本連載は、日経産業新聞(2022年9月~10月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

市民の参画を促しニーズを拾う取組み

スマートシティの推進では、市民ニーズに即した街づくりができるかが重視されます。過去にサプライサイド、技術オリエンテッドなスマートシティ推進で失敗した経験から、政策の策定や意思決定などで市民の関与が求められるようになったからです。
狩猟から農耕、工業、情報社会に続く「ソサエティー5.0」の実現に向けてデータ活用や未知のテクノロジーを使った取組みが拡大するなか、生活の利便性の向上に期待が高まる一方、新たな未知のリスクに不安を抱える人が増えたことにも起因します。

実際、推進主体と市民がやり取りするなかで、期待と不安のバランスを保てずに計画中断に追い込まれた例もあります。デジタルを活用した街づくりの検討・合意プロセスには、市民の参画が必須要件と言えます。
その手法として現状、国内で確立・浸透しているものはありませんが、目的ごとにさまざまな方法が考えられます。多くの市民に周知・理解を促すには、オンラインイベントやセミナーなどによる呼びかけが挙げられます。特定のテーマを深く議論する場合には、ワークショップやプランニングセルといった双方向的に議論する場づくりが有用となります。一部の人と深く議論した意見が市民の総意かをスピーディーに確かめるには、アンケートや地域SNS、オンラインアイデアボックスなどで意見を受け付ける取組みが有効です。

ベルギーのルーベンでは、2年をかけて市民参加型の都市計画策定プロジェクトを進めています。モビリティーと公共空間をどのように使うかをテーマに、インターネット上のアンケートを通じてだれもが意見できると言います。無作為に抽出した市民で「市民パネル」を作り、アンケート結果を基に専門家と議論しながら具体案を練り、市内の各地区でいくつかの案を試行した後、市全体の政策決定と投資が決まります。

東京・渋谷では、生活者を中心とした街づくりを目指す「shibuya good pass」プロジェクトの一環として、「good talk」という街づくりに関するイベントを通じて、多くの人から地域のニーズを拾う取組みが進められています。
見えてきた課題に対して、海外でも活用が進む「Decidim(デシディム)」をベースとしたデジタルプラットフォーム上で、市民起点で課題解決のためのプロジェクト立案や投票を実施し、地域を盛り上げる活動を進めています。
プロセスを組み立てる上で重要なのが、政策決定に積極的に議論を交わす雰囲気をどう作るかという視点です。渋谷の取組みは、行政と連動する形で民間企業が主導しており、ランダムに意見を集めるのではなく、市民が発案したアイデアに対して共感を集める形でUX(ユーザー体験)設計をするなど、街について積極的に意見を発信する層を繋げ、コミュニティー化する工夫をしています。

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日経産業新聞 2022年9月22日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日経産業新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

執筆者

KPMGコンサルティング
マネジャー 河江 美里

スマートシティの社会実装に向けて

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