さまざまな分野で公共政策や規制が活発化し、社会や各業界に大きな影響を与えている現代において、私たちはこのような規制の変化に対応していかなければなりません。増大する経営層や規制当局からの期待に応えるため、コンプライアンスは単に効果的かつ効率的であるだけでなく、より高いレベルに向上させる必要に迫られています。
倫理・コンプライアンス機能に対するテクノロジーとデータ解析への投資は、もはや「あると良いもの」ではなく、リスクの軽減、測定、特定に役立つ「必要不可欠なもの」となっています。

KPMGは、フォーチュン500社のうち、ヘルスケア、金融、製造、消費財・小売、情報通信、エネルギーなどの業種に属するさまざまな企業から240名の最高倫理・コンプライアンス責任者(CCO)を対象に調査を行いました。
本稿では、レポートの調査結果から得られた6つのKey findingsのポイントを紹介します(レポートの全文はPDFをご覧ください)。

1.経営層と規制当局によるコンプライアンスへのプレッシャー

回答企業の73%が規制当局の期待/監視の高まりを受け、コンプライアンスの注目度が増えたと回答しています。また、コンプライアンスの強化においてプレッシャーを感じる要因として、「経営層」と「規制当局」が上位2つを占めていますが、回答からは業界による明確な違いが見られます。

【図表1:コンプライアンスへの注目度とプレッシャー】

KPMG CCO調査2023_図表1

2.組織が直面する最大のコンプライアンス課題は新たな規制要件

コンプライアンスに関する主な課題の回答では、「新しい規制要件への対応」がトップで43%、次に「コンプライアンスのモニタリングとリスク管理のためのデータ分析/予測モデリング」(28%)、「有能な人材を惹きつける力」(24%)と続いています。
新しい規制には、たとえば下記に挙げる米国の強力な規則/ガイダンスの策定、執行活動があり、これらはすでに実施されています。

  • 米国証券取引委員会(SEC)による開示提案(サイバーセキュリティ、気候変動など)、インサイダー取引、クローバック(報酬返還)方針
  • 連邦取引委員会(FTC)による合併、公正競争、データ利用/プライバシーに関するガイドライン
  • 米国司法省(DOJ)「モナコ・メモ」 による企業犯罪取締ポリシー改訂(個人の説明責任、自発的な自己開示、コンプライアンス文化の向上など、企業倫理とコンプライアンス強化を目的としたもの)

【図表2:コンプライアンスに関する主な課題】

KPMG CCO調査2023_図表2

3.業界固有の規制に関するコンプライアンスが最も改善すべき重要領域

今後最も改善すべきとされたコンプライアンス領域は、「業界固有の規制」で、昨年の調査より6%上がっています。規制への対応は、2位の「サイバー保護/情報保護」にも関連しており、データガバナンス、サイバーセキュリティリスク、AIなど、この領域における政府の横断的な規制政策への注意が必要です。
なお、公平性、データのプライバシーと利用、詐欺被害防止を含む消費者保護についても、昨年より2%下がったとはいえ3位に位置しており、引き続き企業の関心が高いことがわかります。

【図表3:改善すべきコンプライアンス領域】

KPMG CCO調査2023_図表3

4.サステナビリティ/ESGコンプライアンスは企画・開発段階

サステナビリティ/ESGの要素をコンプライアンス機能に実装したかという質問では、「実装済み」との回答が49%である一方、「企画・開発段階」であるとの回答も44%と、ほぼ半々の結果でした。サステナビリティ/ESGのコンプライアンスプログラム(規制のトラッキング機能、コンプライアンスリスク評価など)を構築するにあたって、制度の設計面・導入面で、企業がさまざまな課題を持っていることが予想されます。

なお、サステナビリティ/ESGのコンプライアンスを強化すべき分野として、「ESG指標のモニタリング/テスト」や「規制のスキャニング」が上位に挙げられていますが、「規制の管理」「データコントロール」「報告」との回答も多く、課題面の複雑さがうかがえます。

【図表4:強化すべきサステナビリティ/ESGのコンプライアンス分野】

KPMG CCO調査2023_図表4

5.コンプライアンスに関するテクノロジーとデータ分析が最も強化すべき領域

コンプライアンスの分野においても、AIやクラウドなど最新テクノロジーの導入が求められています。しかし、テクノロジーによるリスク管理、テクノロジーの強靭性、業務継続性に対する期待が高まる一方、デジタルデバイス、AI、機械学習、自動化など新しいテクノロジーの社内外の使用に対する規制当局の監視が高まっています。

【図表5:コンプライアンスにおけるテクノロジーの成熟度と将来の見込み】

KPMG CCO調査2023_図表5

6.コンプライアンスに関する説明責任や労働力不足が最大の懸念事項

コンプライアンス分野の人材については課題も見られるものの、回答企業の56%が「携わる従業員数が増える見込みがある」と回答しています。不安定な経済状況にもかかわらずコンプライアンスに携わる従業員の増加が予測されていることは、各企業の説明責任において倫理・コンプライアンスが重要であり強い関心を持たれていることを示しています。

コンプライアンスに携わる人材/スキルに関連した規制や執行においては、以下のような説明責任が重要視されています。

  • DOJの刑事局規則改訂版では、コンプライアンス文化を促進するため、自発的な自主開示や報酬体系に関連する「協力クレジット」などのインセンティブ制度が設けられている。
  • DOJは、企業倫理とコンプライアンスにおける最優先事項は、違法行為を行いそれによって利益を得ている個人に説明責任を課すことであると述べている。
  • 役員の不正(販売における不正行為、誤解を招く開示など)に対する強制措置が定められている。

【図表6:コンプライアンス分野における人材不足/定着率の懸念と将来の従業員数の見込み】

KPMG CCO調査2023_図表6

レポートの全文では、調査結果の詳細なグラフとKPMGの知見を掲載しています。ぜひご一読ください。

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