本稿は、AI(人工知能)への信頼について調査したグローバルレポートの要約です。
AIの利用に対する人々の信頼やその捉え方、AIの運用と管理に対する期待について深く掘り下げ、6つの社会的認識の変化を明らかにしています。
また、AIシステムの指導、構築、管理に携わる人々にとって有益だと思われる各国の現状、および日本独自の分析結果を掲載しています。

はじめに

AIは日常生活や職場の至るところに存在するようになり、仕事の進め方やサービスの提供方法を変えつつあります。一方で、AIの導入においては、偏見や差別、不正操作、違法行為、人権侵害に悪用された事例が注目を浴びており、AIの利用において懸念が生じています。

【人々のAIに関する認識の変化】

調査項目 調査結果
AIの信頼と受容
  • 5人に3人(61%)が、AIシステムを信用することに警戒心を抱いている。
  • 67%が、AIの受容度は低いか中程度と回答している。
  • 人事におけるAIの活用は最も信頼されておらず、受け入れられてもいないが、医療分野におけるAIの活用は最も信頼され、受け入れられている。
AIの潜在的なメリットとリスク
  • 85%が、AIはさまざまなメリットをもたらすと考えている。
  • メリットがリスクを上回ると考えている回答者は半数にすぎない。
  • 84%が、「最も懸念しているのはサイバーセキュリティリスク」と回答している。
誰にAIの開発と管理を任せるか
  • 76~82%が、「国立大学や国立研究機関・防衛機関によるAIの開発・利用・管理は信頼でき、公共にとって最善だ」と回答している。
  • 3分の1の回答者が、AIの開発・利用・管理において政府や営利組織を信頼していない。
責任あるAI
  • ほぼすべての回答者(96~99%)が、信頼できるAIの原則を強く支持している。
  • 4人に3人は、保証の仕組みが整っていれば、AIをより積極的に信頼すると考えている。
  • 71%が、AIが規制されることを期待している。
職場におけるAI
  • 約半数が、仕事で利用するAIを信頼したいと考えている。
  • 多くの回答者が、人事や人材管理におけるAIの利用に抵抗があり、確信を持っていない。
  • 5人に2人が、自身の仕事はAIに置き換わると考えている。
AIに関する理解
  • 半数が、AIを理解していない、または、いつ、どのように使われるのか理解していない。
  • 45%が、ソーシャルメディアでAIが使われていることを知らない。
  • 82%が、AIについてさらに学びたいと考えている。
AIの捉え方はさまざま
  • 若い世代、大卒者、また管理職は、AIをより信頼し、受け入れ、肯定的に捉えている。
  • 新興国の回答者は、他の国よりもAIを信頼し、受け入れ、肯定的に捉えている。
AIは信頼できるか_図表1

AIの信頼と受容

AIが継続的に受け入れられるためには、社会からの信頼が不可欠です。AIが信頼できるものだと証明されなければ、AIは普及せず、また期待されている社会的・経済的メリットを十分に得られないでしょう。

【AIに対する人々の信頼度】

  • 5人に3人(61%)が、AIを信頼することに懸念を抱いている。
  • 39%が、AIを信頼したいと回答している。
  • 67%が、AIの受容度は低いか中程度と回答している。
  • 3分の1が、AIの受容度は高いと回答している。
  • 3分の2が、AIの利用を楽観視している、一方、半数は懸念を抱いている。
  • 最も信頼されていないAIの利用領域は、人事関連である。
  • 最も信頼されているAIの利用領域は、医療分野である。

BICS諸国をはじめとする多くの国ではAIは楽観視され、また刺激的なものだと捉えられていますが、オーストラリア、カナダ、フランス、日本では恐怖や懸念を抱いている人が多いとの結果が出ています。また調査対象国のなかでも、フランスの人々が最もAIを恐れ、心配し、その利用に反対しています。

AIの潜在的なメリットとリスク

AIには潜在的なメリットや将来性はあるものの、リスクや課題もあります。これには、不当な偏見を煽るリスク、プライバシーなどの人権を侵害するリスク、偽のオンライン情報を広めるリスク、デスキリングによる失業、また大量監視技術やAIの重大な欠陥、自律型兵器に起因するリスクなどが含まれています。

AIに対する人々の警戒心や価値観

  • 61%が、AIがどれほどの影響を社会にもたらすかわからないと回答している。
  • 85%が、AIはさまざまなメリットをもたらすと考えており、特にプロセス関連のメリットに期待している。
  • 半数が、AIのメリットはリスクを上回ると考えている。
  • 約4分の3(73%)が、AIの潜在的なリスクを懸念している。
  • AIのリスクは、国ごとの比較が可能である。
  • 最も懸念されていることはサイバーセキュリティリスクである (84%が選択)。
  • 最も懸念されていないことはAIによる偏見である(58%が選択)。

