デジタルトランスフォーメーション(DX)を先導するリーダーは、戦略的な目標に合わせてテクノロジーへの投資を行うことで、モメンタムを維持しています。主要な先進企業は、最新のテクノロジーへの投資からすでに収益を生み出しており、同時に、ESG(環境・社会・ガバナンス)のような優先課題にも適切に対処しています。
本レポートは、KPMG独自のグローバルテクノロジーレポートとして毎年発行しており、今回の調査ではテクノロジーに関する組織の優先課題とその実行計画に注目しています。2,100人の上級管理職を対象に調査を実施し、各業界の専門家と掘り下げた議論を重ねることで、DX戦略の次の段階をどのように展望しているかを探りました。
1.DXの現況
組織は、新しいテクノロジーの採用自体を目的とするのではなく、デジタルイノベーションがダイナミックな戦略やビジネス目標と意図的に結び付くようにすべきです。全体的に見て、平均63%が、過去2年間にわたるDXの取組みの結果として業績が向上したと回答しています。また、多くの場合、DXへの投資は、期待を上回るリターンをもたらし、目に見える利益を生み出しています。
- 29%の組織が、データアナリティクスへの投資により、収益性や業績を少なくとも11%向上させたと回答しました。
- 27%の組織が、パブリッククラウドと「as-a-service」ツールへの投資により、収益性や業績を少なくとも11%向上させたと回答しました。
- 26%の組織が、人工知能(AI)とオートメーションへの投資により、収益性や業績を少なくとも11%向上させたと回答しました。
- 38%が、最新のツールや先端テクノロジーの導入に対して経営層の賛同が得られるようなったと回答しました。
DXの重点領域としては、サイバーセキュリティとカスタマーエンゲージメント(顧客サービスのスピード、および利便性によって顧客ニーズを満たすこと)による業績向上の達成に主眼が置かれています。
また、データアナリティクスへの取組みについては、68%の組織が、すでに試験的利用の段階を過ぎていると回答しており、データ戦略を実行に移す道のりを順調に歩んでいます。しかしながら、組織横断でのデータの活用や統合については未達成の課題として挙げられています。
テクノロジーに対するXaaS(everything-as-a-service)アプローチも多くの組織にさまざまな形でメリットをもたらしていますが、XaaS環境への移行に成功した組織でも、テクノロジー資産の運用管理には課題が残ります。昨今の経済の不確実性の高まりに伴い、DXへの投資をストップ、もしくは縮小を検討する動きもあるようです。
テクノロジーリーダーはビジネス部門と緊密に連携して、戦略的な目標に合わせてイノベーションへの取組みを行い、ビジネス成果に結びつけることが何より重要と言えるでしょう。
Q:過去2年間で、以下のテクノロジーを利用したDXの取組みは、収益性または業績にプラスの影響をもたらしましたか?
2.DXに対する信頼の獲得
DXと最新テクノロジーの導入により、サイバーセキュリティリスクが増大する可能性が高まります。今回の調査では、サイバーセキュリティとプライバシーへの懸念が、トランスフォーメーションを失速させる可能性のある主要な要因としてランク入りしました。
しかし、その一方、サイバーセキュリティは、重要なビジネス機会としても認識され始めています。
- 63%が、サイバーセキュリティとプライバシーの改善がロイヤルティを高める優れた顧客体験を提供することに役立つと回答しています。
- サイバーセキュリティチームの半数以上(51%)が、どのようにセキュリティ対策を自動化し、合理化し、ビジネスの中核に組み入れるかに注力しています。
- 62%が、プロジェクトの初期段階でリスクを管理し、設計段階からセキュリティコントロールを組み込むことはトランスフォーメーションプログラムの成功率を著しく増大させることを理解しています。
- 71%が、テクノロジーの導入時に信頼、セキュリティ、プライバシー、レジリエンスを積極的に組み入れたいと考えています。
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3.デジタル化の目標
多くの組織がデジタル化に対する明確な目標を持っています。ESGへの取組みは多くの企業で最優先課題となっており、このESGへの注力がテクノロジーイノベーションを推進する要因になっています。
- 48%が、今後2年間でESG課題への取組みがテクノロジー部門の主要なイノベーション目標になると回答しています。
- 72%が、既存のテクノロジースタックを活用して短期的なESG目標を推進できると確信しています。
環境問題へのテクノロジー活用は大きな効果が期待でき、多くの企業がいかに活用すべきかについて、強い関心を寄せています。また、従業員の倫理基準の向上や人材採用時を含めたダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)推進のためにも、テクノロジーの活用が検討されています。このような目標を実現するための手段として、AIと機械学習(生成AIを含む)が最も重要なテクノロジーであると認識されており、イノベーションの鍵となっています。
Q:以下のテクノロジーのうち、自社の短期的なビジネス目標(今後3年間)を達成する手段として最も重要であると思うものはどれですか?
