本連載は、日経産業新聞(2023年11月~12月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。
地政学リスクを織り込んだ投資判断を
世界中の企業が半導体への投資を加速させています。半導体業界の国際団体SEMIによると、2022年の新規半導体工場の着工件数は33件と、過去最高を記録しました。2023年も28件と高水準の見通しとなっています。スマートフォンやパソコンのCPUに使うロジック半導体や、自動車や産業機器向けの電力の制御・変換用のパワー半導体の増産計画が目立ちます。
各国・地域の政府が半導体工場の建設を後押ししています。米国では2022年にCHIPS法が成立し、関連投資や研究開発に巨額の補助金を予算計上しました。欧州でも生産拠点誘致に向けた「欧州半導体法」が2023年に成立、日本も「特定高度情報通信技術活用システムの開発供給及び導入の促進に関する法律(5G促進法)」の改正や経済安全保障推進法などで支援を強化しています。
中国も、政府主導で国外依存度を引き下げたサプライチェーン構築を目指しています。「中国製造2025」や「第14次5カ年計画」で半導体振興を重点課題に位置付け、最近は回路線幅7ナノ(ナノは10億分の1)メートルの先端半導体の開発に成功したとされます。ただ米国などによる対中半導体規制強化で、中国国内における半導体工場の着工件数の鈍化を示す統計も明らかになっています。
世界の半導体市場規模は2030年に2021年比8割増の1兆ドルにまで成長すると予測されています。地政学リスクが高まるなかでの市場拡大には危うさも伴うため、企業には地政学リスクを織り込んだ投資判断が求められます。市場拡大の裏で規制が進んでおり、各国・地域の政策の先行きには不透明感も残るため、企業はこれまで以上に各国・地域の政策や他社の対応状況を注意深くモニタリングしていく必要があります。
日本企業は、半導体材料や製造装置において世界で高いシェアを握っていますが、欧米や中国のメーカーも政府の後押しを受けて競争力を高めています。日本製の半導体製造装置は販売額を伸ばしているものの、海外メーカーに押されシェアが伸び悩んでいる状況です。競合他社と比較して、自社が世界市場でどの位置にあるのか、課題は何かを客観的に分析し、次世代技術の開発などで海外メーカーとの差別化を進めていく必要があります。競争が激しさを増すなか、研究開発投資の手を緩めず、プレゼンスを維持・拡大できるかが問われています。
日経産業新聞 2023年11月27日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。
執筆者
KPMGコンサルティング
シニアコンサルタント 原 滋