ISSB、今後の作業計画に関するアジェンダ協議を開始

2023年5月4日、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)は、今後の作業計画に関するアジェンダ協議を開始しました。ISSBが優先すべき活動や、プロジェクト化の評価規準の妥当性、4つの新規プロジェクトの優先順位等、8つの質問についてステークホルダーの声を広く募集しています。期限は同年9月1日です。

国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)は、今後の作業計画に関するアジェンダ協議を開始しました。ISSBの活動や新規プロジェクトの優先順位等について、広く意見を募集しています。

2023年5月4日、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)は、2024年からの2年間における作業計画で優先すべき事項について意見を求める「情報要請(Request for information)」を公表し、アジェンダ協議を開始しました。意見募集の期限は2023年9月1日です。寄せられた意見について、ISSBは2023年9月から2024年3月の間に審議を行い、その後、それらへの対応および合意された2ヵ年の作業計画をとりまとめ、フィードバックステートメントを公表する予定です。

アジェンダ協議の目的

アジェンダ協議の目的は、サステナビリティ関連財務報告(sustainability-related financial reporting)に関心を有するすべてのステークホルダーを対象に、次の3点について意見を求めることです。

(a)ISSBの活動に関する戦略の方向性とバランス

(b)どのサステナビリティ関連事項(トピック、業種、活動を含む)を優先し、ISSBの作業計画に加えるかを評価する規準の妥当性

(c)ISSBの作業計画に加える新たな研究プロジェクトや基準設定プロジェクトのリスト案

提供されたフィードバックは、ISSBの作業計画と将来的なプロジェクトのアプローチの双方に反映されます。幅広いステークホルダーの声は、投資判断に有用な将来のサステナビリティ関連財務報告の実現と、グローバルベースラインの更なる強化に資するものだと、ISSBは強調しています。

意見募集の内容

ISSBがステークホルダーから意見を求める具体的内容は、次の8つです。

Q1.ISSBの活動の方向性とバランス

ISSBの活動の相対的な優先順位を考えるため、次の4つの活動の優先順位と、その他に優先すべき活動がないかについて意見を求めています。

(i)新たな研究プロジェクトや基準設定プロジェクトの開始
目的:サステナビリティ関連の新たな開示要件を策定する
活動内容:情報要請を通じたステークホルダーへの意見募集

(ii)公表したIFRS®サステナビリティ開示基準(以下、ISSB基準)の適用支援
目的:ステークホルダーのISSB基準についての共通理解を促し、包括的なグローバルベースラインを構築する
活動内容:IFRS S1、S2基準(2023年6月公表予定)を補足するガイダンス等の提供や、基準適用への移行を支援するグループの設置、新興国を含む世界中の法域との対話、ISSBタクソノミー公開草案とその支援ガイダンスの公表

(iii)公表したISSB基準の強化すべき分野に焦点を当てた研究
目的:ISSB基準に沿った開示の強化を支援する
活動内容:気候と密接に関係する自然関連リスクと機会、および低炭素経済への「公正な移行(just transition)」の開示ガイダンスの提供(IFRS S2基準適用の強化)と、そのための研究と意見募集

(iv)サステナビリティ会計基準審議会(SASB)の基準の強化
目的:SASB基準の強化と維持を支援する
活動内容:SASB基準の国際的な適用性の向上、SASBから継承した業種別の研究や基準設定の推進、調査や協議、アウトリーチ、改定を通じたSASB基準の維持

Q2.ISSBの作業計画に加えるサステナビリティ報告事項の評価規準

サステナビリティ関連報告の課題の優先度を評価する規準の妥当性を検証するため、次の7つの評価規準1が適切かどうか、他に考慮すべき規準がないかについて意見を求めています。

1 評価規準案は、国際会計基準審議会(IASB)が第3次アジェンダ協議(2021年3月〜9月にかけて実施)で使用したものと同様であり、IFRS S1基準の目的に従い、潜在的なプロジェクトが投資家のニーズを満たすかどうかをISSBが判断する際に考慮されています。

(1)投資家にとっての当該事項の重大性
(2)当該事項に関する企業の情報開示の方法に不備があるかどうか
(3)当該事項が影響を及ぼす企業の種類(ある業種や法域で、当該事項がより広く知れ渡っているかどうかを含む)
(4)当該事項が企業にとってどの程度浸透し、深刻である可能性があるか
(5)作業計画において、潜在的な当該プロジェクトが他のプロジェクトとどのように相互連係するか
(6)潜在的な当該プロジェクトとその解決策の複雑さと実行可能性
(7)ISSBとステークホルダーが当該プロジェクトを適時に進めるキャパシティ

Q3.ISSBの作業計画に加える新しい研究および基準設定プロジェクト

新たな2ヵ年の作業計画において、ISSBの限られたキャパシティのもと、新規プロジェクト((1)生物多様性、生態系および生態系サービス、(2)人的資本、(3)人権、(4)報告における統合(Integration in reporting)、(5)その他)をどのように進めるべきかについて、意見を求めています。

(i)1つのプロジェクトに集中し大きく前進させる(その場合、優先すべきプロジェクトは何か)

(ii)複数のプロジェクトに取組み、それぞれ段階的に進捗させる(その場合、プロジェクトの相対的な優先順位はどうなるか)

