2024年3月期決算の留意事項(会計)

2024年3月期決算においては、「電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い」及び「資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する取扱い」が適用されます。

2024年3月期決算においては、「電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い」及び「資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する

2024年3月期決算においては、「電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い」及び「資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い」が適用されます。また、「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」等の改正については2024年3月期決算から早期適用が可能です。さらに、執筆時点(2024年1月)で公開草案が公表されている「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針(案)」等及び「グローバル・ミニマム課税制度に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い(案)」については最終基準の公表日以後適用することが提案されています。執筆時点で最終化されていない会計基準等については公開草案の提案内容を紹介していますが、最終基準で変更される可能性がある点ご留意ください。

なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

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Point

  • 2024年3月期決算において、原則適用となる会計基準等は次のとおりである。
  1. 「電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い」
  2. 「資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する取扱い」
    また、執筆時点で公開草案が公表されている「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針(案)」等及び「グローバル・ミニマム課税制度に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い(案)」が2024年3月期までに最終化された場合は公表日以後適用となる予定である。
  • 2024年3月期決算において、早期適用が可能な会計基準等は次のとおりである。
  1. 「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」等

I.「電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い」の概要

2022年8月26日、企業会計基準委員会(ASBJ)より、実務対応報告第43号「電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い」(以下「実務対応報告第43号」という)が公表されました。

1.範囲

実務対応報告第43号は、株式会社が電子記録移転有価証券表示権利等を発行又は保有する場合の会計処理及び開示を対象としています。「電子記録移転有価証券表示権利等」とは、以下の金融商品取引法第2条第2項に規定される有価証券とみなされるもの(以下、「みなし有価証券」という)のうち、電子情報処理組織(いわゆるブロックチェーン技術等)を用いて移転することができる財産的価値に表示されるものをいいます。

  • 債券や株券等、有価証券に表示されるべき権利(有価証券表示権利)のうち、当該権利を表示する有価証券が発行されていないもの(金融商品取引法第2条第2項柱書)
  • 信託受益権、持分会社の社員権、集団投資スキーム持分等(金融商品取引法第2条第2項各号)

2.会計処理の基本的な考え方

電子記録移転有価証券表示権利等は、従来のみなし有価証券と権利の内容は同一であると考えられることから、その発行及び保有の会計処理は基本的に従来のみなし有価証券の発行及び保有の会計処理と同様に取り扱うこととしています。

3.発行の会計処理

従来のみなし有価証券の発行と同様、電子記録移転有価証券表示権利等を発行する場合の払込金額は、以下のように負債、株主資本又は新株予約権として会計処理を行います。

(1)  払込金額が負債に区分される場合

金融負債として、契約上の義務を生じさせる契約を締結した時に発生の認識を行い、その金額は原則として債務額をもって算定します。また、電子記録移転有価証券表示権利等に該当する新株予約権付社債の場合には、「払込資本を増加させる可能性のある部分を含む複合金融商品に関する会計処理(以下、「複合金融商品適用指針」という)等の定めに従います。

(2)  払込金額が株主資本又は新株予約権に区分される場合

資本金や資本剰余金等その内訳項目に区分し、その金額は会社法の規定にしたがって算定します。また、電子記録移転有価証券表示権利等に該当する新株予約権付社債の場合には、複合金融商品適用指針等の定めに従います。

4.保有の会計処理

(1)  金融商品会計基準等上の有価証券に該当する場合

「金融商品に関する会計基準」(以下、「金融商品会計基準」という)及び「金融商品会計に関する実務指針」(以下、「金融商品実務指針」という。また、両者合わせて以下、「金融商品会計基準等」という)上の有価証券に該当する場合、原則として契約上の権利を生じさせる契約を締結した時に発生の認識を行い、契約上の権利を行使した時、権利を喪失した時又は権利に対する支配が他に移転した時に消滅の認識を行います。

ただし、従来のみなし有価証券とは異なり、売買契約を締結した時点から電子記録移転有価証券表示権利等が移転した時点までの期間が短期間である場合には、約定日から受渡日までの期間が市場の規則又は慣行に従った通常の期間であるか否かを問うことなく、売買契約を締結した時点で、買手は発生を、売手は消滅を認識します。

