本レポートは、スタートアップ企業(以下、スタートアップ)と、スタートアップへ投資を行う投資企業(ベンチャーキャピタルおよびコーポレートベンチャーキャピタル)を対象とした、ESG活動の「認識」「活動実態」「課題感」の3つの要素に関するアンケート調査結果に加え、スタートアップ投資や育成・支援の第一線で活躍するMPower Partners Fund L.P.(本社:東京都港区)のパートナー深澤優壽氏と、IY Holdings株式会社(本社:長崎県壱岐市)の取締役会長山口豪志氏へのインタビュー記事で構成されています。

ESGの思想について、今や多くの組織が賛同し国際的潮流にもなっているなか、スタートアップに対しては、経済成長だけでなく社会課題の解決を伴うイノベーションの担い手としての期待が高まっています。
本調査は、そうした社会課題の解決に立ち向かうスタートアップを支援したいという想いから、スタートアップ、および投資企業のESGに対する想いや活動状況、活動するうえでの課題といった“現場のリアルな声”を可視化し、今後社会全体でどのようにスタートアップシーンの成長をもたらすことができるのかについて考察しています。

アンケート調査は、2022年11月下旬から2023年1月上旬にかけて実施されました。以下に調査結果の要点を紹介します。調査結果の詳細はレポートをご覧ください。

ESG活動の認識

非上場市場では上場市場に比べて規制などが少ないこともあり、「ESG活動」に対する認識もさまざまな傾向がみられます。そのため本調査ではまず、ESG活動に対する認識について、スタートアップ、投資企業の考えを問いました。結果、ESG活動を「自社の活動を通じてEやS、Gの観点の社会課題の解決や、社会的インパクトの創出を果たす」ことと認識する回答が、スタ―トアップ、投資企業とも最多となりました(スタートアップ89%、投資企業74%)。 

◆「ESG活動」の認識(スタートアップ)

国内スタートアップシーンESG活動調査_図表1

◆「ESG活動」の認識(投資企業)

国内スタートアップシーンESG活動調査_図表2

また、スタートアップ、投資企業ともに、そうしたESG活動は国内スタートアップシーンにとって重要であると考えていることがわかりました。スタートアップでは「大変重要」(44%)と「やや重要」(35%)をあわせた79%が、投資企業については「大変重要」(42%)、「やや重要」(53%)と、スタートアップを上回る合計95%が重視する回答となりました。短期間で大きな成長を目指すスタートアップと、そうした企業へリスクを取りながら投資する企業のそれぞれが、経済面と連動して社会的なインパクトの創出に挑戦することを重視する姿が明らかになったと考えられます。

◆「ESG活動」の重要性(左:スタートアップ、右:投資企業)

国内スタートアップシーンESG活動調査_図表3

ESG活動の実態

ESG活動について、実施または検討などのアクションを起こしている割合はスタートアップで77%(62社中48社)、投資企業で84%(19社中16社)にのぼりました。

詳細なESG活動ごとにみると、活動内容によっては、重要性は認識しているものの、アクションに移せていない(「認識」率と「活動」率の乖離が比較的大きい)活動がいくつか見受けられ、それらはスタートアップと投資企業間で異なっていました。ESG活動に対する認識や重要性は、スタートアップと投資企業で同傾向を示していても、両者それぞれの企業活動特性から、実行難易度が異なる活動が存在すると考えられます。

◆ESG活動の「認識」と「活動」(スタートアップ)

国内スタートアップシーンESG活動調査_図表4

◆ESG活動の「認識」と「活動」(投資企業)

国内スタートアップシーンESG活動調査_図表5

さらに、社内におけるESG活動の浸透度を評価する問いに対しては、浸透度が50%以上と評価した企業の合計はスタートアップで33%、投資企業では44%と、ともに回答数の半分にも満たない結果となりました。両者とも、社内でのESG活動の浸透は道半ばであることがわかりました。

◆ESG活動の社内浸透度(スタートアップ、投資企業)

国内スタートアップシーンESG活動調査_図表6

ESG活動への課題感

ESG活動を進めるうえでの自社内(内部環境)に関する課題について、スタートアップでは「リソースが足りない・割けない」(55%)が最多となり、常に人材や資金などのリソース不足に悩まされがちなスタートアップの特性が反映された結果となりました。投資企業では、投資企業のみへ提示した選択肢であった「ESG要素の測定・評価方法が難しい」(42%)が最も多い回答となり、こちらも投資活動を行う事業特性が表れた結果と考えられます。

一方、「スキル・経験を持ち合わせた適切な人材がいない」はスタートアップと投資企業双方に共通する2番目に多い回答となり、スタートアップエコシステムにおいて、最適なESG活動というものを自ら考え、リードする人材の育成や獲得が難しい状況が推察されます。

◆自社内で感じる課題(スタートアップ)

国内スタートアップシーンESG活動調査_図表7

◆自社内で感じる課題(投資企業)

国内スタートアップシーンESG活動調査_図表8

スタートアップと投資企業の両者が共通して挙げた、企業内活動に起因しない外部環境要因の課題は、「スタートアップのESG活動/スタートアップへのESG投資を支援する政策や現実化している制度が不十分」(スタートアップ40%、投資企業42%)、「スタートアップの企業活動/スタートアップ投資に即したESG関連ガイダンスが何かわからない」(同35%、32%)、「スタートアップのESG活動/スタートアップへのESG投資を支持する消費者が少ない」(同29%、21%)でした。

これらは順位も同じく上位3位を占めています。特に制度に関する課題感は、それぞれの企業内活動に起因する課題を除いてトップであり、重要課題である可能性が示されています。

こうした公的制度やガイダンス、消費者の支持に関する結果は、スタートアップならではの成長に紐づくESG活動に対し、国内スタートアップシーンにおける支援基盤として、あってほしい手引きや支援、支持対象としてのコンセンサスを望む声の表れと解釈できるでしょう。

◆行政や世間・社会(国内)に向けて感じる課題(スタートアップ、投資企業)

国内スタートアップシーンESG活動調査_図表9

レポートの全文は下記からダウンロードいただけます。