1.グローバル
大型資金調達が牽引し、堅調に推移
2023年第2四半期の世界のベンチャーキャピタルによる投資は、米国のStripeが68億ドル、シンガポールのSheinが20億ドル、米国のAIスタートアップInflectionが13億ドル、インドのByjuが7億ドルを調達するなど、堅調に推移しました。
- AI分野への投資は引き続き高いレベルで推移
- ベンチャーキャピタルがレイターステージ案件を敬遠し続けるなか、世界的にダウンラウンドが増加
- IPOの機会が少ないなか、IPOに関心を持つスタートアップは魅力向上に努める
- 代替エネルギー、エネルギー貯蔵、クリーンテックは引き続きベンチャーキャピタルにとって魅力的な分野
2023年第3四半期に注目すべきトレンド
2023年第3四半期のベンチャーキャピタルによる投資環境に大きな変化は予想されませんが、いくつかの不確実要素が存在します。地政学的な課題や、企業がイグジットする確率が不明確であること、さらに景気が後退しているかどうかもはっきりしない状態です。加えて、将来的に金利が上がる可能性もあり、投資に影響を与えるかもしれません。これらの不確実性が重なることで、第3四半期の投資環境は厳しくなる可能性があります。
2.米国
大型資金調達が目立つ一方で全体的な投資は減少傾向
2023年第2四半期、決済処理会社Stripeが68億ドルの資金調達を行ったほか、AI企業Inflectionが13億ドル、Anthropicが4億5,000万ドルを獲得し、特化型クラウド企業CoreWeaveが4億2,100万ドル、バイオテック企業ElevateBioが4億100万ドルを集めました。大型資金調達が目立つ一方で、全体では投資が減少している状況です。
- 資金があるにもかかわらず、取引スピードは鈍いまま
- 急速に変化するベンチャーキャピタルの力関係
- IPOの機会は固く閉ざされ、機会を待つ企業は収益性の改善に注力
- 資金調達活動は抑制されたまま
2023年第3四半期に注目すべきトレンド
2023年第3四半期において、米国のベンチャーキャピタルによる投資は低迷すると予想されます。市場の不確実性と、2023年後半にさらなる金利の上昇が予想されることから、Stripeのようなメガディールがなければ、第3四半期の投資額は減少する可能性があります。
3.南北アメリカ
米国が牽引し堅調推移、カナダは安定するもブラジルは低調
2023年第2四半期、南北アメリカのベンチャーキャピタルによる投資は全体的に堅調でした。特に米国が地域投資の大半を占め、Stripeの68億ドルのメガディールが注目されました。カナダの投資も比較的好調でしたが、ブラジルは低調でした。
- カナダへのベンチャーキャピタルによる投資は引き続き堅調
- ブラジルではベンチャーキャピタルによる投資の減速が続く一方、長期的には明るい
- ベンチャーキャピタルが次なるホームランを狙うなか、AIに注目が集まる
- フィンテックが引き続きブラジルのベンチャーキャピタルによる投資を牽引するも、案件規模は限定的
2023年第3四半期に注目すべきトレンド
2023年第3四半期に向けて、市場の不確実性が高く、ベンチャーキャピタルは慎重な姿勢を維持したままであることから、南北アメリカ全体でのベンチャーキャピタルによる投資は比較的低調な推移が予想されます。特にブラジルでは、投資活動が低水準にとどまる見通しです。ただし、市場の不透明感が解消され、金利が下がり始めれば、大量のドライパウダー(投資可能な手元資金)と市場プレイヤーの増加により、再び活発化することが予想されます。
4.欧州
大型・レイターステージ投資に慎重な姿勢も、全体的な投資活動は堅調で前向きな兆し
2023年第2四半期、欧州のベンチャーキャピタルは市場の不確実性と少ないイグジット機会から大型投資、レイターステージへの投資を控えました。しかし、全体的な投資活動は堅調で、4四半期連続で投資額が減少しているなかで明るい兆候です。
- ベンチャーキャピタルがAIに注力するなか、EUがAIに焦点を当てた大規模な規制を可決
- 欧州全域でベンチャーキャピタルによる投資を集めるエネルギーとクリーンテック
- 英国でのベンチャーキャピタルによる投資がニューノーマルに
- 2023年第2四半期、ドイツでのベンチャーキャピタルによる投資は堅調に推移
- 北欧地域では軟調な市場状況が継続
- アイルランドのスタートアップエコシステムが拡大
- 急速に進化するオーストリアのベンチャーキャピタル市場
- 2023年第2四半期、イスラエルのベンチャーキャピタルによる投資は軟調
2023年第3四半期に注目すべきトレンド
欧州のベンチャーキャピタルは手元にドライパウダーがあるものの、市場環境とリスク回避的なLP(リミテッド・パートナーシップ)の存在により、資金調達の可能性に懸念があることを考慮すると、今後もドライパウダーの活用に慎重な姿勢が続くと予想されます。また、イグジット活動も限定的とされるため、スタートアップと投資家は市場が安定するまで様子見を続ける可能性が高いでしょう。
5.アジア
低調ながらも大型案件が際立つ、SheinとByjuの巨額調達に注目
2023年第2四半期のアジアにおけるベンチャーキャピタルによる投資は、シンガポールのSheinが20億ドルを、インドのByjuが7億ドルを調達したものの、全体の投資活動は低調でした。
- ダウンラウンドにもかかわらず、フォローオン・ファンディングがアジアにおける投資を牽引する役割を果たす
- 中国のベンチャーキャピタルは成果を示せる企業を優先
- 前四半期比では小幅増も、インドでのベンチャーキャピタルによる投資は依然として低調
好調な株式市場が日本の投資家の自信を高める
年初からの日経平均株価の大幅な上昇は、日本の株式市場が好調で、投資家の気持ちもポジティブであることを反映しており、この状況が日本のベンチャーキャピタル市場の成長と成熟に寄与しています。特に、日本のスタートアップは成長を続けており、より規模の大きな資金調達に成功しています。2023年第2四半期には、モビリティ関連のGoが1億300万ドル、エネルギーの京都フュージョニアリングが7,900万ドル、バイオテクノロジーのHeartseedやEditForceもそれぞれ資金調達に成功しています。さらに、2023年第2四半期のIPOによるイグジットは前年同期と比べて増加しています。大手テクノロジー企業が一部事業のスピンオフを計画しており、IPO活動のさらなる活性化が促進されるでしょう。
2023年第3四半期に注目すべきトレンド
2023年第3四半期において、アジア、特に中国と中華人民共和国香港特別行政区(SAR)では投資環境に対する楽観的な見方が広がっていますが、この楽観的な見方がベンチャーキャピタルによる投資にプラスに働くかは定かではありません。Alibabaの事業部門のスピンオフが計画されており、2023年下半期における中国と香港(SAR)のIPO活動の活性化が期待されます。この成功が他のIPO活動や、中国のテクノロジー企業への新たな関心を高めるきっかけになる可能性もあります。
英語コンテンツ(原文)
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