生成AIの登場など急速にテクノロジーが変化するなか、多くの企業がAIを倫理的かつ安全に導入する方法には頭を悩ませています。AIガバナンスの在り方の議論により、AI戦略が一歩後退しています。
- 前回の調査結果では、40%がAI導入に関して「積極的」な段階に到達したと回答していましたが、現在は15%にまで低下しています。
- 55%が、AIシステムが下す判断への懸念が原因で、オートメーションに向けた進捗が遅れていると回答しています。
DXの推進には、慎重に前進すること、そして(特に生成AIモデルに関して)方針変更に備えること、さらに、ユーザー(従業員や顧客など)のニーズを重視することが賢明です。
最初はAIを適用する範囲を限定しておいた方が、最終的にはトランスフォーメーションにプラスに作用する可能性があります。同様に、生成AIアプリケーションに関する安全利用ガイドラインを組織内で策定すれば、適正かつ効果的に利用しやすくなります。
4.モメンタムを脅かす課題
回答者の多くが、DXの成功を危うくするボトルネックとして、文化、コラボレーション、コミュニケーションを挙げています。連携の欠けたテクノロジー部門こそが、DXの進捗を妨げる最大の要因だと回答者は見ているのです。
- 46%が、自社のテクノロジー部門は、トランスフォーメーションの取組みを効果的にサポートするために必要となるガバナンスと連携が不十分だと回答しています。
- 36%が、自社の文化をリスク回避型であると評価しており、また同数が組織内のスキル不足を懸念しています。
- 69%は、新しいテクノロジーの可能性をより効果的に経営層に説明する必要があると回答しており、経営層の積極的な支持がDXの取組みの成功につながります。
- 57%が、ベンダーとの長期契約が新しいテクノロジーへの投資を妨げていると回答しています。
- 42%が、拡大の一途をたどるパートナーとベンダーのエコシステムを管理する必要性がテクノロジースタックの課題となり、イノベーションを脅かしていると回答しています。
将来のDXを成功させるには、組織のリーダーは組織内に存在するコラボレーションと文化の弱点を解決する責任を引き受けなければなりません。テクノロジー部門が他部門と効果的に協力し合えるようにするためには、テクノロジーリーダーはスキルギャップを埋める必要があるでしょう。
5.意図を持ったDX
前回の調査結果では、デジタル活用能力の飛躍的な上昇が見られ、KPMGが当初定義したデジタルリーダーシップの枠を超える成長ぶりを示したことが非常に明確になりました。
今回の調査では、デジタルリーダーを特定する基準として、以下の新しい定義を採用しています。
(1)すでにテクノロジースタックを構築しており、それを活用すれば組織がDXを通じて目標を達成できるという確信を持っていること
(2)すでにテクノロジー投資から収益性や業績が向上し始めていること
これらを満たすのは回答組織の約15%であり、こうしたデジタルリーダーは、世界平均と比べてトランスフォーメーションのペースが速く、その成果も優れていることがデータから判明しています。
たとえば、デジタルリーダーの96%が、自社のテクノロジー部門は、組織が積極的に先端テクノロジーの可能性を開拓することに貢献できていると回答しており、回答組織全体の81%を大きく上回っています。さらに、デジタルリーダーの3分の2は、XaaS、データアナリティクス、AI、オートメーションといった先端テクノロジーに関連するプロジェクトが少なくとも実行段階に達している一方、回答組織全体では半数以下にとどまっています。
他組織はどうすればデジタルリーダーに追い付くことができるのでしょうか。
第一に、アジリティに注力する必要があります。デジタルエコノミーのなかで成長するために何が必要不可欠であるかという質問に対して、多くの回答者はサイバーセキュリティとプライバシーをビジネスに組み込むこと、そして、ビジネス部門間の共感とコミュニケーションを強化させることの2点を挙げました。
しかし、デジタルリーダーは「市場が発するシグナルに正確に反応するアジリティ」を重要な特性として選んでいる割合が他の組織よりもはるかに高いのです。今後、組織を取り巻く状況に対する適応力とアジリティを備えることは、テクノロジーリーダーにとって必須の要件となっていくでしょう。