本連載は、日経産業新聞(2023年11月~12月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

希少資源の再資源化を促す循環型サプライチェーン

天然資源に乏しい日本にとって、レアメタルやレアアース等の希少資源の確保は目下の課題であり、「仲間づくり」による戦略的確保が求められます。

デジタル化やグリーンシフト(脱炭素シフト)に必要不可欠な希少資源は、電気自動車(以下、EV)の蓄電池やモーター、半導体素材、風力・太陽光発電設備など、幅広い製品に使用されています。さまざまな産業で需要が急増している希少資源ですが、足元ではぐらつく地政学リスクの上に成り立つ供給網がうかがえます。EVのモーター等に用いるレアアースのほか、電球や機械工具等に用いるタングステンの多くは、米中経済のデカップリングとブロック経済が進展する中国に依存しています。また、リチウムイオン電池に使われるコバルトは、紛争や自然災害などにより深刻な人道危機に直面しているコンゴ民主共和国が世界生産の約7割を占めています。

地政学リスクが表面化すると、希少資源市場は瞬く間に反応し、価格は急騰します。ウクライナ情勢を機に、ニッケルの供給への懸念が強まり、その後国際価格が急騰し、ロンドン金属取引所(LME)において平均価格の4倍以上の値を付け、取引を一時停止する「ニッケル騒動」が起きています。

日本企業はそうした課題を踏まえ、差し迫った希少資源の確保で取り得る施策について、本腰を据え考える時期に来ています。効果的な施策の1つとして、「都市鉱山」から希少資源をリサイクルする「サーキュラーエコノミー」の推進が挙げられます。

日本は、スマートフォンやパソコンなど、希少資源を含む製品の廃棄が多く、廃棄物として蓄積されリサイクルの対象となる希少資源は、世界有数の資源国に匹敵すると言われます。一方で、小型電子機器などの廃棄物から僅かな希少資源を抽出・分離するプロセスには、多くのコストと手間が発生します。そのため、メーカー・消費者・回収業者等に分散している希少資源を集約し、スケールメリットを生かして再資源化していくことが求められます。

希少資源の再資源化を実現するためには企業間連携、すなわち仲間づくりで資源を集約化し、「効率的な回収から再資源化」までの循環型サプライチェーンを構築していく必要があります。企業間連携を進めるためには、「データ・KPI」「業務プロセス」「ガバナンス」「組織・エコシステム」「人材」「テクノロジー」の6つの観点で、サプライチェーンの各プレイヤーと検討を進めていくことが必要です。今後さらなる需要拡大が見込まれる希少資源の確保に向けて、仲間づくりにより供給網を確保することが、日本の製造業の持続的発展に必要な1つの道と言えます。

【エコシステム構築における検討すべき論点】

テクノロジー
  • 情報基盤やシステムの選択
  • システム開発、運用・保守、セキュリティ
データ・KPI
  • 事業価値・社会価値の創造・提供
  • エコシステムのKPI定義とパフォーマンス測定
業務プロセス
  • プレイヤー間の取引プロセスの定義
  • 意思決定プロセスの定義
人材
  • 各プレイヤーの役割や責任の定義
  • 参画アプローチ・インセンティブの設計
組織・エコシステム
  • エコシステムがもたらす社会価値と事業価値の定義
ガバナンス
  • エコシステム全体の収益分配やコスト負担など運営ルールの定義

日経産業新聞 2023年11月28日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

執筆者

KPMGコンサルティング
アソシエイトパートナー 齋藤 郷

経済安保時代の経営課題

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