本連載は、日経産業新聞(2022年9月~10月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

小規模自治体での新たな官民連携の取組み

2022年6月、政府は「経済財政運営と改革の基本方針2022(骨太方針)」を閣議決定しました。そのなかで、公共の施設やサービスに民間の資金と創意工夫を最大限活用するPPP(官民パートナーシップ)/PFI(民間資金を活用した社会資本整備)を、岸田文雄首相が掲げる経済政策「新しい資本主義」の「新たな官民連携」の取組みの柱と位置付けました。

「新たな官民連携」が重要視される背景には、多くの地方自治体にとって、(1)厳しい財政状況、職員数の減少(2)公共施設の老朽化(3)多様化する住民ニーズに応えた活気にあふれる地域経済の実現が喫緊の課題となっていることが挙げられます。
こうした課題の解決には、民間企業の知恵やノウハウを取り入れる取組みが有効です。なかでも注目を集めるのが、公共施設の運営を民間事業者に委ねる手法です。運営権者は、知恵やノウハウを最大限に発揮して自主自立の多様なサービスを展開することが可能となります。

官民連携は従来、空港など収益が大きく独立で採算が確保できる大規模な事業が主でしたが、近年は人口10万人以下の「小規模自治体での新たな官民連携」もみられるようになりました。地域の企業を中心とした新たなプレーヤーを巻き込んだ取組みで、今後、全国的な展開が期待されます。

福岡県田川市では、廃校となった旧猪位金小学校を芸術起業支援施設として市がリノベーションし、2017年4月に「いいかねPalette(パレット)」として開業しました。市は地元有志で構成する運営権者に地域の区長を紹介するなどのサポートをする一方、運営には口を出さないことを徹底したと言います。契約終了時の施設の原状回復も義務付けず、自由な改修も認めました。同事業は開業5年目の2021年に黒字化を達成しています。

北海道石狩市は、市が蓄電池と水素を活用したエネルギー供給システムを整備するなどして、小規模集落にマイクログリッド(小規模電力網)システムを構築しました。
運営権者は同システムを活用して道の駅や学校、消防署などの周辺施設に電力を供給し、その料金を事業収入としています。さらに付帯事業を提案できるなど、運営権者による新たな収益確保に向けた事業の展開の可能性を認めています。

田川市、石狩市の取組みに共通しているのは、収益性の確保が困難な事業であることを当初から想定して、運営権の対価を無償もしくは期間限定で無償とするなどの工夫をしている点です。
従来の官民連携は大規模事業が中心で、資本力と経験を有する大企業が受託するケースが多く、地域経済との共生という点で乖離もありました。「小規模自治体での新たな官民連携」の導入は、収益性の確保を工夫することで地域企業の参画を促進し、地域の実情に即した事業が営まれることが可能となります。小規模自治体の新しい官民連携の取組みとして、今後の展開が期待されます。

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日経産業新聞 2022年9月30日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日経産業新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

執筆者

KPMGコンサルティング
シニアコンサルタント 内山 禄道

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