本連載は、日経産業新聞(2022年9月~10月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

スマートシティに求められる住民視点を活かした自治体DX

政府・自治体のデジタルトランスフォーメーション(DX)の動きが活発になっています。自治体DXには、業務の効率化など職員からの視点と、地域の利便性の向上を目的とした住民からの視点の2つがありますが、住民視点はスマートシティそのものと言えます。

全国の自治体で成功事例が芽吹きつつありますが、これらには(1)UX/UI(2)組織横断(3)アジャイル開発という3つの共通点があります。「UX/UI」は、住民が行政サービスを利用する際の端末の画面や操作で「使いやすさ」を重視する姿勢です。民間業者に及ばない使い勝手では住民の満足は得られません。また、「組織横断」は、縦割り主義を脱して行政サービスを届ける姿勢です。部門ごとの業務やデータなどを連携させることで、住民がワンストップでサービスを享受できるようになります。そして「アジャイル開発」は、適宜住民の声を吸い上げながら短いサイクルで行政サービスの改善を繰り返す姿勢です。

自治体DXの取組みは一度で最適解にたどり着くことはなく、環境や状況の変化により最適解も変わります。試行錯誤を続けることが肝要です。
自治体DXは、「上からの押し付け」ではうまく進まない点にも注意が必要です。中央省庁から都道府県へ、DX推進部門から各担当部門へなど、上意下達になりがちですが、地域や業務ごとに状況が異なる以上、画一的な施策や技術を展開するだけではDXは根付きません。他方、現場に委ねるだけでは地域格差や手間も発生しかねません。緩やかなガバナンスのもと「地産地消」のDXを進めることがカギとなります。

好例の1つに、あるIT企業の取組みがあります。以前から自治体にITシステムを導入してきましたが、近年は自社のサービスだけではなく、他社のサービスであるSaaS(サース)やスマートフォンアプリなどを組み合わせた行政手続き向けクラウド基盤を展開しています。
導入した自治体によると、部門間のデータ連携がしやすいプラットフォーム上で、住民が使い慣れたUX/UIを持つ行政サービスを、職員自らが作ることができるようになったと言います。共通基盤を使う制約はあるものの、現場の実態に即した作り込みが可能になりました。さらにDX人材の自治体向けの派遣も始めており、職員や住民との対話による課題の明確化やニーズの吸い上げ、地元企業を巻き込んだ対策の検討も進めています。

自治体DXやその先にあるスマートシティの実現に向けては、中央集権的に強制力を働かせるのではなく、緩やかなガバナンスを効かせながら、住民・地元企業・自治体を巻き込んだ「地産地消」のDXの取組みを進めることが必要条件となります。

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日経産業新聞 2022年9月29日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日経産業新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

執筆者

KPMGコンサルティング
シニアマネジャー 新間 寛太郎

スマートシティの社会実装に向けて

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