IPOに関する上場制度等の見直しについて(東京証券取引所・日本証券業協会)
東京証券取引所ならびに、日本証券業協会が上場制度等の見直しを実施しました。
東京証券取引所ならびに、日本証券業協会が上場制度等の見直しを実施しました。
東京証券取引所は、政府の「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画・フォローアップ(2022年6月7日閣議決定)に掲げられた「スタートアップの起業加速及びオープンイノベーションの推進(スタートアップ育成5か年計画の策定)」の提言を受けて、グロース市場におけるダイレクトリスティングの制度改正ならびにディープテック適用企業の上場申請手続き変更などの新規上場手段の多様化に向けた上場制度の見直しを実施しました。加えて、日本証券業協会(引受に関するワーキング・グループ)が検討してきたIPOプロセスの見直しによる規則改正を踏まえ、「申請書類」、「形式要件」、「上場審査」、「新規上場」における新規上場プロセスの円滑化に向けた上場審査手続きの変更も盛り込みました。
(東証)IPOに関する上場制度等の見直しに係る有価証券上場規程等の一部改正について:20230310(PDF:129 KB)
また、日本証券業協会は、2021年9月に設置した「公開価格の設定プロセスのあり方等に関するワーキング・グループ」で示された改善策の実現に向けて、多岐にわたる規則改正を行っており、2022年7月に第一次規則改正を実施し、2023年2月に、第二次改正として、「仮条件の範囲外での公開価格の設定」、「売出株式数の柔軟な変更」、「プレ・ヒアリングの改善・明確化」「実名による需要情報等の提供」の規則改正を行いました。
(日本証券業協会)有価証券の引受け等に関する規則」等の一部改正について:20230214(PDF:369 KB)
今般の上場制度等の見直しでは、今後の金融庁の開示ガイドラインおよび開示府令の改正、振替法の改正等を必要とする事項や、パブリックコメントにおいて証券会社等の市場関係者におけるシステム改修や周知期間を設ける目的で当初の施行時期を変更したものが含まれるなど、施行時期が異なる(未定のものが含む)ため、以下の通りまとめました。
(おもな上場制度等の見直しに関する各項目の施行時期)
検討主体 | 項目 | 規程(おもな根拠条文) | 施行時期 |
---|---|---|---|
東京証券取引所 | ディープテック適用企業の上場審査の運用見直し | - | 2022年12月16日 |
ダイレクトリスティングの導入(グロース市場) | 規程217条第3号 | 2023年3月13日 | |
新規上場の監査報告書の提出時期(承認時) | 規程204条第6項 | 同上 | |
形式要件(事業継続年数) | 規程205条第3号 | 同上 | |
形式要件(時価総額基準、流通株式時価総額) | 規程212条第2項 | 同上 | |
上場審査(定時株主総会の到来にかかわらず新規上場申請日から1年間の審査継続) | 規程第201条第3項、 規程205条第5 |
同上 | |
上場維持基準(グロース市場) | 施行規則第501条 第7項第5号 |
同上 | |
初値形成(新規上場時の成行き注文禁止) | 呼値に関する規則第6条 | 2023年6月26日 | |
日本証券業協会 | グローバルオファリング実施時のオーバーアロットメントの上限数量の明確化(上限15%) | 引受規則29条1項 | 2022年7月1日 |
発行会社への公開価格の納得感のある説明 | 引受規則26条1項、2項 | 2022年7月1日 | |
主幹事証券別の初値収益率の公表 | 日本証券業協会HP開示 | 2022年7月開始 | |
機関投資家への割当および開示 | 親引けガイドライン3 | 2022年7月1日 | |
プレ・ヒアリングの改善・明確化 | プレヒア規則2条 | 未定 | |
実名による需要情報等の提供 | 配分規則第5条、第6条 | 未定 | |
仮条件の範囲外での公開価格決定 | 新:引受細則第15条第1項 | 未定(※1) | |
売出株数の柔軟な変更 | 新:引受細則第15条第2項 | 未定(※1) | |
上場スケジュールの日程短縮化 | 会員通知発出 | 未定(※2) |
※規程等の略称について:
規程(有価証券上場規程)、施行規則(有価証券上場規程施行規則)、引受規則(有価証券の引受け等に関する規則)、引受細則(引受規則に関する細則)、プレヒア規則(協会員におけるプレ・ヒアリングの適正な取扱いに関する規則)、配分規則(株券等の募集等の引受け等に係る顧客への配分に関する規則)を表示しています。
※1:本協会が定める「一定の範囲」について開示ガイドラインと同様内容にて定める予定で施行日は未定
※2:振替法、開示府令の改正が検討されており、施行日は未定
上記の制度改正のうち、上場スケジュールの日程短縮化については施行日が未定となっていますが、新規上場株式の引受を行う主幹事証券にとって、公開価格の設定において重要な制度改正となります。すでに日本証券業協会は会員通知を発出していますが、新しい上場スケジュール日程においては、証券取引所による上場承認に先立ち、上場予定会社が有価証券届出書を提出することで、機関投資家等による株価評価やアンカリング効果が期待できるため、今後の開示府令の改正が待たれます。
執筆者
あずさ監査法人 企業成長支援本部
ディレクター 鈴木 智博