BEPS2.0時代の税務ガバナンス~経営者の役割は税引後利益最大化を継続的に確保すること

国際課税や金融取引の課税等を主な専門とし、長年、政府税制調査会会長を務められた東京大学名誉教授で、KPMG税理士法人 研究顧問の中里 実氏と、KPMG税理士法人の代表 宮原 雄一が対談します。

国際課税や金融取引の課税等を主な専門とし、長年、政府税制調査会会長を務められた東京大学名誉教授で、KPMG税理士法人 研究顧問の中里 実氏と、KPMG税理士法人の代表 宮原 雄一が

2024年4月1日以後開始事業年度から、BEPS2.0 第二の柱であるグローバルミニマム課税制度(以下、「所得合算制度」という)が連結売上高約1,000億円超の日本の企業グループ(以下、「日系大手企業」という)を対象として適用されることとなり、日系大手企業は今まさに「税務ガバナンスが何であるか」を見つめ直すことを求められています。税とは「利益に応じて支払うもの」というこれまでの意識を脱却し、経営者は税引後利益を最大化することを目指すべく、管理体制の構築、そして変革を推し進めていかなければなりません。

税に関するコーポレートガバナンス体制の構築には何が必要でしょうか。また、税務ガバナンスを考えるうえで不可欠な視点とはどのようなものでしょうか。国際課税や金融取引の課税等を主な専門とし、長年、政府税制調査会会長を務められた東京大学名誉教授の中里 実 氏と、KPMG税理士法人の代表 宮原 雄一が対談します。

対談

(左)KPMG税理士法人 代表 宮原 雄一 (右)東京大学名誉教授 KPMG税理士法人 研究顧問 中里 実 氏

ガバナンスは「監視・統制すること」と動詞化して訳す

宮原:

2023 年度税制改正により、2024年4 月1日以後開始事業年度からBEPS2.0第二の柱である所得合算制度が適用されます。日本でも、日系大手企業は税務コンプライアンスの形が変わることは理解されているようですが、それによって自社の税務ガバナンス体制を変えて、税金を経営課題の1つとして捉えるということにまでは直結していないような気がします。それは、日本企業にとって税とは「利益に応じて支払うもの」という意識が強いからです。そのため、セミナーなどで「税は管理するものです」と言うと、驚かれたりします。これも、税とは利益に応じて義務的に決まるものであり、税引前利益の最大化を意識されているからだと思います。

 しかしながら、その認識のままでは税務ガバナンス変革を進めることはできないと思っています。中里先生は税務ガバナンスをどのようにお考えでしょうか。

中里:

まず、語源的に考えたいと思います。「govern」という動詞は、政府について用いれば「統治する」、企業について用いれば「管理・運営する」という意味ですが、これは同じことです。その「govern」には名詞が2つあり、1つは「governance」、もう1つは「government」で、両方とも同じような意味を持ちます。

「governance」という言葉を我々が使う場合、統治やガバナンスといったように名詞として理解していますが、これは「governすること」=「管理すること」、「統治すること」というように「〜すること」と訳すのが、内容を理解するために一番わかりやすいと思います。

中里 実 教授
中里 実 氏
東京大学名誉教授
KPMG税理士法人 研究顧問
長年にわたり東京大学や一橋大学において第一線で研究と教育に従事し、政府税制調査会会長を2013年6月から10年間務める。国際課税や金融取引の課税等を主な専門領域とし、BEPS(Base Erosion Profit Shifting、税源浸食と利益移転)に関する対応にも従事。2023年8月にKPMG税理士法人研究顧問に就任。

宮原:

企業との関連性についてはいかがでしょうか。

中里:

通常、コーポレートガバナンスの定義は「企業経営において公正な判断・運営がなされるよう監視・統制する仕組み」と言われていますが、「governance」に「仕組み」という意味はありません。ですから、「企業経営において公正な判断・運営がなされるよう、企業を監視・統制すること」と、名詞を動詞化して訳すのがわかりやすいと考えています。

