ASBJ、実務対応報告第45号「資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い」等を公表
2023年11月17日に、企業会計基準委員会(ASBJ)は実務対応報告第45号「資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い」等を、日本公認会計士協会(JICPA)は会計制度委員会報告第8号「連結財務諸表等におけるキャッシュ・フロー計算書の作成に関する実務指針」を公表。
2023年11月17日に、企業会計基準委員会(ASBJ)は実務対応報告第45号「資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い」等を、日本公認会計士協…
2023年11月17日に、企業会計基準委員会(以下、ASBJ)は、実務対応報告第45号「資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い」(以下、本実務対応報告)及び企業会計基準第32号「『連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準』の一部改正」(本実務対応報告とまとめて以下、本実務対応報告等)を公表しました。
また、同日、これに伴って日本公認会計士協会(JICPA)は、会計制度委員会報告第8号「連結財務諸表等におけるキャッシュ・フロー計算書の作成に関する実務指針」の改正を公表しました。
本実務対応報告では、資金決済法上の電子決済手段の発行及び保有等の会計処理及び開示について定めています。
2023年5月に公表された公開草案から大きな変更はありません。
ハイライト
I.本実務対応報告の公表の経緯
2022年6月に改正された「資金決済に関する法律」(以下「資金決済法」という。)において、いわゆるステーブルコインのうち、法定通貨の価値と連動した価格で発行され券面額と同額で払戻しを約するもの及びこれに準ずる性質を有するものが新たに「電子決済手段」と定義され、また、これを取り扱う電子決済手段等取引業者について登録制が導入され、必要な規定の整備が行われました。
こうした状況を受けて、ASBJは資金決済法上の電子決済手段の発行及び保有等に係る会計上の取扱いについて検討を重ね、その結果を実務対応報告として公表しました。
II.本実務対応報告等の主な内容
1.範囲
本実務対応報告は、資金決済法第2条第5項に規定される電子決済手段のうち、第1号電子決済手段、第2号電子決済手段及び第3号電子決済手段を対象とすることとされています。ただし、次の(1)及び(2)については、本実務対応報告の適用範囲に含めていません。
(1)外国電子決済手段(電子決済手段の利用者が電子決済手段等取引業者に預託している外国電子決済手段を除く)
(2)第3号電子決済手段の発行者側に係る会計処理及び開示
図1 資金決済法第2条第5項に規定される電子決済手段の分類
分類 | 内容 |
---|---|
第1号 | 物品等の購入若しくは借り受け、又は役務提供の代価弁済のために不特定の者に対して使用でき、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却できる財産的価値(通貨建資産に限る) *1、*2 |
第2号 | 不特定の者を相手方として第1号電子決済手段と相互に交換できる財産的価値(通貨建資産に限る) *1、*2 |
第3号 | 金銭信託の受益権であって、信託契約により受け入れた金銭の全額が預貯金により分別管理されるもの(特定信託受益権) *1 |
第4号 | 上記に準ずるものとして内閣府令で定めるもの *3 |
*1 電子機器等に電子的方法で記録され、電子情報処理組織を用いて移転できることが要件となっている。
*2 有価証券、電子記録債権、前払式支払手段(例えば、電子マネー)等は、原則として除外されている。
*3 本実務対応報告の対象ではない。本実務対応報告の公表時点では指定されるものが見込まれていない。
2.電子決済手段に係る会計処理
本実務対応報告の対象となる電子決済手段は主に、(1)送金・決済手段として使用される、(2)利用者の請求により券面額に基づく価額と同額の金銭による払い戻しを受けることができる、価値の安定した電子的な決済手段である、(3)流通性がある、という3つの特徴を有しており、その会計上の特徴は、電子決済手段の券面額に基づく価額で財又はサービスの対価の支払いに使用される点や法定通貨との価値の連動が図られている点で通貨に類似する性格を有し、また、現金を引き出す契約上の権利であり、払戻しの請求を行うと速やかに金銭による払戻しが行われる点で要求払預金に類似する性格を有する資産であると考えられます。このような性格を踏まえ、以下のように会計処理及び開示が定められました。
(1) 電子決済手段の保有に係る会計処理
1.取得時
受渡日に電子決済手段の券面額に基づく価額をもって資産として計上し、取得価額と券面額に基づく価額との間に差額がある場合、当該差額を損益として処理する。
2.移転時又は払戻時
電子決済手段を第三者に移転するとき又は発行者から金銭による払戻しを受けるときは、受渡日に電子決済手段を取り崩す。電子決済手段の帳簿価額と金銭の受取額との間に差額がある場合、当該差額を損益として処理する。
3.期末時
電子決済手段は、券面額に基づく価額をもって貸借対照表価額とする。
(2) 電子決済手段の発行に係る会計処理
1.発行時
受渡日に電子決済手段に係る払戻義務について債務額をもって負債として計上する。発行価額の総額と当該債務額との間に差額がある場合、当該差額を損益として処理する。
2.払戻時
受渡日に債務額を取り崩す。
3.期末時
電子決済手段に係る払戻義務は、債務額をもって貸借対照表価額とする。
(3) 外貨建電子決済手段に係る会計処理
1.期末時
外貨建電子決済手段の期末時における円換算については、「外貨建取引等会計処理基準」―2(1)1.の定め(外国通貨の換算方法)に準じて決算時の為替相場による円換算額を付す。また、外貨建電子決済手段に係る払込義務の期末時における円換算については、「外貨建取引等会計処理基準」―2(1)2.の定め(外貨建金銭債権債務の換算方法)に従って決算時の為替相場による円換算額を付す。
(4) 預託電子決済手段に係る取扱い
電子決済手段等取引業者又はその発行する電子決済手段について電子決済手段等取引業を行う電子決済手段の発行者は、電子決済手段の利用者から預かった電子決済手段を資産として計上しない。また、利用者に対する返還義務を負債として計上しない。
(5) 開示
電子決済手段及び電子決済手段に係る払戻義務に関して、「金融商品に関する会計基準」第40-2項に定める事項(金融商品の状況に関する事項、金融商品の時価等に関する事項、及び金融商品の時価のレベルごと内訳等に関する事項)の注記を行う。
(6) 連結キャッシュ・フロー計算書等における資金の範囲
本実務対応報告の対象となる電子決済手段を「現金」に含める。
なお、本実務対応報告では貸借対照表上の取扱いは定められていませんが、本実務対応報告の対象となる電子決済手段が開示規則等により貸借対照表の「現金及び預金」に含まれない場合には、重要性も踏まえてその性質を示す適切な科目で表示することになると考えられます。
3.適用時期
公表日以後適用することとされています。
なお、企業会計基準第24項「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」第6項(1)に定める会計方針の変更に関する原則的な取扱いに従い、新たな会計方針を遡及適用することになります。
図2 電子決済手段を保有又は発行する場合の会計処理のまとめ(一部)
保有 | 発行 | ||
取得時又は発行時 | 受渡日に券面額に基づく価額で資産計上 取得価額と券面額に基づく価額との差額は損益として処理 |
受渡日に払戻義務を債務額で負債計上 発行価額の総額と債務額との差額は損益として処理 |
|
移転時又は払戻時 | 受渡日に電子決済手段を取り崩す 帳簿価額と金銭の受取額との差額は損益として処理 |
受渡日に債務額を取り崩す |
|
期末 | 貸借対照表価額 | 券面額に基づく価額 | 債務額 |
外貨建電子決済手段の円換算 | 決算時の為替相場による円換算 |
決算時の為替相場による円換算 |
執筆者
あずさ監査法人
会計プラクティス部
シニアマネジャー 豊永 貴弘