本連載は、日本経済新聞(2023年9月~10月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。
Z世代と異なる、α世代とテクノロジーの関係性
本連載の最後に、Z世代の次の世代であるα世代について考えてみます。
2010年以降生まれのα世代は、現在その多くが小学生以下です。このため、α世代へのアプローチは時期尚早と考える企業も多いかもしれません。しかし、α世代の提唱者、オーストラリアの社会学者マーク・マクリンドル氏は、α世代は将来、ベビーブーマー世代(1946~64年生まれ)の人口を超え、歴史上最大の消費者セグメントになると指摘しています。
α世代は「デジタルネイティブ」であるだけでなく、親(Y世代)や兄姉(Z世代)のデジタル行動に大きな影響を受けて、幼少期からSNSなどのソーシャルメディアやゲーム、コンテンツ制作プラットフォームと関わりながら育っています。彼らはいわばZ世代よりさらに多様なデジタル空間やデジタルコミュニティに所属し、多くのプラットフォームを使い分けているというわけです。
α世代の特徴は、コンテンツを娯楽と捉えるのではなく、クリエイティブな表現の手段として位置付ける傾向があることです。
α世代は、「ユーチューブ」などの動画サイトや「インスタグラム」といった画像共有アプリに自分のアカウントやチャンネルを持ち、コンテンツ制作や情報発信にも積極的です。
現時点で彼らには購買力がないという認識は誤っています。米調査会社カサンドラによると、ミレニアル世代の親の60%が「α世代の子どもたちが自分たちの買い物に影響を与えている」80%が「家族の購買決定に子どもたちの意見を重視する」と回答をしています。
α世代は家族の購買時の決断を左右し、顧客体験を形成する上で大きな役割を果たしています。なかには、ソーシャルメディア上でインフルエンサーとなって、同世代のロールモデルになっている子どもすらいるほどです。
α世代にアプローチするには、彼らの創造性を刺激すること、親世代を巻き込むことが重要となります。
デンマークの玩具会社レゴは、α世代をターゲットに、レゴ作品を共有したり他の子どもたちと交流したりできる「LEGO Life」アプリというソーシャルメディアを運営しています。α世代の創造性をかき立てることで、ブランドへのエンゲージメント(興味・関心)を高めているのです。また、オンラインストアのなかには、α世代が商品・サービスを購入する際に、親に承認と購入のリクエストを送信できる機能を提供しているものもあります。
α世代は人工知能(AI)や現実と仮想空間を融合したXR(クロスリアリティ)、ロボティクスなど、最新のテクノロジーが身近な世代です。そのため、よりテクノロジーを駆使した顧客体験の向上も求められるでしょう。
企業のマーケターの関心はまだZ世代にあるかもしれませんが、Z世代に対するマーケティング施策を参考にしつつ、α世代の特徴を踏まえたテクノロジーの活用の検討に着手するのが賢明と言えるでしょう。
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日経産業新聞 2023年10月4日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。
執筆者
KPMGコンサルティング
シニアマネジャー 岩田 理史