はじめに
生成AIは、消費財・小売業界においてゲームチェンジャーとなる可能性があり、商業的な有効性、業務の効率化、コスト最適化など優れたビジネス成果が期待されます。KPMGが複数の業界のエグゼクティブを対象に実施した調査によると、消費財・小売業界のエグゼクティブは、生成AIが以下の業務を促進すると考えています。
- 顧客データを分析し、個別のおすすめを作成(66%が回答)
- 在庫管理のためのトレンド分析(64%)
- マーケティング用のキャッチコピーや製品概要などのコンテンツの作成(62%)
- カスタマーサービス用チャットボット(58%)
- 競争力のある価格設定(40%)
消費財・小売業界の生成AIへの期待と、生成AIが直面している課題
消費財・小売業界のエグゼクティブの70%(全業界では49%)が、生成AIが最も変革的な影響を与える領域としてマーケティングとセールスを挙げています。実際にマーケティングおよびセールス部門が生成AIの取組みを主導している企業は、消費財・小売業界では16%で、全業界では5%でした。また、これらの部門が生成AI対応に積極的なのは消費財・小売業界が57%で、全業界では31%でした。一方で、生成AIの出現への対応をまとめる中心的な人物またはチームを任命しているのは、消費財・小売企業のうちわずか23%(全業界では31%)です。生成AIを効果的かつ生産的に利用するために、企業は状況を変えて準備を進める必要があります。
次のアクション
信頼できるデータソースを集め、結果の検証方法を検討する
生成AIの活用には、データソースと結果に対する信頼が不可欠です。生成AIエンジンは一般公開データに学習していますが、そのデータはすべてが信頼できるわけではなく、必要な情報が不足していることもあります。これらの欠点が示すのは、オーダーメイドのデータ基盤を構築することの重要性です。このデータ基盤は、焦点を絞った洞察の提供、意思決定の改善、リスク特定、部門横断的なデータ活用、顧客理解に寄与します。ただし、現段階の生成AIは、合理的に見える結果を生成するものの、事実の誤認や推論の誤りがある可能性があります。消費財・小売業界が生成AIの成果を信頼するには、生成された内容が事実に基づいていて、信頼に足るのかを見極めなければなりません。
すべてのAIアプリケーションを管理する「責任あるAI」フレームワークを構築する
多くの企業がすでにAIを利用している可能性があり、顧客や従業員、その他のステークホルダーへの影響を考慮し、高度なガバナンスと倫理的な意図を持ってAIを利用するための、責任あるAIの利用に向けたフレームワークを構築することが求められています。また、倫理的にだけでなく法的な問題がないかを確認することも重要です。不正行為、他者の知的財産に対する侵害など生成AIの利用に伴うリスクを理解し、リスク管理体制を整えなければなりません。責任あるAIフレームワークを構築することで、企業はリスクを軽減するだけでなく、より最適化された方法でAIを開発し使用できるようになり、ビジネスの価値をより迅速に評価できるようになります。
ビジネスユースケース(生成AIの実現形態)を特定する
生成AIに投資する価値があることを明言するとともに、役割と責任を明確にしたAI戦略を策定することも必要です。同時に、潜在的なユースケースを見つけて価値を特定するために実証実験を即座に行いましょう。価格設定の最適化や顧客体験の向上に加えて、生成AIは需要予測や、広告・マーケティングキャンペーンのコンテンツの構築とキュレーションにも利用できます。生成AIは急速に変化することが予想されるため、テクノロジー戦略を持ち、ユースケースの要件に照らして生成AIの機能を継続的に確認することが重要です。
大規模な生成AIエンジンを導入する
データを最大限に活用するためには、大規模な生成AIエンジンの導入が求められます。エンジンに与えるプロンプトや質問には固有の価値があり、自社自身での検討が必要です。ここで重要なのは、生成AIをゼロから構築するのではなく、サードパーティーの専門家と協力して、適切な生成AIを選択・カスタマイズし、自社データでAIに学習させることです。構築したいユースケースのために、データサイエンスのスキルと、機能またはドメインの知識を持つパートナーを見つけてください。
生成AIを活用するために必要な技術的能力を獲得する
消費財・小売業界が生成AI戦略を実行し、ユースケースを実装するには、専門的な人材が必要です。データサイエンティスト、ソフトウェアエンジニア、データエンジニアなど、業界や特定領域の専門知識を持つ専門家が求められます。今後は、チャットボット機能のテストと検証を支援できるプロンプトエンジニアなど新しい専門家も重要視されるでしょう。生成AIの最大の価値を引き出すには、ITチームだけでなく、個々のチームメンバーもデータサイエンスとドメイン知識の両方を持つことが求められます。この新しいテクノロジーに備えるために、消費財・小売業界は、必要な人材と経験に今すぐ投資するか、この道を先導してくれる外部パートナーを見つけなければなりません。
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