新たな地平線:幻覚剤の時代(欧州及び英国における将来の規制の在り方の考察)
発生病理が不明とされるうつ病について、新しい治療オプションと作用機序の研究が待たれるなか、幻覚剤がその一助となる可能性が示唆されています。新時代が到来しつつある現状について解説します。
発生病理が不明とされるうつ病について、新しい治療オプションと作用機序の研究が待たれるなか、幻覚剤がその一助となる可能性が示唆されています。
いま幻覚剤が注目される背景と欧州及び英国における将来の規制の在り方
世界における心身の障がいの主な原因が精神疾患である現在、医療従事者は新たな治療オプションの 出現を待ち望んでいます(『The Lancet』、2020年)。うつ病の第1選択治療である抗うつ薬の処方件数は前年比で増加しており、最近の市場規模は約110億ポンドとされています(英国公衆衛生庁、2020年)。うつ病の有病率は、統計開始以来、減少していません。この矛盾の理由の1つとして指摘されるのは、現在の治療ではうつ病がなぜ、どのように発症するのかが説明されていないことです(Carhart-Harris、2021年)。これは、新しい画期的治療法と作用機序の研究が必要であることを示しています。
この20年で、適応症に対する治療目的での幻覚剤の使用を調査する臨床研究の件数は大幅に増加しました(Nichols、2016年)。現在、幻覚剤を使用した臨床試験には、主に学術機関によって資金提供 が行われています。グローバルデータ社(GlobalData) の臨床試験データベースによると、たとえばシロシビンの臨床試験では、現在進行中および計画中の第I~III相試験99件のうち、産業界による資金提供が22件のみであるのに対し、学術機関による資金提供は43件を占めています(Clinical Trials Arena、2022年)。これらの化学物質に関する研究が限定的であった1960年代から約40年間の、いわゆる「暗黒時代」(発表された研究件数が比較的少数)を経て、臨床研究の件数だけでなく、幻覚剤に基づく治療法を用いたポジティブなランダム化臨床試験(RCT)も増加しており、この分野における研究の新時代が到来しつつあります。
本レポートでは、幻覚剤研究の現状と法的根拠、幻覚剤の一種であるサイケデリック薬※が有する治療の可能性をもとに、欧州及び英国における将来の規制の在り方についてKPMG(英国)が作成したレポートであり、以下のような構成となっています。
※サイケデリック薬とは、幻覚剤の一種で、催幻薬などと呼ばれる。
目次
- Revival of interest in Hallucinogenic and Psychedelic research(幻覚剤およびサイケデリック薬研究への関心が復活)
- The Current Research Landscape(現在の研究状況)
- The Legal Basis of Psychedelics(サイケデリック薬の法的根拠)
- MDMA-Assisted Therapy for Post-Traumatic Stress Disorder(MAPP2-Trial)(MDMA-心的外傷後ストレス障害の治療支援(MAPP2試験))
- Treatment of PTSD with MDMA Assisted Therapy(MDMAを利用したPTSDの治療)
- Psylocybin for Treating Addiction-Alcohol Use Disorder(AUD)(サイロシビンを使ったアルコール依存症治療)
- Future Regulatory Landscape for Psychedelics(サイケデリック薬のための将来の規制の在り方)