今日のビジネス環境は、絶え間なく変化する市場やテクノロジーの急速な進化により、事業予測が一層困難になっています。サステナビリティへの取組み強化や製造業での規制導入など、企業は環境意識の高まりへの対応を求められています。また、働き方改革の進展により、個人情報保護や就業規則の見直しなど、新たな課題にも直面しています。これらの変化に対応すべく、属人的な分析・評価プロセスを行う企業も多く、柔軟な対処は困難な状況にあると言えます。

こうしたなかで注目されているのが、AIやビッグデータ等の新技術を活用する「レグテック」です。レグテックは、2008年の世界金融危機後に金融機関の規制対応業務の自動化・効率化を支援する「フィンテック」の一環として生まれました。しかし、その後は金融を超えた幅広い産業界へと適用が広がり、独立した概念となりました。レグテックの本質は、AIや高度なデータ解析によって、企業の事業活動と規制・社会環境の整合性を的確に評価し、持続可能な企業経営を実現することにあります。

本稿では、全3回にわたり、法規制などの外部環境に対応した企業の事業活動の課題、その課題に対して自然言語処理を含むAI技術を織り込んだレグテックによってどのようにして企業活動と外部環境との高度な評価を可能とするのか、そしてその未来の展望について考察します。

法規制などの外部環境に対応した企業活動の課題

企業が製品やサービスを市場に展開する際、対象地域や国の法規制に準拠し、必要に応じて適切な認証を取得することが不可欠です。しかし、多様な要素が組み合わさり複雑化する製品やサービスでは、企業もその全貌の把握が難しくなります。特に、製品の一部が変更された場合、その変更が既存の法規制に対してどのような影響を及ぼすかを正確に理解することは一層困難になります。たとえば、製造業で複数の部品で構成されるアッセンブリユニットAにおいて、一部の部品が製造元の変更や材質の変更により交換された場合、このユニットAの機能や性能に生じる変化、および該当する法規制の認証を再取得する必要が生じるかどうかは、重要な問題です。

変更されるのは製品やサービスだけではありません。法規制(ガイドラインや指針を含む)の改定も常に行われています。これらの改定に伴い、企業が展開するすべての製品やサービスへの影響を正確に評価することは容易ではありません。この評価を適切に行わずに法改定後も準拠しない製品・サービスを展開し続けた場合、企業は罰金や訴訟リスクに直面するおそれがあります。一方、法改定に影響されないにもかかわらず、必要以上に製品・サービスを変更すると、不必要なコスト増加や市場への投入遅延の可能性もあります。

企業が市場に展開する製品やサービスが法規制に準拠し、適切な認証を取得する一連の業務をここでは「法規認証業務」と呼びます。この業務が年々、企業にとって質・量ともに重大な負担になっていることはすでに指摘しました。その背後には、技術的解決策への対応が困難な企業組織の構造に、根深い課題が存在します。これらの課題を下記図表に整理します。

この文脈における「課題」とは、組織が変化に柔軟に対応する能力の欠如、情報技術の活用における遅れ、あるいは法規制の変更に迅速に適応するプロセスの不在を指します。これらは、企業が法規認証業務において直面する主要なハードルとなり、市場への迅速な対応や競争力の維持を妨げる結果となります。また、企業が製品やサービスを展開するうえで法規制において直面する課題の要因を、A.属人化による経験・知識の偏り、B.人手による作業負荷大、C.法規制と事業の知識ギャップの3つに分類しました。

【法規認証業務における企業の課題】

No. 課題 要因
1 製品やサービスを開発する担当者ごとに経験や知識が異なるため、法規制の遵守に関して評価や対応の結果にばらつきが生じる A.属人化による経験・知識の偏り
2 社内で法規制改定の追跡を定期的に実施し、改定に応じた製品やサービス内容更新の要否判定がその都度必要となる B.人手による作業負荷大
3 法規制改定と製品やサービスへの影響評価の過程で、漏れや不要な業務が生じることがある C.法規制と事業の知識ギャップ
4 法規制担当者と開発担当者の間でコミュニケーションに多くの時間を費やしている B.人手による作業負荷大
C.法規制と事業の知識ギャップ

今回は、法規制などの外部環境に対応した企業活動の課題、要因を述べました。Part2は本稿の中編として、これらの課題に対応するために、自然言語処理を含むAI技術を活用することで、法規認証業務をどのように高度化していくのかについて考察します。

執筆者

KPMGコンサルティング
マネジャー 小久保 慎平

高速進化するAIがもたらす未来

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