現在、全国の自治体は2025年度中の標準準拠システムへの切り替えを目指し、職員は業務や住民サービスの再設計に、ベンダーは新たなパッケージシステムの開発に取り組んでいます。
近年、KPMGが国の標準化事業の支援、自治体の標準化推進を支援するなかで、標準化に向けた問題点や課題を現場の声として耳にする機会が増えてきました。特に、全国の自治体が一斉にシステムの切り替えを行うことから、人的リソースの不足は非常に大きな問題となっています。
そのような課題があるなかでの各自治体の取組みについて、現場の声を踏まえつつ、デジタル化・DX推進の観点から考察します。
1.各自治体における標準化への取組み
現在、全国の自治体は「地方公共団体情報システムの標準化に関する法律」(以下、標準化法)に基づき、各自治体で利用する基幹業務システムの統一・標準化に取り組んでおり、国は2022年10月に「地方公共団体情報システム標準化基本方針」 (以下、標準化基本方針)を閣議決定しました。
このなかでは、基幹業務システムの統一・標準化の意義および目的として、「2025年度までに、ガバメントクラウドを活用した標準準拠システムへの移行を目指す」とともに「2018年度比で少なくとも3割の削減を目指す」という目標が掲げられています。
【統一・標準化の意義および目標】
|
出所:デジタル庁「地方公共団体情報システム標準化基本方針の概要」
標準化の対象となる業務は、「標準化法第2条第1項に規定する『情報システムによる処理の内容が各地方公共団体において共通し、かつ、統一的な基準に適合する情報システムを利用して処理することが住民の利便性の向上及び地方公共団体の行政運営の効率化に寄与する事務』であるかという観点」から選定されており、現時点で20の業務が対象となっています※1。
そのうえで、標準化対象となった業務は、標準仕様書に準拠したアプリケーション(以下、標準準拠アプリ)を利用し、標準準拠アプリは原則としてノンカスタマイズとし、自治体の規模の違い(指定都市と小規模町村など)による事務処理の違いは、標準オプション機能というシステム上のパラメータ設定により対応を行うとされています。加えて、各自治体が独自に実施する施策に関しては、標準準拠アプリとは別にシステム化を行い、データ等の連携をAPIで行うことが求められています。
このように、これまでとは大きく異なる方針・指針の下で、標準準拠アプリに適合するよう業務の見直しが進められています。
デジタル化に向けた取組み
自治体業務の標準化を情報システムの観点から整理すると、情報システムのプラットフォームはガバメントクラウドというクラウド技術を活用する方向へ、業務アプリケーションは業務を標準化し可能な限りシンプルな構造とする方向へ、言い換えれば、変化に対する迅速性・柔軟性を向上させる方向へ向かっていることがわかります。
ここでは主に後者の内容について触れていきたいと思います。
2.標準化を推進していくうえでの論点
【自治体業務の標準化に向けた主な作業プロセス】
各自治体では、公開された標準仕様書を基に標準化後の業務およびシステムのあり方を検討し、業務システムの調達・構築を進めています。具体的には、現行システムに具備されている機能と標準仕様書で示される機能の差異分析(Fit & Gap)を実施し、差異のある機能を特定します。そして、これらのうち、標準準拠システムに具備されない機能に関して業務フローや業務プロセスの見直しを進めています。
また、自治体に対してパッケージシステムを提供するベンダーは、標準仕様書の公開を受けて急ピッチで機能改善を進めており、徐々に本稼働を迎えている状況です。
【Fit & Gapの流れと、検討が必要となる対象箇所】
顕在化してきた問題点
自治体業務の標準化を進めるなかで、いくつかの問題点が健在化してきています。
1点目は、自治体職員の人的リソースに関する問題です。自治体職員は、多くの既存業務を抱えるなかで、Fit & Gapの実施、業務フローの見直し、システム稼働に向けた調達・管理と向き合っていく必要があります。標準化を推進する部門・専任職員を新たに設置する自治体もありますが、各業務の要件整理は担当部門に委ねられており、十分な負担軽減に至っていないというのが現状です。
2点目は、ベンダーの人的リソースに関する問題です。こちらはさらに深刻な状況です。標準準拠システムの開発に加え、既存システム機能と標準仕様書で示される機能の差異分析、標準準拠システムに具備されない機能に関する自治体からの相談対応等、多岐にわたる業務を全国の自治体に対して実施する必要があり、通常の採用や育成だけではリソース不足の解消が困難です。実際にKPMGが標準化を支援する自治体においても、ベンダーの人的リソース不足による影響が徐々に顕在化し始めています。
