1.グローバル
投資総額は4四半期連続で減少したが、COVID-19パンデミック前の水準を維持
2022年第4四半期の世界のベンチャーキャピタルによる投資額は、4四半期連続で減少しました。ベンチャーキャピタルによる投資総額は、四半期ベースで過去最高を記録した前年同期と比べ低調に推移しましたが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック発生前に匹敵する水準を維持しました。
- 厳しいマクロ経済状況が、世界的な投資のトレンドをもたらす
- 主要地域でベンチャーキャピタルによる投資が減少
- 企業が資金を温存し、ベンチャーキャピタルが収益性を重視するなか、コスト削減が重要課題に
- エネルギー分野への関心が世界のベンチャーキャピタルの間で高まる
- IPOの機会が閉ざされたままバリュエーションが低下し、大きな圧力に直面するユニコーン企業
2023年第1四半期に注目すべきトレンド
2023年第1四半期も世界のベンチャーキャピタル市場は厳しい状況が続くと予想され、特に消費者向けビジネスが影響を受けるでしょう。米国ではIPOの機会が閉ざされた状態が続き、企業が資金不足に陥ることでダウンラウンドの増加とM&Aの活発化が予想されます。
エネルギー分野への注目が高まるなか、代替エネルギー技術、電気自動車や水素自動車、蓄電池への投資が続き、さらに、サイバーセキュリティ、B2Bソリューション、ヘルスケアやバイオテクノロジー、レグテック、軍事用途向けソリューション、人工知能への投資が魅力的な分野として注目されるでしょう。
2.米国
2022年第4四半期も減少、ドライパウダー豊富も大型投資は控えめ
米国におけるベンチャーキャピタルによる案件数と投資総額は、2022年第4四半期も引き続き減少し、過去最高額を記録した2021年第4四半期の3分の1以下に減少しました。市場には豊富なドライパウダー(投資可能な手元資金)が存在しますが、ベンチャーキャピタルは大規模な投資を控えています。
- エネルギー、ESG分野への注目が高まる
- ダウンラウンド回避に取り組むユニコーン企業
- IPOが低調、M&Aは実現せず、イグジットは5年ぶりの低水準に落ち込む
2023年第1四半期に注目すべきトレンド
2023年第1四半期は、エネルギーやB2Bソリューションなど関心の高い分野を除き、ベンチャーキャピタル市場は低調に推移するでしょう。年金基金や政府系ファンドが投資配分を検討する可能性があり、2023年後半の投資に影響を及ぼす可能性があります。また、ハイテク企業による従業員の解雇が相次いでいるため、人材コストの影響や起業の増加に注視する必要があります。さらに、企業がイグジットを遅らせていることからIPOの動きは鈍く、多くのユニコーン企業が評価を下げたり、ラチェットなど不利な条件を受け入れたりする可能性があります。
3.南北アメリカ
4四半期連続で低下、景気後退懸念やインフレ上昇が影響
南北アメリカのベンチャーキャピタルによる案件数および投資総額は、ほとんどの地域で投資水準が低下し、4四半期連続で減少しました。世界的にみられるベンチャーキャピタルによる投資の傾向と同様、高インフレ、金利の上昇、バリュエーションの低下、景気後退への懸念の深まりは、今四半期も南北アメリカ全体のベンチャーキャピタルに心理的な影響を及ぼしています。
- 南北アメリカでメガディール件数が減少、特に米国で顕著に
- 暗号資産関連企業への監視とデューデリジェンスが強化される
- ブラジルで与信に特化したフィンテックが魅力的な存在となる
- カナダは、政府によるスタートアップ支援が強化されるなかで堅調に推移
2023年第1四半期に注目すべきトレンド
2023年第1四半期に向けて、世界的なマクロ経済への懸念から、南北アメリカのベンチャーキャピタルによる投資は低調な推移が予想されます。ベンチャーキャピタルはデューデリジェンスを強化し、収益性とビジネスモデルの持続性を慎重に精査するようになることから、案件の完了には時間を要するでしょう。ブラジルでの政権交代により、投資家は新政権が優先する課題に配慮した、慎重な行動を求められるかもしれません。