私たち専門職業人にとっては、監視・統制する仕組みを確立する、その各論にこそ重要な意味があります。各論にも、内部統制システムをどう構築するか、コンプライアンスの確保をどのように行うか、監査体制をどのように構築していくか、リスク管理方式をどのように確保していくかなどいろいろありますし、専門家によって感覚も違うでしょうが、それを統合したものが「governance」、すなわち「governすること」になるのだろうと思っています。要するに、一定のルールに基づいて組織運営や利害調整、行動決定がなされるような体制をどのように確保していくかという視点で動詞的に考えていくべきでしょう。

経営者も税務の専門家も、考えるべきは「税引後利益を最大化すること」

宮原:

税務の担当者にとってのガバナンスは「いかに正しく税務コンプライアンスを行っていくか」ですが、経営層にとってのそれは「税金をどう考えるべきか」になるのだと思います。ところが日系大手企業では、税務は税務の担当者、会計はCFOと役割を分ける傾向が見られます。

宮原雄一代表
宮原 雄一
KPMG税理士法人 代表
1990年KPMGピートマーウィック(現KPMG税理士法人)に入所後、2002年より3年間、KPMGシリコンバレー事務所に駐在し、日系企業に対して米国税務アドバイザリー業務および駐在員に係る米国個人所得税の申告業務等を担当。 2014年にパートナーに就任し、2022年1月KPMG税理士法人代表に就任。クロスボーダー取引に係る国際税務サービス、多国籍企業の人事部に対する税務アドバイザリー業務に豊富な経験を有する。

中里:

自分の専門性を狭く捉え、他のことは知らないという感じになることはよくあることです。当然ですが、税務の専門家は税務に注力しなければいけないですし、監査の専門家はやはり監査に注力する。これは当然です。また、経営者はそれぞれの経営理念のなかで考えることになりますから、自らの領域に集中することになり、全体の統合が図られない可能性があります。結果として、経営者も含め専門職業人は視野狭窄となり、全体を見失ってしまう。そういう陥りやすい落とし穴があるのではないかと、常に考えています。

宮原:

重要な論点だと思います。税務ガバナンスの解釈も、それぞれの視点が異なりますので、視野が狭くならないように留意する必要があると思います。

中里:

20年くらい前、ノーベル経済学賞を受賞したスタンフォード大学のマイロン・ショールズ教授が書いた『Taxes & Business Strategy』をゼミで使ったことがあります。税務の専門家でもなく法務の専門家でもない経営の専門家が、税務という素材を使ってどのように経営を膨らませていくかという視点で書かれており、非常に面白い本です。そのゼミでは、租税支払の減少だけが目的ならば簡単で、1年間営業活動を行わなければいいのかもしれないが、これは税務の専門家のアドバイスとしては絶対に正しくないと説明しました。それでは、税務の目的は何か。税金を少なくすることではありません。税金は増えても構わないのです。それ以上に税引前利益が増えればいいわけですから。

私たち税務の専門家が考えるべきは、「税引後利益を最大化すること」です。そして、それを継続的に確保していくことこそ、経営者の役割なのだと思います。「税金を安くすることは税務の専門家にお願いします」と投げてしまうのも、税引前利益の最大化だけを考えるのも良くありません。ただし、変なやり方で税引後利益を最大化すると大変なリスクを負うことになりますから、それもよくない。あくまでも正しいやり方でやる。そのなかにガバナンスの体制構築が出てくるということです。

私は、経営者の皆さんには、税金というのは少なくするためにあるではないということをおわかりいただきたいと思っています。

中里 実教授

宮原:

日系大手企業は税引前利益を最大化するために、販管費や人件費の削減などを試みます。しかし、そこに手をつけるのならば、「これだけの税金を払う必要があるのか」というところに立ち返ることが大切です。すでに終わっている取引に手を入れようとすることは限界がありますが、事前にサプライチェーンを構築したり、ビジネスを検討する際に税金がどう影響するかを最初に考えれば、より税引後利益の最大化が実現できると思います。それが経営だと考えています。

中里:

税務も人件費も、単にコストとして削減する対象だというふうに理解する必要はありません。そのような考えもあると思いますが、企業ならば人件費が増えてでも、それ以上に利益が増えればいいと思います。税金もそうです。税金が増えても、それ以上に利益を出せばいい。その発想さえ頭の中に入れておけば、発展的な経営に結びつくのではないかと思います。

