連載第1回では、いまなぜグループガバナンスの検討が求められているか、どのようなグループガバナンスが必要となるかという考え方について解説を行いました。
第2回である本稿では、グループガバナンスの強化に向け、特に重要となる3つのポイントについて解説します。
なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

1.ポイント(1)本社・子会社の役割・責任の再整理

グループガバナンスの実効性を確保するためには、本社・子会社の各部門の役割や責任の所在を明確にし、重複や抜け漏れのない効果的かつ効率的な配置を行うことが重要です。役割・責任の検討に際しては、いわゆる「3つの防衛線」の考え方を活用することも有用です。図表1に示すように、財務、人事、法務、IT、リスク管理といった管理部門(第2線)が、海外拠点や本社の営業、マーケティングなどの事業部門(第1線)に対する支援・指導や牽制を行います。さらに、独立した内部監査部門(第3線)が第1線や第2線に対する監査を行い、ガバナンスが有効に機能しているかを確認します。

どの企業もある程度の枠組みは関係会社管理規程や職務分掌規程等に定めていることが一般的ですが、本社、子会社間で共通認識が形成されておらず、誰が意思決定をするのか、誰が指示を出すのか、誰が監督・モニタリングするのか等が曖昧になっているケースは少なくありません。また、併せて検討が必要になるのが、どこまで子会社に権限を移譲するかという点です。子会社の事業規模が拡大し、販売に加え、生産・製造や戦略立案といった機能が増えていくにつれ、より機動的な経営判断を現地でするための適切な権限移譲が必要となりますが、迅速な意思決定を可能にしつつ、統制すべきところはしっかり統制し、「本社は知らなかった」「他部門が見ていると思った」「子会社が勝手に行った」といった事態の発生を防ぐことが求められます。

一例ですが、子会社が本社事業部門の傘下にある場合、暗黙の了解で諸々が事業部門任せになっているケースや、現地の自主性を重視しすぎた結果子会社へ丸投げになっていたり、すべてを本社でコントロールしようとして無理が生じていたりなど、弊害も少なくありません。

【図表1: 「3つの防衛線」の考え方】

海外事業管理・グループガバナンス強化に向けたポイント_図表1

2.ポイント(2)グループポリシーの策定・展開

グループを統制する上で、グループ全体をどのように統制するか、その考え方を示したものとして、まずグループガバナンス方針を策定し、グループ各社およびその従業員に周知する必要があります。グループガバナンス方針には、たとえば、経営理念、本社・子会社の役割・権限、レポートライン等に関する基本事項が記載され、さらに詳細な必要事項を定めた関係会社管理規程を制定するケースもあります。特に子会社数の増加やM&Aによる子会社化が進むにつれ、グループ各社や従業員の属性や価値観が多様化し、グループ内のシナジー効果が薄れる懸念が出てくるため、グループガバナンス方針の周知・浸透による一体感の醸成が重要になります。

また、財務・人事・法務・情報セキュリティといった業務機能単位でグループとしての最低限のルール・プロセスを定めておくことも、管理の効率化や強化の面で有用です。子会社によって機能や適用法令が異なるため、本社は日本だけでなく各国・地域の法令・規範・ベストプラクティスも参照しながらグループとして達成したい最低限の管理レベルを定め、子会社側のルール・プロセスに反映を行います。

グループ方針・規程の策定は一朝一夕にできるものではありません。まずは最上位に位置付けられる方針の策定から始め、それから重要度の高い分野のグループ規程を優先的に定める等、中長期的な取組みが必要になります。また、全役員・従業員が内容を理解し適切に運用できるよう、定期的な教育・研修の提供や、次項にて述べるモニタリングについても重要となります。

【図表2:グループポリシー体系の例】

海外事業管理・グループガバナンス強化に向けたポイント_図表2

3.ポイント(3)管理部門および内部監査部門によるモニタリング

企業におけるモニタリング活動には、管理部門(第2線)が行うモニタリングや、内部監査部門(第3線)が行う内部監査、さらには法定監査である監査役監査や会計監査人監査等がありますが、本章では第2線・第3線のモニタリング活動について説明します。

方針・規程・マニュアル等に定めたルールやプロセスが適切に運用されているかを確認する活動のことをモニタリングと言いますが、海外拠点のモニタリングは地理的な距離や文化・商習慣・言語の違い等により国内拠点のモニタリングと比べてコスト・リソース・能力面でのハードルが高くなります。また、そのようなハードルの高さから、監視の目が行き届かなくなり、不正やコンプライアンス等のリスクが懸念されます。

特に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による渡航制限の影響で、海外子会社への本社からのモニタリング活動がここ数年十分には行えていなかった企業も多いのではないでしょうか。効果的なモニタリングの実施に向けたポイントとして、以下の点が挙げられます。

  • リスクアプローチに基づくモニタリング対象の検討
    限られた経営資源をうまく活用するためには、まずリスクを特定・評価し、重点的にモニタリングすべき項目・拠点とそうでない項目・拠点とで優先順位をつけることが基本です。企業を取り巻くリスクはさまざまですが、そのなかでも発生頻度や影響度の高いもの(不正・不祥事、海外固有リスク、M&A子会社等)は優先的にモニタリングを行う、あるいはモニタリング頻度を上げる、反対に、発生頻度や影響度の低いものはモニタリングの優先順位や頻度を下げる、セルフアセスメントに置き換えるといったように、メリハリをつけたリソース配分を行うことで、効果的かつ効率的なモニタリングが可能となります。
  • 管理部門(第2線)と内部監査部門の(第3線)連携
    管理部門(第2線)と内部監査部門(第3線)の連携も重要なポイントです。内部監査部門による内部監査とは、独立的な立場から第1線・第2線の業務の適切性を検証し合理的な保証を与えることであり、第2線による管理を目的としたモニタリングとはレポート先も含めて本質的に異なりますが、実際のところ、両者が見ている範囲や項目には重なる部分があります。ここでポイントとなるのは、第2線・第3線間で適時適切な情報連携を行い、両者のモニタリング活動に活用していくことです。たとえば、第2線のモニタリングで収集したリスク情報や課題を第3線が活用し、より高度かつ全社的な目線で検証を行うことで、全社ガバナンスを大幅に強化することが可能となります。

4.まとめ

国内市場や労働力が縮小傾向にあるなか、新たなビジネス機会を求め、海外に活路を見出す企業は今後も増えていくでしょう。日本とは社会制度や情勢・商習慣が異なる国での事業展開には、多くのリスクが伴います。実際、グループ経営の根幹を揺るがすような不正・不祥事やサイバー攻撃をはじめとする事案は企業規模の大小を問わず発生しており、多くは子会社、とりわけ海外子会社が発生元となっています。また、その多くがガバナンスの不全・不備によって顕在化したものであることを踏まえると、グループガバナンスの仕組みを継続的に見直し、状況に応じて柔軟にアップデートしていくことが企業には求められます。

執筆者

KPMGコンサルティング
シニアコンサルタント 縣 さくら

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