ドイツ自動車工業会(VDA)が定めたTISAX審査の評価項目は、VDA ISA(Information Security Assessment)という評価シートに定められています(「TISAX審査の評価シート「VDA ISA」について」 記事参照)。その評価シートにおいて、2022年5月2日にマイナーバージョンアップ(Version5.0.4からVersion5.1)が実施されました。

本稿では、VDA ISAのChapter5~7に関する今回のバージョンアップの主な変更点と、TISAX認証取得準備の進め方について解説します。

Chapter5~7における変更内容(抜粋)

No. 種類 (旧)Ver.5.0.4 (新)Ver.5.1.0 主なポイント
5.1.1 変更 Requirements regarding key control are determined and fulfilled. Key sovereignty requirements (particularly in case of external processing) are determined and fulfilled. 「暗号鍵管理に関する要求事項」という表現から、「自組織内での暗号鍵管理に関する要求事項(とりわけ外部処理の場合)」という表現に変更され、クラウド等の外部サービスで「High」の保護ニーズの情報を処理する場合には、使用される暗号鍵に関する自組織内での取扱いルールを定めるよう明確化
5.2.4 変更 A procedure for reporting violations to authorized bodies (e.g. security incident report, data protection, corporate security, IT security) is defined and established. A procedure for the escalation of relevant events to the responsible body (e.g. security incident report, data protection, corporate security, IT security) is defined and established. 「違反行為の報告」という表現から、「重要な事象に関する相談」という表現に変更され、ログ監視による重要な発見があった場合、違反であるかどうかの判断に先立って責任ある組織へ相談を行う手順を定めるよう明確化
5.3.3 変更 A description of the termination process is available and adapted to any changes. A description of the termination process is given, adapted to any changes and contractually regulated. 外部ITサービスの終了プロセスの説明について、「契約上規定されている」という要求が追加
5.3.4 変更 Separation of data, functions, applications, operating system, memory and network. Separation of data, functions, applications, operating system, storage system and network, 外部ITサービス利用時に考慮すべき、コンポーネントの分離の対象として「ストレージシステム」を追加
6.1.1 変更 Supplier Contractor 情報セキュリティに関するリスクアセスメント等の対象とすべき外部組織について、「供給者」という表現から「契約先」という表現に変更
7.1.1 削除 Measures for fulfilling the requirements regarding intellectual property rights and the use of software products protected by copyright (acquisition and license management) are defined and implemented. (-) (完全削除)

TISAX認証取得準備の進め方について

TISAX認証取得にあたっては、VDA ISAおよび参加者ハンドブック(Participant Handbook)を参照のうえ、審査までに半年から1年程度の準備期間が必要と想定されます。
ただし以下に挙げる条件があてはまるような場合は、準備期間をより短くすることができると考えられます。

(1)ISMSの運用の記録が十分に作成・保管されている
ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)が既に存在し、PDCAサイクル構築にとどまらず運用証跡まで準備できている場合です。証跡の具体例としては、リスクアセスメントの実施結果や、IT-BCPの整備・訓練等の記録、また情報システム開発時・変更時のセキュリティ検討記録等が挙げられます。これらが適切に作成され、必要に応じて更新されており、整理のうえ保管されているのであれば、TISAX審査の証跡としてそのまま活用することができます。

(2)OEMから預かる情報の連携範囲を限定している
(1)に加え、TISAX認証取得の要求元の企業から受領する機密情報が、設計部門等の特定の範囲内に限定して連携可能なのであれば、既存のISMSにないVDA ISA固有の要件を洗い出し、追加ルールのような形で当該部門に適用することで、審査対応の工数削減が期待できます。

(3)ISO/IEC 27001認証取得や情報セキュリティ監査の経験者が審査準備に専任できる
実際にTISAX審査準備を進めるにあたっては、情報セキュリティに関連した審査や監査の経験者が専任できることが望ましいと言えます。特に、VDA ISA要求事項はISO/IEC 27001を参照して策定されているため、ISO/IEC 27001の認証取得実績がある場合、審査準備期間はVDA ISA特有の要求事項への対応により多くのリソースを集中させることができると考えられます。

ただし上記の条件が揃っていたとしても、VDA ISAの要求事項は多岐にわたり、技術的対策・物理的対策・人的対策・組織的対策のいずれも要求されているため、部門横断的に取り組む必要があります。したがって、情報セキュリティ部門等の単一の部署だけでは、審査準備にあたって知見等が不足し、認証取得が長期化する可能性があります。また、TISAXの対応は認証取得という目的だけでなく、自社のISMS自体を見直し、セキュリティレベルを高める機会と捉えることができます。
これらの理由から、TISAX認証取得準備にあたっては専門的なノウハウを有する企業に支援を依頼することも、選択肢としてメリットがあると考えられます。

執筆者

KPMGコンサルティング
コンサルタント 佐野 智彦

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