ユーラシア・グループの予測によれば、今がまさにボラティリティ(不安定)の時代であること、新たな危機が常に間近に迫り、世界の至る所でビジネスが脅威にさらされていることは明白です。KPMGによる最新のCEO Outlook では、今後もビジネス戦略が地政学的な不確実性に左右される可能性が高く、CEOの81%がリスク管理手続きを調整する必要があると予想していることがわかりました。地政学的リスクには相互に強く関連し合い、伝播する傾向があります。ロシア政府によるウクライナでの戦争の継続と北大西洋条約機構(NATO)との対立激化の可能性、中国の世界経済への影響力(特に、ゼロコロナ政策転換後の経済再開)、生成人工知能(AI)などの新技術の破壊的性質からなる複合リスクの深刻さが浮き彫りとなっており、企業にとっては効果的なリスク管理アプローチが必要です。

1.グローバリゼーションの変化と国家安全保障による影響

今日の不安定な地政学的環境は、冷戦後の国際的ルールに基づく秩序からの逸脱を特徴としています。グローバリゼーションは分断化された世界へと形を変え、経済的な協力関係の希薄化と競争の激化をもたらしています。高度に統合された複雑なサプライチェーンは、かつては自由貿易と経済効率の証として称賛されましたが、地政学的な競争が激化する今となっては、再構築を要する脆弱性として認識されています。ビジネスリーダーが新たな環境下で機会を捉えて、リスクを回避していくには、国家安全保障がどのように新しいモデルを形成しているかを理解し、そしてビジネス目標に対する政治の影響を評価する必要があります。

ビジネスリーダーには、以下を含む新たなグローバル経済のパラダイムを形成する主な要因を特定し、これを監視することが求められます。

  • 平和の恩恵の終焉とウクライナ戦争の波及効果
  • 西側同盟国とそれ以外の国の戦略的競争
  • 主要な経済拠点における人口統計学状の課題
  • 保護主義を強める国家安全保障目標に基づく産業政策

さらに、企業には、経済環境の地政学的要因を考慮した上で、自社の業種、事業、戦略に適用するグローバリゼーションを巡る今後のシナリオを描き、以下を含む対策を考慮することが望まれます。

  • サプライチェーンのレジリエンスの強化とシームレス化
  • 分断化する世界における貿易コンプライアンスの効率化
  • チーフ・ジオポリティカル・オフィサー(CGO)の任命
  • 地政学ストレステストの実施
  • 地政学的リスク評価・予測・監視ソリューションの導入

2.生産性、効率性、ESG:困難な経済状況下における戦略

現在の「ポリクライシス」とこれに続く地政学的不況が、歴史的な高インフレを中心とする経済状況の悪化と、長年にわたる世界の進歩の崩壊を招いている、ということは明らかです。マクロトレンドを監視・管理することは、2023年以降のビジネスレジリエンス構築のための鍵になると考えられ、取締役会レベルでの話し合いにおいて「スタグフレーション」「エネルギーと食糧危機」「生活費危機と格差」「ESGの今後」といった4つの連動した課題を中心的議題とすることが望まれます。

  • サプライチェーンの混乱、人口統計学上の課題、ウクライナでの戦争によるクリティカルな物資への影響など、供給サイドのインフレ原因が継続する場合は、スタグフレーションは極めて厄介な状況になると考えられる。その結果、ビジネスリーダーは、「エネルギー、原材料、労働力などの投入コストや事業コストの高騰」そして「需要の低迷」という2つのタイプの利益率の低下に直面する可能性がある。
  • ロシアのウクライナ侵攻に対する永続的な解決策を見出さない限り、食糧とエネルギーを巡る世界的なサプライチェーンを再構築できるかどうかが、ビジネスリーダーにとっては、迫り来る経済危機の強度と期間を評価する上での大切な指標となる。
  • 生活費危機の拡大により、政府だけでなく、ビジネスリーダーにも社会経済的課題への対処が求められる。ビジネスリーダーは、ストライキやレピュテーションリスクの問題が深刻さを増す中で、賃金問題の解決を強いられることになる。
  • ESGに関する基準や報告は世界で統一されていないものの、鍵となるのは一貫性のある包括的なESG戦略を実施することである。欧州の「平和の恩恵」の終焉を目の当たりにする今、ESG戦略の立案者や取締役会においては、地政学的な変化を注視し、新たな危機を見極めることが課題となる。

