本連載は、日経産業新聞(2022年9月~10月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

スマート・プランニングを活かした松山市の取組み

スマートシティは、情報通信技術(ICT)などの新たな技術を活用し、都市インフラや交通データ、消費行動、天候といったさまざまなデータを収集、解析することで都市経営を高度化・効率化し、都市で生活する人々の利便性や快適性の向上を目指す取組みです。

都市計画では、これまで5年、10年に一度の頻度で、人々の1日の移動状況を、鉄道・バスなどの公共輸送機関や自動車の移動実態をアンケート調査で把握したり、交通量や渋滞状況、自動車の走行速度を調査したりしてきました。そして、これらの調査結果を基に、都市間や駅間で「どこから」「何人が」「どこに」「どの交通手段で」「どういう経路で」移動しているのかを推計し、計画や政策を立案してきました。
しかし、昨今はより短中期的かつミクロな都市内や駅周辺での交通施策へとニーズが拡大しており、従来の調査や検討手法では対応が難しくなっています。
一方、スマートフォンを介して24時間365日蓄積される携帯基地局や全地球測位システム(GPS)、交通系ICカード、消費などの交通関連ビッグデータを活用できる環境が整い、各分野で活用が進んでいます。

日本の都市の多くは、1990年代に労働力人口よりも高齢者の人口が多くなる「人口オーナス期」に移行しました。高齢者の増加と人口減少の下、今後、膨大な社会インフラの維持管理費がかかることが予想されるなか、都市機能を維持していく必要があります。
この課題に対して、現在や未来の人口動態に合わせて居住や都市機能を再集積させることで、人口を再配置しながら、住民の生活利便性の維持・向上、地域経済の活性化、行政サービスの効率化による行政コストの削減といった街づくりと都市経営を再構築していく必要性に迫られています。

松山市は、これまで経験則的に決めていた施設の配置や都市空間の形成、交通政策を、データに基づく予測結果を使って検討する「スマート・プランニング」という計画手法を追入して街づくりを推進しています。
同市はウォーカブルな(居心地が良く歩きたくなる)街路空間の再構築という都市空間の整備を目指しており、スマートフォンの位置情報、街に設置した監視カメラやセンサーなどのデータを基に人々の移動や回遊状況をシミュレーションし、施策の効果を予測しています。

人々の回遊行動のシミュレーション自体は以前からありますが、ICTで得られるビッグデータを活用して高度化していくスマート・プランニングは新しい計画手法と言えます。今後より多くの都市で導入が進むことで知見が蓄積され、手法の改善も進んでいくでしょう。交通分野だけではなく、観光、健康・医療、地域経済など分野横断的なスマートシティの推進に寄与する手法であり、スマート・プランニングの今後の発展が期待されます。

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日経産業新聞 2022年9月28日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日経産業新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

執筆者

KPMGコンサルティング
シニアコンサルタント 小竹 輝幸

スマートシティの社会実装に向けて

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