中立の立場で客観的に物事を見て、然るべく発言をする専門家が必要

中里:

そこで、KPMGジャパンは、クライアントのニーズとマーケットに対してMDM(multi-disciplinary management)の観点から、監査、アドバイザリー、税務の3つを面で捉えていく方針を打ち出しているとお聞きしました。これは面白い発想だと思います。

宮原:

我々のようなグローバルの会計事務所は、監査、アドバイザリー、税務を取り扱っていますが、監査クライアントに対してサービスを提供するものが限られたりすることもあり、それぞれを分けたほうがいいという議論が常にあります。

しかし、我々KPMGでは、クライアントに対する真のサービスとは、監査、アドバイザリー、税務の専門家が総合し、クライアントを面で捉えてサービスを提供することが必要だと考えています。それがクライアントに対してのサービスのクオリティを上げるものであり、KPMGが選ばれる存在であり続けられる源となります。

たとえば、これまでBEPSの情報は各国からeメールで送ってもらっていましたが、そうした手法にはやはり限界があります。そこで、新たなシステムが必要となればアドバイザリーのチームと共同開発したり、「これは会計上どう反映するのか」という事態になれば監査のチームとシステムを相談しながら進めたりします。クライアントからの情報に対して、各専門家がそれぞれ自分の専門性で議論をし、それに対して足りないものを相互に補完し合うというようなサービスを提供します。現在、我々が提供するサービスには、税務領域だけで終わる事案は少ないのが現状です。

中里:

昨年春くらいと記憶していますが、立法当局とBEPSの議論をしているときに、私達に監査が間に合うのかということに関する認識がないと感じたことがありました。そこでKPMGに問い合わせたところ、「こういうふうにしたら監査が間に合いません」とのご回答をいただきました。監査ができないようにする税法改正は問題だということを、当局にも理解していただきました。ただ、そのときに会計士の方には、BEPSの影響が監査に及ぶという意識があまりないように感じられました。

自分が今フォーカスしている問題の解決を主に考える。これは当たり前のことです。ただ、その結果として他にマイナスの波及効果が出るということは往々にしてあります。それを避けるためには、役所からも企業からも少し離れていて、客観的に物事を見られる人間が然るべく発言していくということが重要だと思います。

ガバナンス構築と専門人材の育成のために「ノーと言える環境」を確保すること

中里:

企業および税理士法人においても次の世代に引継ぐ、すなわち、専門人材を育てるというのは経営課題の1つですが、最近よく感じるのは、本末転倒のガバナンスになってしまっていることが多いことです。それをやったら組織が動かない、そういうことは往々にして起こるものです。「こういう方針を決めたのだから、これでいこう」という圧力は当然強いわけですけれども、そんなことを言っていたらどうにもならないということを最近、経験しました。

それは、ある重要なことを教え子にお願いしたところ、「できません」と断られたことです。今から30~40年前、私が若かった頃には、シニアの方々から何か頼まれたら有無を言わずにやったもので、断るという選択肢はありませんでした。でも、当然向き不向きがありますから、人によってはできないこともあります。でも、その教え子は「そんなことをしていては、本筋の研究活動ができなくなります」と、きわめて冷静に言ったのです。そう言われて、そういう視点を自分はもっていなかったのかもしれないと、私は気づきました。

そこで、2つのことを考えました。1つは「私は教え子たちがノーと言える環境を作り出した」という意味で、非常によかったと。無理強いしたら教え子が潰れてしまうかもしれませんからね。もう1つは、今度は自分自身のことですが、「シニアの先生からの頼まれごとが自分の研究にマイナスであろうがなんだろうが、私にはノーと言う選択肢がなかった」ということです。それについて後悔はしていませんが、ノーと言えなかった時代を生きた人間として、昔のことが切なく思えました。ですから、これからはノーと言える組織運営をしていこうと思ったわけです。

