう」。
KPMGコンサルティングのパートナー 金子直弘は、こう語る。
航空輸送によるGHG排出量を可視化する自社証明書を発行
郵船ロジスティクスは他にも、輸送におけるGHG排出量を算出するシステム「CO2 e-calculator」を公開するなど、カーボンニュートラル実現に向けて積極的に取り組んできた。
「現在当社は、『2050年までにお客様へ提供する全サービスのネット・ゼロエミッション化』を環境目標としており、航空だけでなく、海上、陸上など、あらゆる輸送手段において、効率化とともにGHG排出量の削減を重要テーマとしています」(アイリーン・トン氏)
そうした先進的な姿勢が、国内フォワーダーの中でも、いち早くSAFを利用したサービスを提供するという取組みにつながったかたちだ。ただし、ローンチ当初の「Yusen Book-and-Claim」のサービス内容は、郵船ロジスティクスにとって、必ずしも満足のゆくものではなかったという。
「当初はSAF割当量とともに、各航空会社が提供するGHG排出量削減証明書を提供していました。しかし、排出量の算定根拠は航空会社によって異なるので、各社の証明書をそのまま送ってしまうとお客様に混乱を招きかねません。そこで、各航空会社からの情報を集約し、当社独自の、信頼性が担保されたGHG排出量削減証明書を発行できないかと考えたのです」。
そう語るのは、郵船ロジスティクスのエアフレイトフォワーディンググループで副グループ長を務め、「Yusen Book-and-Claim」のサービス開発に携わったケビン・チア氏である。
自社でGHG排出量削減証明書を発行するには、その内容が信用に足ることを裏付ける第三者認証が必要である。これを取得するため、郵船ロジスティクスは、SAF関連のコンサルティングで豊富な実績があるKPMGコンサルティングに支援を要請した。
チア氏は、プロジェクトのパートナーとしてKPMGコンサルティングを選んだ理由について、「最も前向きかつ具体的に対応し、即時に動いてくれた点を高く評価しました。SAFで先行する欧米の動向はもちろん、日本におけるSAFの事情についてよく理解している点にも頼もしさを感じました」と振り返る。
KPMGジャパンの総力を結集して会計・税務処理の課題整理も実施
こうして、郵船ロジスティクスは2024年1月、「Yusen Book-and-Claim」の新しいサービスとして、自社によるGHG排出量削減証明書の提供を開始した。国内のフォワーダーとして先駆ける取組みである。
「当社は、『世界で認められ選ばれ続けるサプライチェーン・ロジスティクス企業』になることを目指しています。そのためには、業界に先駆けて新しいことにも積極的にチャレンジしていきたいです。お客様にとって、より使い勝手の良いGHG排出量削減証明書を自社で発行できるようになったことは、他社との大きな差別化要因になったと思います」とチア氏は語る。
また、郵船ロジスティクスは、GHG排出量削減証明書の第三者認証の他にも、「Yusen Book-and-Claim」のサービス拡充に関連して、KPMGコンサルティングにさまざまな支援を依頼している。その1つが、サービスを提供するために航空会社から調達したSAFの会計・税務処理に関する課題整理だった。
「SAFの価格には、燃料そのものとしての価値だけでなく、それを利用することでどれだけ環境負荷が低減されるのか、という環境価値も含まれます。この環境価値をどう算定するのかという定まった国際ルールはなく、会計・税務処理上の課題となっているのです」。
KPMGコンサルティングのアソシエイトパートナー 中野裕介はこう説明する。
KPMGコンサルティングは、有限責任あずさ監査法人、KPMG税理士法人とも連携しながら、国内外の制度や経済価値との照らし合わせを行い、「Yusen Book-and-Claim」のサービス提供に係るend-to-endでの業務プロセスやITツールの設計を支援した。
「本サービスは、燃料製造事業者から航空会社、フォワーダー、荷主までのバリューチェーン全体に影響を及ぼす注目度の高いサービスですが、ビジネススキームが発展途上なため、会計や税務を含め、検討が必要な事項は多岐にわたりました。今後も変化が続くことが予想される事業領域の黎明期に当たるこのタイミングで、郵船ロジスティクスのチャレンジ精神あふれる取組みの支援にかかわることができたことは、大変光栄です。今後も、SAF活用に代表される物流事業のサステナブル化に貢献できることを願っています」(金子)
国内ではSAFに関する制度など、まだまだ不確定な部分が多いなかで、先進的な姿勢でいち早くサービスを提供した郵船ロジスティクス。
トン氏は、「郵船ロジスティクスのネットゼロに向けた取組み、お客様のニーズに応えるべき領域は、航空輸送だけにとどまりません。グローバルに展開するサプライチェーン・ロジスティクス企業として、今後は、海上や陸上輸送でも『Yusen Book-and-Claim』のようなサービスを検討していきます。KPMGコンサルティングには、引き続き有益なご提案をお願いしたいです」と語った。
KPMGコンサルティングは、郵船ロジスティクスをはじめとするクライアントの包括的な支援を通じて、サステナブルな社会の実現に貢献します。