また、貸借対照表価額の算定及び評価差額の会計処理は、従来のみなし有価証券と同様に行います。

(2)  金融商品会計基準上の有価証券に該当しない場合

金融商品会計基準等上の有価証券として取り扱われない一部の信託受益権については、金融商品実務指針及び実務対応報告第23号「信託の会計処理に関する実務上の取扱い」(以下、「実務対応報告第23号」という)の定めに従います。

ただし、金融商品実務指針及び実務対応報告第23号に基づき、結果的に有価証券として又は有価証券に準じて取り扱われるものについての発生及び消滅の認識は、上記(1)金融商品会計基準等上の有価証券に該当する場合と同様に行います。

図表1 株式会社が電子記録移転有価証券表示権利等を発行又は保有する場合の会計処理

  金融商品会計基準等上の有価証券
発行 該当する 該当しない
保有 発生及び消滅の認識 発生及び消滅の認識 原則として金融商品会計基準等に従うが、売買契約締結から移転までが短期間の場合、契約を締結した時点で発生又は消滅を認識する  原則として金融商品実務指針及び実務対応報告第2 3 号に従う(別途の定めあり)
貸借対照表価額の算定及び評価差額の会計処理 従来のみなし有価証券と同様 金融商品実務指針及び実務対応報告第23号に従う

5.開示

従来のみなし有価証券に求められる表示方法及び注記事項と同様としています。

6.適用時期

2023年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用されています。

II.「資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い」等の概要

2023年11月17日に、ASBJより、実務対応報告第45号「資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い」(以下、実務対応報告第45号) 及び企業会計基準第32号「『連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準』の一部改正」が公表されました。

1.公表の経緯

2022年6月に改正された「資金決済に関する法律」(以下、「資金決済法」という)において、いわゆるステーブルコインのうち、法定通貨の価値と連動した価格で発行され券面額と同額で払戻しを約するもの及びこれに準ずる性質を有するものが新たに「電子決済手段」と定義され、また、これを取り扱う電子決済手段等取引業者について登録制が導入され、必要な規定の整備が行われました。こうした状況を受け、ASBJは資金決済法上の電子決済手段の発行及び保有等に係る会計上の取扱いについて検討を重ね、その結果を実務対応報告として公表しました。

2.範囲

実務対応報告第45号は、資金決済法第2条第5項に規定される電子決済手段(図表2参照)のうち、第1号電子決済手段、第2号電子決済手段及び第3号電子決済手段を対象としています。ただし、外国電子決済手段(電子決済手段の利用者が電子決済手段等取引業者に預託している外国電子決済手段を除く)及び第3号電子決済手段の発行者側に係る会計処理及び開示については、実務対応報告第45号の適用範囲に含まれていません。

3.電子決済手段に係る会計処理

実務対応報告第45号では、対象となる電子決済手段が現金又は預金そのものではないが通貨に類似する性格と要求払預金に類似する性格を有する資産であることを踏まえ、以下のように会計処理及び開示を定めています。

(1)  電子決済手段の保有に係る会計処理

①取得時

受渡日に電子決済手段の券面額に基づく価額をもって資産として計上し、取得価額と券面額に基づく価額との間に差額がある場合、当該差額を損益として処理します。

②移転時又は払戻時

第三者に移転する時又は発行者から金銭による払戻しを受ける時は、受渡日に電子決済手段を取り崩し、電子決済手段の帳簿価額と金銭の受取額との間に差額がある場合、当該差額を損益として処理します。

③期末時

券面額に基づく価額をもって貸借対照表価額とします。

(2)  電子決済手段の発行に係る会計処理

①発行時

受渡日に電子決済手段に係る払戻義務について債務額をもって負債として計上し、発行価額の総額と当該債務額との間に差額がある場合、当該差額を損益として処理します。

②払戻時

受渡日に払戻しに対応する債務額を取り崩します。

③期末時

債務額をもって貸借対照表価額とします。

(3)  外貨建電子決済手段に係る会計処理

外貨建電子決済手段及び外貨建電子決済手段に係る払戻義務の期末時における円換算については、決算時の為替相場による円換算額を付します。

(4)  預託電子決済手段に係る取扱い

電子決済手段等取引業者又はその発行する電子決済手段について電子決済手段等取引業を行う電子決済手段の発行者は、電子決済手段の利用者から預かった電子決済手段を資産として計上せず、また、電子決済手段の利用者に対する返還義務を負債として計上しないこととしています。