Q4.~Q6. ISSBの作業計画に加える新しい研究および基準設定プロジェクト -「生物多様性、生態系および生態系サービス」、「人的資本」、「人権」

各プロジェクトについて、それぞれ次のような意見を求めています。

(a)サブトピック2の優先順位と、その他優先すべきサブトピック

(b)サステナビリティ関連リスクと機会のパフォーマンスを測定する際に、業種、産業、地理的な場所を考慮した調整の要否

(c)投資家のニーズを満たすことに重点を置いてプロジェクトを進める際、ISSBが利用すべき他の組織による基準やフレームワーク等の資料3の優先順位


サブトピック

生物多様性、
生態系および生態系サービス
人的資本 人権
  • 淡水および海洋資源とエコシステムの利用
  • 土地利用と土地利用の変化
  • 汚染(大気、水、土壌への排出)
  • 資源開発(材料調達とサーキュラーエコノミー)
  • 侵略的外来種
  • その他
  • ワーカーウェルビーイング(メンタルヘルス、福利厚生を含む)
  • 多様性、公平性、包摂性
  • 従業員エンゲージメント
  • 労働力への投資
  • 代替労働力
  • バリューチェーンにおける労働条件
  • 労働力の構成とコスト
  • その他
(具体的なサブトピックの提示はなく、優先すべきサブトピックがあるかどうか問われています)


各トピックに関する既存の基準やフレームワーク等の資料

生物多様性、
生態系および生態系サービス
人的資本 人権
  • 気候変動開示基準委員会(CDSB)の生物多様性および水資源の開示に関わるアプリケーションガイダンス
  • SASB基準
  • 統合報告フレームワーク
  • GRI基準(例:GRI 304 - 生物多様性)
  • 自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)
  • The Partnership for Biodiversity Accounting Financials (PBAF)
  • The Capitals Coalition
  • The Science Based Targets Network (SBTN)
  • 欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)
  • 欧州員会アラインプロジェクト
  • The EU Business and Biodiversity Platform
  • The World Benchmarking Alliance
  • 国連先住民族の権利に関する宣言
  • その他
  • SASB基準および関連する研究、基準設定プロジェクト
  • CDSBフレームワーク
  • 統合報告フレームワーク
  • The Capitals Coalition
  • 国際労働機関(ILO)
  • 欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)
  • GRI
  • 米国証券取引委員会(SEC)
  • 世界経済フォーラム(WEF)国際ビジネス評議会の持続可能な価値創造における中核指標と開示
  • その他
  • CDSBフレームワーク
  • SASB基準
  • 統合報告フレームワーク
  • ILO
  • 国連ビジネスと人権に関する指導原則および指導原則報告フレームワーク
  • The World Benchmarking Allianceによる Corporate Human Rights Benchmark
  • 国連先住民族の権利に関する宣言
  • WEF国際ビジネス評議会の尊厳と平等に関連する業種横断のメトリクス
  • その他

Q7.ISSBの作業計画に加える新しい研究および基準設定プロジェクト-「報告における統合(Integration in reporting)」

本プロジェクトは、ISSBのリソースを集中的に利用する可能性があり、トピック別基準の開発ペースを妨げる恐れがある一方で、IFRS財団の一連の基準等の価値を最大限に発揮させることにもつながるとされています。そのため、本プロジェクトをどのように進めるべきかについて、意見を求めています。

(a)サステナビリティに関連する3つのトピック((1)生物多様性、生態系および生態系サービス、(2)人的資本、(3)人権)と比べて、報告における統合プロジェクトの優先度は高いのか、低いのか

(b)報告における統合プロジェクトを優先する場合、IASBとの正式な共同プロジェクトとすべきか、ISSBのプロジェクト(必要に応じてIASBからのインプットを活用)とすべきか

(c)報告における統合プロジェクトを進めるにあたり、ISSBは、IASBのマネジメントコメンタリーの公開草案や統合報告フレームワークの概念を取り入れるべきか、その他に取り入れるべき概念はあるか

Q8.その他コメント

その他、ISSBの活動や作業計画についての意見を求めています。

アジェンダ協議の意義

ISSB基準の開発目的は、高品質かつグローバルで比較可能なサステナビリティ関連財務報告を実現するグローバルベースラインの構築です。さまざまな国や法域で広く適用され、実際に活用される基準作りを目指しているため、ISSBは幅広いステークホルダーの声を必要としています。これは、アジェンダ協議の目的に、サステナビリティ関連財務報告に関心を有するすべての人々の意見を求めると明記されていることからも明らかです。また、本アジェンダ協議は、さまざまなステークホルダーを議論に巻き込むことで、それぞれの当事者意識の向上にも寄与すると考えます。これからのサステナビリティ関連財務報告について、何を思い、どう関わっていくのかを当事者の1人として改めて考える機会を私たちは与えられているのではないでしょうか。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
KPMGサステナブルバリューサービス・ジャパン
伊藤 友希

関連コンテンツ

KPMG Global - ISSB™ priorities(英語)

※日本語訳の資料については、以下の会員コンテンツより閲覧いただけます。

お問合せ

こちらは「KPMG Japan Insight Plus」会員限定コンテンツです。
会員の方は「ログインして閲覧する」ボタンよりコンテンツをご覧ください。
新規会員登録は「会員登録する」よりお手続きをお願いします。

競合他社の方は、登録をご遠慮させていただいております。