本連載は、日経産業新聞(2022年9月~10月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

「響鳴都市・名護」のビジョンに基づいた官民一体の街づくり

スマートシティというとデジタル技術の導入やデータを活用したビジネスの創出などが注目されがちですが、目指すべきは市民生活の質の向上や深刻化する地域課題の解決です。デジタル活用だけでは地域の課題は解決しません。デジタル活用と銘打って地域の個性を無視して他の地域と同様のサービスを横並びで展開するだけでは、スマートシティというよりディストピア(反理想郷)ではないでしょうか。

本来の意味でのスマートシティ実現に取り組んでいる地域の1つが沖縄県名護市です。同市の人口は約6万人(執筆当時)で、人口は増加傾向にあります。一方で、観光資源はあるものの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)禍の影響により、地域振興には十分結び付いていないなどさまざまな課題を抱えています。
同市は2022年8月、KPMGコンサルティングと包括連携協定を締結しました。スマートシティのマスタープランの策定をはじめ、企業誘致、地域公共交通など多分野でのスマートシティの実現に向けた動きが始まっています。

取組みの根底にあるのが、「市民」「企業」「自治体」が互いに「響鳴」し合うという考え方です。自治体が発注した事業を企業が受注し市民に提供するという既存の枠組みから脱却し、「あるべき街の姿は何か」「必要な機能は何か」「どのような技術や地域資源が活用できるか」というディスカッションに、それぞれが想いを持って参加し、ともに影響を与え合いながら街を作り上げていく、そんな世界観を市は描いています。

「響鳴都市」に含まれる「影響し合う」「共鳴する」という言葉が示すように、名護市が目指すのは街を良くしていくことに加え、市民・企業・自治体それぞれが学び合い、高め合っていくことです。
街を一番よく知る生活者としての市民の視点、テクノロジーなど専門の知見を持つ企業の視点、行政として街全体を俯瞰する自治体の視点を共有して未来の街の想像をふくらませ、その実現に向けて力を合わせることにより、今ある課題を解消するのみではなく、今後顕在化してくる課題に対してもレジリエント(柔軟)に対応できる仕組みづくりが響鳴都市の目指すものの1つです。
このビジョンを絵に描いた餅としないために立ち上げたのが、自治体、地元企業、教育機関など多様な関係者が連携する枠組みとしての官民連携組織です。市民や学生が立ち寄り、テクノロジーを体験するとともに街に必要なサービスを企業などと一緒に考える場としてのオープンイノベーション施設の開設を検討しています。

「響鳴都市・名護」のビジョンに基づいたこれらの取組みが実を結び、国内外の他の地域と響鳴しながら、相互の発展が促進していくことを期待します。

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日経産業新聞 2022年10月12日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日経産業新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

執筆者

KPMGコンサルティング
ディレクター 三村 雄介

スマートシティの社会実装に向けて

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