デジタル庁が全国の自治体に対して行ったアンケートの結果でも、多くの自治体が2025年度末の移行を目指すなか、ベンダーの人的リソース不足による影響が指摘されています。これに対して国は、さまざまな支援策を講じ、移行時期の前倒し・分散を行えるよう取り組んでいます※3。
3点目は住民サービスに関する問題です。前述のとおり、標準準拠システムは各業務の標準仕様書に準じて構築される予定となっていますが、各自治体では住民構成や地域特性に合わせた「細やかな運用」を行っているのが実態であり、こうした住民サービスの今後の取扱いが懸念されるところです。
標準仕様書においては、標準オプションというかたちで指定都市の行政区対応や大規模自治体に求められる機能が整理されていますが、すべてを網羅的に整理できているわけではないと考えられます。このため、上述のような自治体独自に実施しているサービスに対応する機能の多くは、標準準拠システムに具備されることはなく、特に規模の大きな自治体においては住民サービスの低下や職員の負担増につながる危険性もあるかもしれません。
これらは、現在進められている業務のBPRにおいても慎重に議論されるべき論点であり、KPMGが標準化を支援する自治体においても、標準準拠システムを活用しつつ、住民サービスのレベルを維持または向上させる方法が前向きに議論されています。今後も継続して協議を重ねつつ、必要に応じて標準準拠システムや標準仕様書に対する改善要望等を国へ伝えていく必要があると言えます。
今後の論点
人的リソースの問題点は、移行時期の前倒し・分散等を含めた実施計画の見直しが現時点において最も有効な打ち手と考えられる一方、住民サービスの問題点については、標準準拠システムのサポート対象外となった業務の取扱いが、今後の主な論点になるでしょう。
3.取組みの方向性
取組み例:EUCと外部ツールの活用
標準準拠システムでは、データベースに格納されているデータをCSV等の形式で抽出するEUC機能を実装することとなっており、標準準拠システムのサポート対象外となった業務に関しては、このEUCと外部ツールを活用していくことが有用と考えられます。具体的には、標準準拠システムが保有するデータをEUCで抽出し外部ツールへ移送し、その後、外部ツールで処理・加工する仕組みを構築することが挙げられます。
住民サービスの維持・向上、職員の負担軽減を期待する取組みですが、結果として、使用するツールは自治体職員に比較的馴染みの深いものであり、さまざまなシーンで活用・流用可能と考えられます。
【EUCと外部ツールの活用イメージ】
【追加検討が必要な機能ごとの具体的な方法・用途例】
追加検討が必要な機能例 | 具体的な方法 | 用途例 | EUCデータ抽出後に利用する外部ツール例 |
---|---|---|---|
帳票 | 帳票フォームにデータを埋込み、出力 |
|
|
リスト出力 | EUC出力データをリスト形式に加工し作成項目の入替えや、結合・計算も可能 |
|
|
データチェック | マクロ等の機能を利用し、抽出した項目間のデータチェック |
|
|
分析 | データをグラフ等に加工、ビジュアル化 |
|
|
データ加工・更新 | 複数項目の結合、数値の計算 |
|
|
まとめ
自治体業務の標準化を推進することは非常に意義のある取組みであると考えられますが、住民サービスの維持・向上も同時に進めていく必要があり、難易度の高い取組みであることも事実です。
標準化においては、機能を盛り込み過ぎた身動きの取りづらい巨大なシステムを構築するのではなく、住民サービスの維持・向上に資する迅速性・柔軟性の高いシステムを構築していくことが求められていますが、そのためには、身近なデジタルツールを活用することも欠かせません。多くのデジタル化・DX推進の現場ではAI活用など、最先端のツール導入に目が向けられていますが、期待する効果が得られず思うようにDXが進まないという声が挙がっていることも事実です。
先に紹介した事例は、最先端の技術ではありませんが、立派なデジタル化・DXであると考えられます。スケジュールの見通しが立てづらいシステム調達や、理解の及ばない最新・最先端の技術やツールばかりにとらわれることなく、まずは現場レベルで理解できることからデジタル化・DXに着手し、標準化の実現と住民サービスの維持・向上に取り組むことをお勧めします。
※1:デジタル庁「地方公共団体の基幹業務システムの統一・標準化のために検討すべき点について」
※2:デジタル庁「地方公共団体の基幹業務システムの統一・標準化」
※3: 内閣府「国と地方のシステムワーキング・グループ 第37回会議資料」
執筆者
KPMGコンサルティング
マネジャー 山田 健次