インドと南アフリカでは自動化による雇用喪失が最も懸念された一方、日本ではシステム障害が懸念事項のトップとなっており、潜在的にスマートテクノロジーへの依存度が高いことを示しています。また、信頼を確保し維持するために、データとプライバシー保護への重要性と、AIのリスクを管理・軽減するためのグローバルなアプローチと国際基準を守る必要性を改めて強調しています。

誰にAIの開発と管理を任せるか

政府によるAIの利用・管理に対する人々の信頼については、国によって大きな違いが見受けられました。政府、営利組織、その他の機関に対する人々の一般的な信頼と、これらの組織がAIを利用・管理することに対する信頼との間には強い関連性が見られました。つまり、AIへの信頼を得るためには、組織に対する信頼を強化することが重要です。

【AIを開発・利用・管理する組織への信頼】

  • 76~82%が、国立大学や国立研究機関、防衛機関によるAIの開発・利用・管理は信頼でき、公共にとって最善だと回答している。
  • 3分の1が、AIの開発・利用・管理において政府や営利組織をまったく、もしくは、あまり信頼していないと回答している。南アフリカ、日本、イギリス、アメリカでは約半数の回答者が、信頼していないとの結果が出ている。
  • 中国、インド、シンガポールの人々は自国政府によるAIの開発・利用・管理を信頼している。
  • 71%が、テクノロジー企業によるAIの開発・利用を信頼できると感じている。
  • 若い世代、大卒者、管理職は、組織がAIを開発・利用・管理することに、より信頼している。

責任あるAI

本調査の結果によれば、欧州委員会が当初提唱した信頼できるAIの原則は、世界的にAIの信頼に不可欠と考えられており、それは広範囲でデータプライバシー、セキュリティ、ガバナンスが最も重要だと捉えられているためです。

信頼できるAIのための原則

  • ほぼすべての回答者(96~99%)が、信頼できるAIの原則を支持している。
  • データプライバシー、セキュリティ、ガバナンスはAIへの信頼にとって最も重要だと考えられている。
  • 4分の3は、保証の仕組みが整っていれば、AIをより信頼できると考えている。
  • 71%が、AIが規制されることを期待している。
  • 5人に2人が、現在の規制や法律、保護措置はAIを安全に利用するのに十分だと考えている。
  • 61%が、AIが社会に与える影響は不透明だと考えている。

職場におけるAI

人々の多くは、仕事の補強や自動化のために職場でAIを利用することに抵抗はありませんが、仕事中の監視や評価、人事部門による採用支援など、従業員に焦点を当てて利用される場合には抵抗を感じています。オーストラリア、カナダ、フランス、ドイツでは職場におけるAIの利用に最も抵抗があり、反対にBICS諸国とシンガポールでは最も受け入れられています。

【AIのビジネス利用】

  • 2分の1が、AIを職場で利用している。
  • 約2分の1が、仕事で利用するAIを信頼したいと回答している。
  • 45%が、意思決定における分担比率は、AI 25%/人間 75%が最も望ましいと回答している。
  • 2分の1以上が、仕事の補強や自動化のためにAIを利用することに肯定的である。
  • 多くの回答者が、人事や人材管理におけるAIの利用に抵抗があり、確信を持っていない。
  • 約1/3が、AIに仕事が奪われるよりも雇用の創出の方が多いと考えている。

AIに関する理解

AIをよりよく理解している人ほど、AIを信頼し、大きなメリットを感じる可能性が高くなります。本調査の結果によると、AIに関する教育に対して強いニーズと意欲をうかがえます。シニア層、大学教育を受けていない人、非管理職に比べ、今日の若い世代や大卒者、管理職の方がAIに関する知識が豊富で、AIがどのような場面で利用されるかをより認識でき、AIについて学ぶことに高い関心を持っています。

【AIへの理解度】

  • 5人に4人が、AIを認知している。
  • 半数が、AIを理解していない、または、いつ、どのように使われるのか理解していない。
  • 45%が、ソーシャルメディアでAIが使われていることを知らない。
  • 5人に2人が、自身が使っている一般的なアプリケーションがAIによって実現されていることを知らない。
  • 82%が、AIについてさらに学びたいと回答している。

AIがさらに受け入れられるために

信頼はAIが受け入れられるために重要な要素と言えます。ここでは、信頼に大きな影響を与える4つの主要な観点を紹介します。

(1)制度

  • 地域社会の期待に応えるため、AIの利用に関する現行の規制や法的枠組みを強化する。
  • 政府、テクノロジープロバイダー、営利組織は、AIの利用が拡大するなか、国民からの信頼と信用を強化する上で重要な役割を担っている。
  • 大学や研究機関によるAIの開発・利用・管理を最も信頼していることを考えると、政府や企業がこれらの機関と提携してAIの推進を主導することが考えられる。