人それぞれに事情があります。親の介護もあれば子育てもある。その時間的な制約のなかで何を最大化していくかは、人によって違います。その選択肢を与えられず「ノー」と言えないのは、昔はそれでよかったのかもしれませんけれども、今はそれではだめなのだと思います。

ガバナンスも、一番重要なのはそこです。それぞれがいろいろな事情を抱えている。それを理解して、何かをその人に打診したときに、「申し訳ございません。今そこまで手が回りません」と言える環境であることが素晴らしいのです。

もちろんプロですから、やらなくてはいけないことは必ず達成すべきです。しかし、それにも限界がある。また、上司から見ればノーと言うことがわがままに見える場合も当然あると思います。ですが、それをわがままと受け取らないで、何かを断っても酷い目にあわない環境を確保することは、ガバナンスのイロハのイではないかと思うのです。誰かを不幸にする組織やシステムはよくないですし、長続きしないでしょう。

これをガバナンスというのかはわかりませんけれども、私はそれが今、とても重要だと思っています。ですから、できないことはできない。それをはっきりと言える組織を作れる経営者は、素晴らしい経営者なのだと思います。

宮原:

おっしゃるとおりだと思います。我々も「できるかわからないな」と思っていても、つい「できます」と言ってしまうことがあります。

中里:

キャパシティを超えたアサインメントがあったときに、それをやってしまう人はもちろんいるでしょう。しかし、仮にその時はできたとしても、それを継続的に続けていくと、いつかは潰れてしまうかもしれません。それはすごくもったいないです。もちろん、あまりサボられても困りますけどね。

だからこそ、「この人のキャパシティはここまでだな」、「この人は今、キャパオーバーだな」というのを細かく見る必要があります。労働法上のコンプライアンスがあるからそうすべきだというのではなくて、そういうふうにすることが結果的に最大のパフォーマンスを生み出す基になるからです。そういう発想が必要なのだと思います。一方で、プロフェッショナルはどうしたら自分のパフォーマンスを最高に発揮できるかを自分自身でも考え、上司とも相談すべきです。そのうえでパフォーマンスを維持し、そしてキャパオーバーで潰れないようにするのです。

プロフェッショナルは、お金と時間をかけて、非常に手間ひまかけてプロフェッショナルになっています。そういう優秀な人たちが潰れるということ自体が多大なる損失です。人それぞれキャパはあるけれども、そのキャパで活躍できる組織を作る。やはり、それがトップの責任なのだと思います。

全部やろうとせずに、優先順位の高いものだけをやる

宮原:

企業に対してガバナンスというお話をさせていただく時、スタートの気づきというのは、どのようにお伝えしていくべきでしょうか。

中里:

不祥事を起こす企業では、現場ができないことを上から要求されて、「できない」と言えないから隠蔽するということがよくあります。そういう環境で気合と根性でのし上がっていく人たちはいるでしょうが、100人中1人の根性の塊を生み出すために99人が傷ついているとしたら、パフォーマンスとしては良くないでしょう。

そして、不祥事が起こるのは、その会社だけの問題ではありません。おそらく社会にそういう風土があるから起こるのです。また、これは日本だけの問題ではないとも思います。いろいろな国で同じようなことが起こっているのではないでしょうか。ですから、今求められるのは、パフォーマンスを最大化するためにはどうしたらいいのかという視点です。競争は喧嘩だから、誰かが潰れてもいいというのは絶対に違います。競争で誰かが潰れてしまうのは損失です。

宮原:

そうですね。我々も、クライアントから「今これだけの業務があるが、内部ではここまでしかできない」と相談されることがよくあります。そうなると、コストを払ってでも外に出すのか、それともやめるかですが、ガバナンスを作るうえでは、何も今までのものをすべて踏襲しなくてもいいように思います。どこまで自社でやるのかを明確化することが重要と考えます。

中里:

そうですね。一方で、上司のなかには「こんなこともできないの?」と、若い部下についいってしまう人もいます。自分基準で、「私はあの時にこうやった」と言う人は多いものです。私は結構、無理難題を引き受けてきましたが、偶然にでしょうが何とかしてきました。でも、実はこれは、今の基準から見れば一種のハラスメントだったかもしれないかと思います。確かに、昔は当然のことだったのですが、今の若い世代には通用しません。そのような過大な要求のなかで生き延びたかどうかで人事考課がなされると、すごく殺伐とした組織になってしまうような気がします。

