本連載は、日経産業新聞(2023年11月~12月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

グローバルレベルでの事業戦略の見直しを

米国は、半導体が中国の経済的、軍事的な影響力拡大を支える原動力の1つになっているとして、日本を含む同盟国と連携して、半導体規制を強化しています。中国も半導体材料の輸出を規制して米国側を牽制しており、半導体をめぐる地政学リスクは高まる一方です。日本企業はサプライチェーンや備蓄体制に加え、中長期的なビジネスモデルや事業戦略などを見直し、不測の事態に備える必要があります。

米国は、前政権の頃から、中国に対する半導体輸出規制を段階的に強化しています。「国家安全保障戦略」で中国を明示的に主要な競争相手と位置付け、国家安全保障や外交政策上で懸念がある企業を列挙した「エンティティーリスト」(禁輸リスト)への中国企業の追加も見られます。

2021年に発足した現政権は、中国の競争力の抑止をさらに進めるため、対中輸出規制を拡大させています。2023年10月米国は対中半導体規制の強化を発表しました。従来の輸出規制より先端半導体の規制範囲を広くしたうえに第三国から迂回して中国へ輸出されることを防ぐため、中国と関係の近い国々も輸出規制対象に加えています。

現政権の輸出規制の特徴として、友好国に同調を求めることが挙げられます。たとえば、現政権は、半導体製造装置に強みを持つ日本とオランダに対し、対中貿易規制に同調することを要請しました。結果、日蘭両国は要請に合意し、2023年7月から9月にかけて先端半導体の製造装置に関する輸出管理規制を施行しています。一方、中国は、米国、日本、オランダの規制に対し、半導体などの素材になるガリウムとゲルマニウムの輸出規制を導入する対抗措置を打ち出しています。

このような輸出規制は、半導体製造分野などにおいて対象領域が今後さらに拡大することが懸念されます。また、2023年10月の新たな輸出規制の導入にあたり、米国半導体工業会(SIA)は米政府に同盟国にも同様の規制の導入を求めるよう促しており、米国の要請を受けて日本でも類似の規制が導入されることも想定して行動する必要があります。一方、中国側も対抗措置の拡大を示唆しており、米中間における規制の応酬はますます拡大することが考えられます。

日本企業は、米国などによる半導体輸出規制の拡大に備えるため、規制動向のモニタリング、自社の保有技術の洗出しに加えて、必要に応じて中長期的にはグローバルレベルでビジネスモデルや事業戦略の見直しを検討することなどが求められます。また、中国が強みとするレアメタルなどの資源について、中国が対抗措置として輸出を制限する可能性があるため、中国に依存する物資を洗い出し、サプライチェーンの脆弱点の特定や再編を検討することが求められます。

日経産業新聞 2023年11月24日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

執筆者

KPMGコンサルティング
シニアコンサルタント 石上 遼

経済安保時代の経営課題

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