日本のマネロン対策、次の一手

2021年8月に公表されたFATF第4次対日相互審査において、日本は「重点フォローアップ国」と評価され、第5次FATF対日相互審査で「通常フォローアップ」を目指すのであれば、官民で更なる対応が必要です。連載「日本のマネロン対策、次の一手」として15回にわたり連載します。

金融財政事情研究会「週刊 金融財政事情」2023年4月11日号、18日号への寄稿につき、同法人の許可を得て転載しました。

連載第13回・第14回・第15回

金融機関が直面する喫緊の課題は、特殊詐欺、クレカ不正利用の増加に見られるようなマネロン等リスクの高まりに対して、日々の業務の中で、どのように直面するリスクを特定・評価し、リスクを低減するかということです。まずは、経営陣が、自らが晒されている金融犯罪被害の状況、凍結要請、捜査関係情報照会状、疑わしい取引届出の状況等を適時適切に把握し、リスク低減策を指示すること、そして、金融犯罪等による違法収益の通り道となっている売買された口座の把握・検知・報告・取引制限などのリスク低減措置をリスクに応じて可能となるよう、継続的な顧客調査措置、取引モニタリングの高度化、悪用されている口座へのアクセス情報・端末識別子等の解析などの措置を、IT部署とも協働しながら、リスクに応じて実施できる体制を構築することです。

喫緊の課題としては、2024年3月末までの金融庁マネロンガイドラインへの対応期限を遵守するために、やり残していることは無いか確認することです。そして、2024年4月以降は、形式的ではなく実質的、そして、リスクベースのマネロン対策等を講じる必要があり、金融庁も検査・監督の在り方を見直すと明言していますので(金融行政方針や業界団体との意見交換会(月次))、さらに、中長期的な対応を可能とする、組織、人員確保・育成、共同化、ITやAIを活用した合理化なども、経営課題として検討することも重要です。とくに、継続的顧客調査(含む、実質的支配者)、全顧客のリスク評価の見直しは、顧客の理解と協力を得たうえで、金融機関と顧客の両者において負担が増加しないよう、継続的・持続的に実施する必要があり、リスクベース・アプローチの徹底、人工知能(機械学習)や取引監視機能の共同化の利用も含めた、マネロン等対策の更なる効率化・高度化が必要です。また、北朝鮮やロシアをはじめとする制裁対象国への取引に金融機関が巻き込まれないよう、今まで以上に、顧客の商流や資金の流れ、そして、実質的支配者の把握と、システムを活用した検知機能の向上といった態勢整備も求められます。

FATFの第5次対日相互審査は、2027年夏ころに始まり、18ヵ月の検査期間を経て、2029年2月の総会で議論される予定です。残された時間は多くはありません。

これらの課題について、「週刊金融財政事情」(一般社団法人金融財政事情研究会)7月11日号、7月18日号、7月25日に掲載された連載記事、第13回「犯罪収益の剥奪、資産凍結、被害回復における課題について」、第14回「人材育成と経営課題としてのマネロン等対策」、第15回「金融機関と当局は何をすべきか」として掲載されたものを転載しております。

寄稿の全文は、添付のPDFをご覧ください。

執筆者

あずさ監査法人
金融統轄事業部  金融アドバイザリー事業部
エグゼクティブ・アドバイザー 尾崎 寛

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