私はミニマックス選択、つまり、「生じ得る最大の損失の最小化」をすべきだと思っています。小さいミスはいくらあってもいい。でも、会社が潰れるほどのリスクは負わずに、全体としてうまく回るように、起こり得るリスクの最大のものをできるだけ小さくすることが重要です。それができる組織が今後の日本で伸びていくのではないかと思います。

宮原:

そういう組織を作ることがガバナンスと言えるかもしれません。企業からすると、やはりリソースをどれだけかけられるか、変わっていくことを評価できるか。また、それに対する人事考課もとても必要ですね。

中里:

柔軟さもすごく重要です。柔軟さというのは、すべての根幹なのではないかとさえ思うくらいです。税制改正の問題でも、私がいつも頭に入れているのは、「できることをできる順番で、できる範囲でやっていく」ことです。これさえ考えておけば、税制改正はなんとか先に進んでいきます。その時その時に周りを見て、「これは無理、現場がこれじゃもたない」とか、「これでは身体を壊してしまう」と思うのは、それはやはり無理があるということだからです。

我々のような税務の専門家は、厳格であることに自分の存在価値を見出していることがあります。監査の専門家も「何もこんなことを言わなくてもいいじゃないか」ということを結構言いますし、弁護士は弁護士で、法務のことでリジッドなことを言います。税務の専門家も、監査の専門家も、法務の専門家も、それぞれがすごくリジッドに仕事をして、お互いを圧迫しているところがあるわけで、それは宿命だと思います。しかし、なあなあだと困りますが、柔軟さをどう取り込むかも大事だと思います。

たとえば、中小企業や零細企業に対するインボイス制度や電子帳簿保存法の対応にしても、できないことを無理に要求して加算税を取るというわけにはいきません。法律で定めれば何でも対応できるというのならば、誰も苦労しませんから。世の中には、対応したくてもできない、対応する体力がないという会社も結構あるものです。

宮原:

おっしゃるとおりです。税理士の立場では「いい加減でいいですよ」とは言えませんが、何でもかんでも「やらないとだめだ」というのは少し違うような気がします。何ができて、何ができないのか。できなかったときに何が起きるか。そのうえでどこまでやるのか。優先順位を決める必要があると思います。

中里:

プライオリティは重要ですよね。私は若い頃、上司からタスクを5つ指示されたら、1番目と2番目は3日くらいで片付けましたが、残りは1週間くらい放置していました。そうすると、指示した人が忘れて、2つくらいタスクが消えてしまうことがある。結果として1つだけ残るので、それを処理する。そのやり方をしていたら、「君は何の仕事も早いね」と褒められたものです。時間が経つとやらなくてもよくなること、というのは良くあるものです。

宮原:

リソースは有限ですから、「今、全部は無理」ということはよくあります。そのときは、先生がおっしゃったように、やることとやらないことを決めることが重要ですよね。クライアントに対しても、これまで我々は10個のタスクを示して「これを全部やってください」と言っていたような気がします。そうすると、何からすればいいのかがわからない。もしくは、「全部をやるにはお金もないし、人もいないし、無理です」となっていました。でも、「10個のうち5個やればいい」と選択肢を与えれば、「これはできないけど、これはできる」となる。どちらにしても、税引後当期利益が増えることは同じなわけですから、それでいいのかもしれません。それを判断するのが経営者の仕事だと理解できます。

 

対談

中里:

そのとおりです。その優先順位づけはトップが判断すべきことです。そうでなければ、人が不幸になるだけです。

宮原:

今は何があるかわからないから、企業のトップもいろいろなケースを勉強して、「どれを選んでいただけますか」という判断をすることが多い。でも、それは非効率です。「この方法でいいのか」は経営トップが判断して、それに沿って「これは要るか、要らないか」を現場で判断する。それが「統治すること」ということなのだと思いました。

本日は貴重なお話をしていただきありがとうございました。