企業にとって困難な状況が続く中で、ビジネスリーダーが課題を乗り切るための対策として以下の点が挙げられます。

ESGの挑戦を主導する

地政学的リスクとその影響の予測(ESGに関する検討を含む)を行うには、企業としてどのような分析能力が必要であり、これを社内でどのように展開すれば最大限の効果が得られるか。こうした疑問に答えることが、効果的なESGアプローチを開発する上で極めてクリティカルとなります。一貫したESG戦略は、以下を考慮している必要があります。

  • ESGに関するランドスケープ
  • ESG成熟度とESGへの意欲の評価
  • マテリアリティ評価
  • ESG戦略と戦略オプションの策定
  • 循環型経済の実践
  • 説得力のあるESGストーリーテリング

人材の獲得と維持

  • 不安定な状況下でも従業員や会社の思案が維持されることを保証する
  • ストライキに関連した混乱が発生した場合もサプライチェーンの柔軟性とレジリエンスを維持する
  • 賃金交渉において、公平性と透明性の大切さがこれまで以上に高まる
  • 予算に制約がある場合は、柔軟性と対応力を発揮することが人材の維持に大きく寄与する

高インフレと資本コストの高騰が進む今、戦略的ディールで価値を引き出す

  • 現在の市場環境、技術的混乱、地政学的要因に起因する経済的逆風により、取引の実行と価値の創造の大切さと同時に、その複雑性もこれまで以上に高まっている
  • ディールメーカーは、価値創造と生産性に焦点を当てた新たな投資戦略を積極的に策定し、持続的で長期的なリターンを確保する必要がある
  • 取引環境における競争が激化する中、取引の双方の側にビッグデータや高度な分析を活用することが求められる
  • 適切なセクター、市場、地理的インサイトに基づく解釈を行うことで、ディール業務の実施者は高度な分析を通じて、適切な情報を適切なタイミングで取得できる
  • 政治的リスクに対するデューデリジェンスは、従来のコマーシャルデューデリジェンスを補完し得る

3.テクノロジーがカギ:メリットの活用とデメリットの回避

先を見据えたテクノロジーへの投資は、コストや時間といったリソースの投入、ROI算出の曖昧な本質を考えた場合、簡単には決断しがたい実情があるものの、消極的なアプローチでは、大きな技術的進歩を大規模な生産性の向上に導く最前線に立つという、一世代に一度の機会を見逃すリスクがあります。テクノロジーはすでに多くの分野でゲームチェンジャーとなっているのです。一方、新たなテクノロジーを活用する上で、サイバーセキュリティの脅威は動的な脅威であり、関連する影響はますます強くなっています。AIやデジタル戦略の加速、ハッキングやランサムウェア攻撃の高度化、ユーザー、企業、ベンダー、政府機関における責任系統に関する定義の欠如などにより、取締役会やその委員会の議題に占めるサイバーセキュリティの割合は増加しています。

企業が、テクノロジーのデメリットを回避しながら、そのメリットを活用するための対策として、以下の点が挙げられます。

サイバーセキュリティ戦略への投資

  • サイバーセキュリティリスクの定量化の強化
  • 「セキュア・バイ・デザイン」の原則を取り入れる
  • サイバーセキュリティにおけるヒューマンファクターへの対処
  • 官民によるセキュリティパートナーシップへの投資

デジタルトランスフォーメーションへの移行

  • 顧客の期待に応え、それを超えるコネクテッドエンタープライズを目指す
  • ESG目標達成のためのツールとしてクラウドを活用する
  • インテリジェントオートメーションによる労働力の活性化

お問合せ