(5) 開示

電子決済手段及び電子決済手段に係る払戻義務に関して、金融商品会計基準第40-2項に定める事項(金融商品の状況に関する事項、金融商品の時価等に関する事項、及び金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項)の注記を行います。

(6) 連結キャッシュ・フロー計算書等における資金の範囲

実務対応報告第45号の対象となる電子決済手段を「現金」に含めます。

4.適用時期

公表日の2023年11月17日以後適用されています。

図表2 資金決済法第2条第5項に規定される電子決済手段の分類

分類 内容
第1号 物品等の購入若しくは借り受け、又は役務提供の代価弁済のために不特定の者に対して使用でき、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却できる財産的価値( 通貨建資産に限る) *1、*2
第2号 不特定の者を相手方として第1号電子決済手段と相互に交換できる財産的価値( 通貨建資産に限る) *1、*2
第3号 金銭信託の受益権であって、信託契約により受け入れた金銭の全額が預貯金により分別管理されるもの( 特定信託受益権) *
第4号 上記に準ずるものとして内閣府令で定めるもの*3

*1 電子機器等に電子的方法で記録され、電子情報処理組織を用いて移転できることが要件となっている。
*2 有価証券、電子記録債権、前払式支払い手段(例えば、電子マネー)などは、原則として除外されている。
*3 実務対応報告

出所:KPMG作成

III.「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針(案)」等

 2023年10月6日に、ASBJより「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針(案)」及び「税効果会計に係る会計基準の適用指針(案)」、また日本公認会計士協会(JICPA)より「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」の改正案が公表されました。主な提案内容は次のとおりです。

  • 現物配当実施会社の個別財務諸表上、保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社株式に該当しなくなった場合、配当の効力発生日における配当財産の適正な帳簿価額をもってその他資本剰余金又はその他利益剰余金(繰越利益剰余金)を減額する取扱いを提案
  • 連結財務諸表上、個別財務諸表における配当の処理に加えて、配当前の投資の修正額とこのうち配当後の株式に対応する部分との差額を連結株主資本等変動計算書において処理すること、また、完全子会社株式を配当した場合の残存する当該被投資会社に対する投資(連結子会社が関連会社になった場合及び関連会社にも該当しなくなった場合)の取扱いを提案 
  • 保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社株式に該当しなくなった場合、連結決算手続の結果として生じる一時差異について、連結財務諸表固有の将来減算一時差異又は連結財務諸表固有の将来加算一時差異に準ずるものとして定義に追加することを提案

なお、適用時期は、公表日以後ただちに適用することが提案されています。

Ⅳ.「グローバル・ミニマム課税制度に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い(案)」

2024年1月24日に、ASBJより「グローバル・ミニマム課税制度に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い(案)」が公表されました。

本公開草案では、所得合算ルール(IIR)に係る取扱いのみならず、今後の税制改正により法制化される予定の軽課税所得ルール(UTPR)及び国内ミニマム課税(QDMTT)等の取扱いも含めて、税効果会計の適用にあたっては「税効果会計に係る会計基準の適用指針」の定めにかかわらず、グローバル・ミニマム課税制度の影響を反映しないこととするこれまでの当面の取扱いを国際的な動向等に変化が生じない限り継続することが提案されています。

Ⅴ.「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」等の概要

2022年10月28日に、ASBJより、改正企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」(以下、「改正法人税等会計基準」という)等が公表されました。これにより、その他の包括利益に対して課税される場合の法人税等の計上区分、及びグループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果に関する改正が行われています。

