本連載は、「自動車産業変革のアクセルを踏む ~取り組むべきデジタルジャーニー~」と題したシリーズです。
第2回では、DXの実現に向けて必要とされる柔軟性の高いシステムの基本条件や、「クラウドシフト」に向けた企業の構え方を解説しています。

1.日本の自動車産業におけるレガシーシステム問題

日本企業のデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)を推進するうえで、レガシーシステムが足かせになっています。長年改修を重ねたテーラーメイド型システム(プログラム開発した自社独自システム)の全貌を知る有識者が定年を迎え、トラブル対応や仕様変更に時間がかかることが大きな要因と考えられます。特に、日本の自動車産業の場合、グローバルオペレーションの規模もその過程で蓄積してきたシステム資産も大きいため、レガシー化の影響も多大と言えます。

2.クラウドシフト~デジタルを活用したテクノロジーアーキテクチャへ~

DXの実現に向けては、事業部門側の要請に迅速に対応できる柔軟性の高いシステムへの転換が求められます。そのための基本条件としては「クラウドファースト」「コンポーザブル」「Fit to Standard」が挙げられます。

(1)クラウドファースト

「クラウドファースト」の狙いは、最新技術を常に取り込み可能な環境とするために、自社システムをクラウド上に移行することです。日本企業には、10年以上昔のOSやミドルウェア上で稼働しているシステムも多数存在しますが、経営層が老朽更新のタイミングでクラウド上への移行を最優先で検討する方針を提示し、技術的負債の解消や自社エンジニアのリスキリングの契機を積極的に作り出していく必要があります。

(2)コンポーザブル

「コンポーザブル」は機能単位で連携しやすいシステム構造にすることで、新規開発の負荷軽減や、機能の組合せで新たな価値を創出する考え方です。レガシーシステムのクラウド移行時には、既存プログラムの単純移植とせずに、機能分割とAPI化(他システムからの機能呼び出し手順の標準化)を施して、再利用性を高めることが望まれます。また、たとえば、メインフレーム上のシステムが、機能充足度やセキュリティ面で優れており、クラウド移行のデメリットが大きい場合も現実にはあると考えられます。そのような場合でも、同システムをAPI化することでクラウドサービスとの連携が容易になれば、システムの利用価値は高まることでしょう。

(3)Fit to Standard

「Fit to Standard」はSaaS型業務ソリューションの徹底活用です。自動車産業では、生産・販売・品質・輸出入にかかわるシステムはテーラーメイド型が多い傾向にあります。こうした基幹業務のシステム再構築にあたっては、ERP・CRM等の汎用業務ソリューションの標準機能を最大限活用し、そこから逸脱する要件はローコード開発ツールでサブシステムとして外付けし、API連携することで、メンテナンス性・機能拡張性の高いシステム構造を目指すことが望まれます。

以上の3点を基軸としたテクノロジーアーキテクチャの転換を「クラウドシフト」と呼びます。

【デジタル活用に向けたテクノロジーアーキテクチャの基本条件】

(1)クラウドファースト
最新技術・サービスの提供されるクラウドを自社システムの主要な設置場所とする

(2)コンポーザブル
API化し、他システムとの連携性や再利用性を高める
※SaaSは標準APIを多数完備

(3)Fit to Standard
SaaSとしての汎用業務ソリューション・特定業務ソリューションを標準機能で最大活用しシンプルで機能拡張性の高いシステム構造を維持する

自動車業界のDX:デジタルを活用したテクノロジーアーキテクチャ_図表1

3.クラウドシフトに向けた構え方

クラウドシフトの道程では、たとえばシステム基盤とアプリケーションチームの役割分担・セキュリティ基準・運用サービスレベル等、テーラーメイド型システム開発が与件としていた、仕事の進め方や判断基準の見直しが必要となります。こうした変化への対応は、CoE(Center of Excellence)組織を立ち上げ、専任メンバーによる標準化推進と現場課題の解決を通して、企業のナレッジとして蓄積することが望まれます。またCoEには、外部登用も含めて若年層社員に積極的に関与してもらうことで、将来にわたりDXを支えるコア人材の育成契機となるでしょう。

執筆者

KPMGコンサルティング
シニアマネジャー 堀合 昇平

自動車産業変革のアクセルを踏む~取り組むべきデジタルジャーニー~

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