1.グローバル
南北アメリカ、欧州、アジアのいずれの地域においても投資額が減少
2023年第1四半期の世界のベンチャーキャピタルによる投資額は、570億ドルに減少しました。これは前年同期の2,000億ドル以上という高水準と比較すると、顕著に低い水準でした。ロシアとウクライナによる紛争の長期化など地政学的な不確実性のほか、今四半期にみられた世界的な銀行システムに対する懸念など多様な要因が影響を与えました。また、高いインフレ率と上昇を続ける金利も課題となっています。
- メガディールの減少に伴い、主要地域で投資総額・取引数ともに減少
- 注目される生成AI(ジェネレーティブAI)
- 代替エネルギー分野がすべての地域での最大案件に
- アジアを除く各地域でのIPOの機会は年末までは限定的
2023年第2四半期に注目すべきトレンド
世界的に市場の不確実性が大きいことから、2023年第2四半期に向けてベンチャーキャピタルによる投資は軟調に推移することが予想されます。一方で、代替エネルギーやグリーンテック、防衛、サイバーセキュリティ、B2Bサービスなどの分野は投資意欲が旺盛です。また生成AIも投資が急増する可能性があるでしょう。さらに長期的にみると、ドローン技術が防衛やロジスティクスの分野だけでなくアグリテックなどの新興分野でも注目され、投資が増える可能性があります。
2.米国
米国におけるベンチャーキャピタルによる投資は3四半期連続で低調に推移
米国のベンチャーキャピタルによる投資額は、2022年第4四半期の400億ドルから2023年第1四半期は310億ドルに減少しました。この投資額の減少は世界的に長引く地政学的な不確実性のほか、金利の継続的な上昇、2022年に起きた暗号資産の課題、ハイテク分野のバリュエーションに対する継続的な懸念、世界的な銀行システムの混乱など、多くの要因によってもたらされました。
- 米国におけるベンチャーキャピタルによる投資額は前年同期の半分以下に
- ドライパウダーはあるが、米国のベンチャーキャピタルの姿勢はきわめて慎重
- 米国のベンチャーキャピタルにとって防衛関連技術は引き続き魅力的な分野
- IPOの機会が限定されるなか、自社事業を強化
- ヘルスケアの近代化は引き続き投資家の注目を集める分野
- M&Aは引き続き低迷
2023年第2四半期に注目すべきトレンド
米国におけるベンチャーキャピタルによる投資は2023年第2四半期も低調に推移することが予想されますが、そのなかでエネルギー、サイバーセキュリティ、防衛関連の分野は引き続き投資を呼び込むでしょう。また生成AIも投資家からの関心がさらに高まると考えられます。さらに2023年第1四半期に米国で発生した予期せぬ銀行業界への懸念を受け、そのソリューションとしてフィンテックが新たな関心を集める可能性があります。
3.南北アメリカ
金利の上昇や高いインフレ率が影響し、今四半期も減少
金利の上昇や高水準が続くインフレ率に加え、地政学的課題への懸念が深まるなか、南北アメリカにおけるベンチャーキャピタルによる投資額は2023年第1四半期も減少しました。また、今四半期に発生した世界的な銀行業界の予想外の混乱は、南北アメリカ地域においてもベンチャーキャピタルに懸念を抱かせたと推測されます。
- 米国が南北アメリカにおけるベンチャーキャピタルによる投資の中心に
- カナダの医療・バイオテクノロジー分野は引き続き投資を誘引
- ブラジルでプレシード案件が好調を維持
- 企業間連携に意欲的な企業が増加
2023年第2四半期に注目すべきトレンド
2023年の年央まで不透明感が強いと予想されるため、南北アメリカにおけるベンチャーキャピタルによる投資は、2023年第2四半期に向けても低調に推移すると考えられます。米国ではエネルギー分野が引き続き注目を集め、カナダでは中小規模案件が中心になるでしょう。また、ブラジルを拠点とするスタートアップのM&Aが増加する可能性があります。
4.欧州
欧州における取引数・取引総額は4四半期連続で減少
2023年第1四半期の欧州におけるベンチャーキャピタルによる取引総額は、2022年第4四半期の157億ドルから98億ドルへと減少しました。前年同期にみられた取引数・取引総額と比較すると、特に顕著に減少しています。
- ベンチャーキャピタルが投資先企業に対してより厳しく対応
- 各国政府によるスタートアップへの支援強化
- 英国でのベンチャーキャピタルによる投資額は前年同期比で減少
- ドイツでは代替エルギーが大きな注目を浴びる
- イスラエルの不確実性がベンチャーキャピタルによる投資を躊躇させる
- アイルランドは引き続き多様な投資を誘致
- 北欧地域は静かな年明けを迎える
2023年第2四半期に注目すべきトレンド
欧州におけるベンチャーキャピタルによる投資は引き続き厳しい四半期になると考えられます。従来のベンチャーキャピタルは慎重な姿勢を崩さず、投資先企業のビジネスモデルの回復力などを案件ごとに慎重に精査するほか、投資先企業に対しコスト削減のプレッシャーをかけていくことが予想されます。資本力のある企業においては、現在の市場環境を困難なものではなく、特に買収に関しては機会ととらえ始めるところもあるかもしれません。また、主力事業ではないノンコア事業を切り離すカーブアウトや既存事業の強化を目的としたボルトオン買収も増加する可能性があります。
5.アジア
中国ではゼロコロナ政策解除後の感染拡大により、大きな打撃を受ける
アジアにおけるベンチャーキャピタルによる投資額は、2022年第4四半期の255億ドルから2023年第1四半期には135億ドルに減少し、2015年第2四半期以降で最も低い水準となりました。中国では、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が新年の祝日を前にしたベンチャーキャピタルによる活動を阻害し、香港(SAR)では金利の上昇とIPOの鈍化の影響を受け、インドでは投資家が投資に慎重な姿勢を示しました。
- アジア全体、特に中国と香港(SAR)で注目される代替エネルギー
- 中国でのベンチャーキャピタルによる投資額は前四半期比で大幅に減少
- インドへのベンチャーキャピタルによる投資は依然として低調だが、長期的な見通しは明るい
- 香港(SAR)を中心にアジアで注目されるAI
日本ではベンチャーキャピタルによる投資がわずかに増加
ベンチャーキャピタルの投資は今四半期わずかに増加したものの、投資総額は前年同期を大きく下回りました。シリーズCラウンド以降の投資の選択が強まっていましたが、シードおよびシリーズAラウンドへの投資に対する意欲は引き続き非常に旺盛でした。日本政府は「統合イノベーション戦略2022」においてイノベーションを促進することを強くコミットしており、2023年第1四半期にはこの戦略に含まれるいくつかのイニシアチブが進められました。
2023年第2四半期に注目すべきトレンド
いくつかの国や地域では将来に向けて明るい兆候がみえており、ベンチャーキャピタルによる投資が著しく回復することはないと考えられるものの、ポジティブな市況感が続けば2023年の後半に向けて回復し始める可能性があります。また香港(SAR)におけるハイテク企業を対象とした新しい上場規則の制定により、IPOへの関心が高まる可能性も考えられます。そして中国はディープテックや電気自動車、バイオテクノロジーなどの分野における技術主導型ビジネスに対する中国本土の証券取引所への上場の魅力向上に取り組んでいます。
英語コンテンツ(原文)
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