本連載は、日経産業新聞(2022年9月~10月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

海外における新たな法人形態の事例と日本で導入する際のポイント

岸田内閣は「新しい資本主義実現会議」で「民間で公的役割を担う新たな法人形態の創設」を検討しています。現状「株式会社」「社団法人」などさまざまな法人形態がありますが、経済格差の拡大、環境問題など社会的課題の解決に向け、民間がより主体的に関与する新たな法人形態が求められています。

社会的価値の実現と公的役割を担う新たな法人形態として、海外事例の検討が始まっています。米国で法整備が進む「パブリック・ベネフィット・コーボレーション(PBC)」や、英国の社会起業家向け新法人格「コミュニティ・インタレスト・カンパニー(CIC=コミュニティ利益会社)」などです。
PBCは、株主利益だけでなく、従業員や顧客、環境、コミュニティヘの配慮といった社会的価値の実現と公的役割を担う民間企業の形態です。米国では2010年に制度が始まり、36の州で認められています。PBCの特徴には、公益を追求・提供する内容を詳述した年次報告書を公開するほか、社会的・環境的なパフォーマンスについて第三者機関から評価を受けることなどがあります。米国以外にも、カナダ、フランス、イタリア、中南米諸国などに同様の制度があります。
CICは2004年に英国で導入された制度で、経済格差などによる社会的排除への対応、荒廃地域の再生、公共サービスの改革に向け、会社法に基づいて登記するものです。CICの年次報告書によると、累計1万8904団体にのぼっています。CICの特徴は、適格性の審査や報告書提出など説明責任のメカニズムの点で優れていること、組織運営が事業者の自主性やリソースにある程度委ねられること、株式発行による資金調達も可能であること、などが挙げられます。

日本で新たな形態の社会的企業を導入するにあたっては、(1)社会全体に対して広範なサービスを提供できるスタートアップ、社会的起業家、NPOなどを巻き込む(2)社会的事業を評価し、市場からの経済的な支援を促すガイドラインの策定や制度設計の充実(3)長期的に「新たな法人形態」のムーブメントを起こし、市場にインパクトを与えるために大企業を巻き込むという3点を踏まえる必要があると言えます。
新たな法人形態の創設により、社会的価値の創出に貢献する社会的企業の動きが活性化することが期待されます。

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日経産業新聞 2022年10月4日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日経産業新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

執筆者

KPMGコンサルティング
マネジャー 黒澤 隆

スマートシティの社会実装に向けて

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