本連載は、日刊工業新聞(2023年2月~4月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。
DX推進のためのリスキリング
本連載ではこれまでデジタル変革(以下、DX)にかかわるガバナンス、サイバーセキュリティ、データの活用、開発手法、内部監査などに触れながら、新たな領域のリスク管理について解説してきました。これらを推進する上で欠かせないのが、「組織」と「人材」です。
進化するテクノロジーおよびDX関連ソリューションなどは刻々と変化しますが、それらを調和させながらメリットとして享受するのは、組織であり人です。人材の確保や育成は、DX推進の根幹にかかわる非常に重要なテーマです。DXに携わる人材として、経営戦略をDX戦略やデジタル戦略に落とし込むスキル、人工知能(AI)をはじめとした最新のテクノロジーやソリューションを活用するスキル、データの活用を通じて価値を生み出すデータサイエンティストとしてのスキル、進化するサイバー攻撃に適切に対処するスキルなど、さまざまな分野で多種多様なスキルを兼ね備えたデジタル人材が必要になってきます。
ただし、明確なデジタル人材のキャリアパス、スキル要件などがないままに取組みが進むと、個々の能力が高くても総合力を発揮できないリスクがあります。また、期待するデジタル人材が組織に定着せず、継続的な人材が確保できないことにより、DX推進が頓挫するリスクなども考えられます。そのため、デジタル人材のキャリアパス、スキル要件などを明確化した上でのスキルアップ計画、すなわちリスキリングの立案と遂行が重要となってきます。
自組織が期待するデジタル人材像を導出するためには「必要なDX組織機能の定義」「必要なDX人材教育計画の立案」を順に検討するアプローチが効果的と考えます。
取組みの中核的な役割を担うことが期待されるDX推進組織は、新たな組織を立ち上げる「組織新設型」とIT部門や経営企画部門などの既存の組織をベースとした「既存組織拡張型」が考えられます。検討過程において、必要なDX組織機能の定義が明らかになり、それを前提として必要なDX人材の定義の検討を進めることができます。
さらに、必要なDX人材の定義において、カテゴリーやスキルを検討し、その上で必要なDX人材教育計画の立案を行うことが、整合性のあるデジタル人材像を示すことにつながるのです。
これらのデジタル人材を確保するための推進組織の検討、人材像の定義、育成、教育計画は、全社的な経営戦略との整合が重要であり、経営者がリーダーシップを発揮して方向性を示すことで、全社的な共感、理解を得た取組みとして推進していくことが可能になります。
さまざまな能力を有したデジタル人材が有機的に機能することで、取組みに参画する各人が達成感を得られるようなDX推進が、各所で進行することが期待されます。
日刊工業新聞 2023年4月21日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日刊工業新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。
執筆者
KPMGコンサルティング
パートナー 関 克彦