4.ヨーロッパ
第4四半期の投資が2年ぶりの低水準に急落
第4四半期のヨーロッパのベンチャーキャピタルによる投資は、高インフレ、金利の上昇、ウクライナ紛争の継続、エネルギー価格の高騰といった環境において、2年ぶりの低水準に急落しました。第4四半期のヨーロッパにおける最大の案件は、スウェーデンのEinrideによる5億ドル、スウェーデンのVoltaTrucksによる2億9,500万ドル、フランスのバッテリーメーカーVerkorによる2億4,590万ドルと、電気自動車とモビリティのエコシステムにおける案件でしたが、最近の四半期と比較すると規模は大幅に縮小しています。
- ヨーロッパのベンチャーキャピタルは自社ポートフォリオ投資先を優先
- ヨーロッパのシードステージ案件の平均規模が大幅に拡大
- エネルギー危機はベンチャーキャピタル市場の勝者と敗者を生み出す
- 英国では2022年第3四半期に大きく落ち込んだ後、低調が続く
- ドイツのベンチャーキャピタルによる投資が減速、B2Cが最大の打撃に
- イスラエルのベンチャーキャピタルによる投資は比較的静かな状態が続く
- アイルランドのテクノロジー・エコシステムは挫折を経験しながらも、力強い
- 北欧地域はベンチャーキャピタルにとって魅力的な地域を維持
2023年第1四半期に注目すべきトレンド
2023年第1四半期において、多くの困難な要因に終止符が打たれることはないと考えられ、ベンチャーキャピタルによる投資は低調な推移が予想されます。ただし、エネルギー、エネルギー安全保障、ESGなど、優先度の高い分野への投資は継続される見込みで、地域内の国々の脱炭素化目標達成に向けた取組みから、クリーンテックへの関心が加速するでしょう。
5.アジア
中国のメガディールが牽引し、第4四半期のベンチャーキャピタル投資は堅調に推移
新エネルギー自動車メーカーのGACAionによる25億6,000万ドルのほか、ファストファッションECプラットフォームのSHEINによる10億ドル、SPIC HydrogenEnergyによる6億3,100万ドルなど、中国における複数のメガディールが牽引し、2022年第4四半期のアジアにおけるベンチャーキャピタルによる投資は堅調に推移しました。
- IPOは香港(SAR)と日本で引き続き低調な一方、中国本土では好調に推移
- 中国のCOVID-19関連政策の緩和は2023年に向けての吉兆
- エネルギーとEV分野は、中国と日本のベンチャーキャピタルにとって魅力的な分野に
- インドのベンチャーキャピタルによる投資は低迷したが、長期的にはポジティブな見通し
- 世界的に暗号資産関連企業への監視が強まるなか、香港(SAR)ではその恩恵を受ける態勢整備が進む
日本でのシードとシリーズAの取引数は引き続き堅調に推移
第4四半期の日本でのベンチャーキャピタルによる投資は低調でしたが、シードとシリーズAは堅調に推移しました。金利上昇への懸念や円に対する米ドルの上昇、米国を含む世界的な景気後退に対する懸念により、多くのベンチャーキャピタルは投資に慎重なアプローチをとっていました。再生エネルギーなどのESG分野以外に第4四半期に日本で注目された投資分野には、ヘルステック、ブロックチェーン、ゲームが含まれています。
2023年第1四半期に注目すべきトレンド
2023年、中国はCOVID-19に対する検疫ルールを緩和し、投資や海外の経済圏との接点をよりオープンにする政策変更を示唆しており、中国へのベンチャーキャピタルによる投資にとって興味深い年になるでしょう。また、インドのベンチャーキャピタルによる投資は、2023年第1四半期は低調に推移する一方、第2四半期に回復すると予想されます。日本政府は、第1四半期中にスタートアップの成長を促進する政策を発表する見込みであり、ベンチャーキャピタルによる投資の拡大と、ベンチャーキャピタルエコシステムの成熟が促進されるでしょう。
英語コンテンツ(原文)
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