本連載は、日本経済新聞(2023年9月~10月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。
Z世代へのアプローチとして効果を発揮するゲーム内広告
Z世代が好むゲームを活用したマーケティングに「インゲーム広告(ゲーム内広告)」があります。
インゲーム広告とは、ゲームのプレーヤーに対して広告を表示する手法で、オンラインゲームを広告媒体として利用するものです。広告単価はインターネット広告並みに安く、インターネット広告を非表示にする「アドブロック」や、企業が意図しないところで広告が表示されるのを避けることもできます。若年層、とりわけ35歳未満のゲームユーザーへ確実にリーチできるため、従来型のマスマーケティングではメッセージが届きづらいZ世代へのアプローチに効果を発揮します。
インゲーム広告には、ゲーム空間内に企業やブランドの名称やロゴ、イメージなどを表示する「マップインサート型」と、ゲーム内でプレーヤーが利用可能なアイテムとして自社商品やブランドをイメージしたオブジェクト(アイコン=絵記号)を再現する「アイテムコラボ型」があります。
マップインサート型に取り組んだ企業のなかには、ゲームプレーヤーの「広告想起率」(「広告を見た」または「見たような気がする」の割合)が上がり、広告を見た消費者の購買意欲が大幅に増加した例も見られると言います。アイテムコラボ型の場合は、商品やブランドの認知度の向上だけでなく、商品やブランドに対する消費者の誘引力や興味・関心を高める効果が期待できます。
インゲーム広告を効果的にマーケティング戦略に組み込むブランドの1つが、米モンスター・ビバレッジのエナジードリンク「モンスターエナジー」です。ゲーム関連の調査会社、ゲームエイジ総研によると、ゲーマーの58.9%がエナジードリンクの飲用経験があり、経験者のなかでも20代が最も大きな割合を占めると言います。
モンスターエナジーは、人気の高いシューティングゲームとのコラボレーションを数多く展開しています。キャラクター目線でゲーム内を移動しながら、素手や武器を使って戦うファーストパーソン・シューティングゲーム「コール オブ デューティ」 「エーペックスレジェンズ」などです。商品を実際に購入しレシートを撮影して応募すると、ゲーム内で利用できるアイテムが獲得できる仕組みで、商品購入でゲーム体験を強化できるようにしています。
また、ゲームキャラクターを模した限定コラボ缶も販促に活用し、ゲームとのつながりを感じさせるキャンペーンを打ち出しています。ゲーム内で使えるアイテムの獲得も、1本購入するごとに必ず手に入るようにし、本数に応じて獲得できるアイテムを明記することで、コストパフォーマンスを重視するZ世代が安心して購入できるようにしています。
従来の受動型のマスコミュニケーションのみでは、消費の中心となるZ世代にリーチすることは今後ますます難しくなることが予想されます。ゲーム空間でいかにZ世代から企業や商品などのブランドを信頼してもらえるかは、今後のマーケティング戦略の重要なピースの1つになるでしょう。
※本文中に記載されている会社名・製品名は各社の登録商標または商標です。
日経産業新聞 2023年9月29日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。
執筆者
KPMGコンサルティング
シニアコンサルタント 髙野 洋介