(2)動機付け

  • モデル化により、信頼を強化・維持するための重要な道筋は、AIの具体的なメリットを示すことから始まる。
  • AIプロジェクトや、AIを利用したサービス・製品を主要なステークホルダーやエンドユーザーと共同設計する際、明確な目的を持った人間が主導してAIを設計することが重要である。
  • AIにはリスクを積極的に軽減しながらメリットを増大する統合的なアプローチが必要である。AIを利用したサービスや製品がもたらす社会的メリットを人々に認識してもらうためには、コミュニケーションや社会認識に関する取組みが有効である。

(3)不確実性低減

  • 複数の市場や地域で事業を展開する企業は、共通リスクを予測することができるため、似たようなAIリスク戦略を用いることができる。
  • AIリスクを軽減し、責任ある利用を支援し、サイバー犯罪から個人データとプライバシーを保護するために、AIガバナンスと国際基準に関する国際的な協力が必要である。
  • 信頼を高めるための重要な取組みの1つは、人々に影響を与えるAIの意思決定において、人間が関与と監視を続けることである。完全自動化は効率とコスト削減を最大化する可能性はあるが、信頼と受容を損なう恐れがあるため、バランスが必要である。

(4)知識

  • 人々のAIに対する理解度は低いが、AIの利用が急増するにつれ関心が広がっており、公教育が必要である。
  • 画一的なアプローチでは解決しない。若い世代、大卒者、管理職は、よりAIを理解し受け入れることが多い。
  • 公教育は、潜在的なリスクとメリット、そして安全で責任ある利用方法を人々に伝える役割を果たすべきである。政府と大学、企業の緊密な協力により、データとテクノロジーの利用に関するリテラシーと理解を深める必要がある。

日本におけるAIの社会実装の現状

AIに対する認識と理解という点で、日本は世界のなかで最も低い水準にあり、信頼、受容、認識は不足し、また多くの人が学ぶことに関心を持っていません。人々はAIには十分な保護措置があるとは考えていませんが、依然としてその有用性を認識している回答者が過半数を占めます。これらの否定的な捉え方は、調査対象国のなかでも日本の回答者の年齢層が高いことと関連している可能性があります。

【AIの信頼と受容】

  • AIを信頼したいと考えている人はわずか23%で77%は信頼したくない、あるいはわからないと考えている。
  • 56%が、AIを受け入れていると回答しており、これはオランダに次いで2番目に低い結果となった。
  • 日本人のうち、否定的な感情(心配:55%、恐怖:52%)を示している回答者の割合が肯定的な感情 (楽観:42%、興奮:40%)を上回り、73%がAIに不安を感じている。

【AIの潜在的なメリットとリスク】

  • 75%が、AIにはさまざまなメリットをもたらすと考えている。
  • 68%が、さまざまなリスクを懸念しているが、調査対象国のなかで日本だけがシステム障害を最も大きな懸念事項(81%)として挙げている。
  •  42%が、AIのメリットがリスクを上回ると考えている。

【誰にAIの開発と管理を任せるか】

  • テクノロジー企業や国立大学、国際的な研究機関によるAIの開発・管理が最も信頼でき、公共にとって最善だと考えている(77%~ 81%)。
  • 日本は韓国、シンガポール、BICS諸国と同様にテクノロジー企業に対する信頼度が高い。
  • ほぼ半数(47%)が、政府に対する信頼がないか、または低く、43%が営利組織を信頼していない。

【責任あるAI】

  • 半数強(52%)が、AIが社会に与える影響は不透明で予測不可能だと感じており、これは調査対象国のなかで2番目に低い数字である。
  • 77%が、AIには規制が必要だと考えており、政府による規制(55%)よりも、産業界による規制(61%)を望む傾向がある。
  • 現在の規制や法律、保護措置でAIを安全に利用できると考えている回答者はわずか13%で、調査対象国のなかで最も低い。
  • 96%が、信頼できるAIの原則と実践はAIへの信頼にとって重要だと考えている。

職場のAI

  • 31%が、仕事で利用するAIを信頼したいと考えている。この数字は低いとはいえ、より広範に利用されるAIを信頼したいと回答した割合よりも明らかに高い。
  • AIに仕事が奪われるよりも雇用の創出の方が多いという考えには37%が反対しており、これはシンガポール、インド、中国を除く他の調査対象国よりも低い結果となった。
  • 21%が、自身の仕事はAIに置き換わると考えており、これは調査対象国のなかで最も低い。

【AIに関する理解】

  • 75%が、AIへの理解が低いと回答しており、これは調査対象国のなかで最も低い理解度である。
  • AIについてさらに学びたいと考えている回答者はわずか55%で、これも世界で最も低い数字である。
  •  56%が、AIを含む一般的なアプリケーションを使用しており、ほぼ同じ割合の回答者(53%)が、それらのアプリケーションでAIが利用されていることを知っている。

※調査結果の全文は以下のPDFよりご覧いただけます。

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