1. その他の包括利益に対して課税される場合の法人税等の計上区分に関する改正の概要

(1)  法人税等の計上区分についての原則

改正法人税等会計基準では、当事業年度の所得に対する法人税、住民税及び事業税等を、その発生源泉となる取引等に応じて、損益、株主資本及びその他の包括利益(又は評価・換算差額等)に区分して計上することとしています。

(2)  複数の区分に関連することにより、株主資本又はその他の包括利益に計上する金額を算定することが困難な場合の取扱い

例外的な定めとして、課税の対象となった取引等が、損益に加えて、株主資本又はその他の包括利益に関連しており、かつ、株主資本又はその他の包括利益に対して課された法人税、住民税及び事業税等の金額を算定することが困難である場合には、当該税額を損益に計上することができます。

なお、当該定めに該当する取引として、改正法人税等会計基準の開発時点においては、退職給付に関する取引が想定されています。

(3) その他の会計処理

①重要性が乏しい場合の取扱い

損益に計上されない当事業年度の所得に対する法人税、住民税及び事業税等の金額に重要性が乏しい場合には、当該法人税、住民税及び事業税等を当期の損益に計上することができます。

② 株主資本又はその他の包括利益に計上する金額の算定に関する取扱い

株主資本又はその他の包括利益の区分に計上する法人税、住民税及び事業税等は、課税の対象となった取引等について、株主資本又はその他の包括利益に計上した金額に、課税の対象となる企業の対象期間における法定実効税率を乗じて算定します。ただし、課税所得が生じていないことなどから法令に従い算定した額がゼロとなる場合に株主資本又はその他の包括利益の区分に計上する法人税、住民税及び事業税等についてもゼロとするなど、他の合理的な計算方法により算定することができます。

③ その他の包括利益の組替調整(リサイクリング)に関する取扱い

その他の包括利益累計額に計上された法人税、住民税及び事業税等については、当該法人税、住民税及び事業税等が課される原因となる取引等が損益に計上された時点で、これに対応する税額についてリサイクリングを行い、損益に計上します。

④ 関連する繰延税金資産又は繰延税金負債を計上していた場合の取扱い

子会社に対する投資における親会社の持分変動による差額に係る連結財務諸表固有の一時差異について、資本剰余金を相手勘定として繰延税金資産又は繰延税金負債を計上していた場合で、当該子会社に対する投資を売却し、一時差異が解消した際の繰延税金資産又は繰延税金負債の取崩しについては、資本剰余金を相手勘定として取り崩します。

⑤ その他の包括利益の開示に関する取扱い

その他の包括利益の内訳項目から控除する「税効果の金額」及び注記する「税効果の金額」について、「その他の包括利益に関する、法人税その他利益に関連する金額を課税標準とする税金及び税効果の金額」に改正しています。

2. グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果に関する改正の概要

(1)  連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益を税務上繰り延べる場合の連結財務諸表における取扱い、及び子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の一時差異の取扱い

連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益について、税務上の要件を満たし、グループ法人税制が適用され、課税所得計算において当該売却損益を繰り延べる場合(法人税法第61条の11)、連結財務諸表において以下の処理を行います。

  • 子会社株式等を売却した企業の個別財務諸表において、売却損益に係る一時差異に対して繰延税金資産又は繰延税金負債が計上されている時は、連結決算手続上、当該一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債を取り崩す
  • 購入側の企業による当該子会社株式等の再売却等、法人税法第61条の11に規定されている、課税所得計算上、繰り延べられた損益を計上することとなる事由についての意思決定がなされた時点において、当該取崩額を戻し入れる
  • 子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の一時差異について、予測可能な将来の期間に子会社株式の売却(売却損益を繰り延べる場合)を行う意思決定又は実施計画が存在しても、当該一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債を計上しない

3. 適用時期及び適用初年度の経過措置

2024年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から原則適用され、2023年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から早期適用することができます。

また、法人税等の計上区分については、適用初年度の期首から新たな会計方針を適用することができることとする経過的な取扱いが定められています。なお、グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果については、特段の経過的な取扱いは定められていません。

執筆者

あずさ監査法人
会計プラクティス部
花澤 徳裕/シニアマネジャー