本連載は、日経産業新聞(2022年9月~10月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。
社会課題解決に向けたオルタナティブデータの活用
都市を測るデータは従来、主に政府や自治体などが発表する公的な統計データが使われてきました。それに対し、新たな技術的手法で都市の動きを計測したデータの活用が広がりを見せています。
新たな情報源から取得し加工されたデータは「オルタナティブデータ」と呼ばれ、スマートフォンの位置情報やカメラの画像データ、衛星データ、販売情報データ、ソーシャルメディアの投稿データなどがあります。これらは速報性が高く、粒度が細かく、高頻度の取得が可能で、都市の状況を適時に把握でき迅速な意思決定に役立ちます。
スマートシティに積極的に取り組む都内のある区は、クラウド型防犯カメラの映像データから公共施設の人の流れを捉える実証実験を実施しました。これにより、映像を人工知能(AI)で解析し、公園内で人が滞留するエリアや利用者の属性を明らかにすることができたと言います。
今後は定量的な根拠に基づいた施設や設備の管理や安全対策の計画策定での活用が期待されます。同区は実証実験で得られたデータに加え、位置情報やソーシャルメディアなどから得られた多様な区の情報をグラフや地図上にダッシュボードの形で公開し、市民参加型のデータ活用を進めています。
新型コロナウイルス禍では感染症対策と社会経済活動の両立を目指して、都市住民のオフィス出社率を計測する需要が高まっています。この課題に対し、即時性の高いスマホの位置情報データを加工して出社率を算出し、その変化をエリアごとに計測できるようになりました。
さらに、エリアの産業特性と出社率の高さに関連があることも明らかとなりました。出社率はオフィス近隣の商業施設の売上や電車の混雑など、さまざまな都市環境を測る指標となります。
この取組みはシンクタンクが中心となり、データを保有する企業と時空間解析の知見を有する大学と連携して実施されました。スマートシティでは産官学民が連携して社会課題に向き合うことも重要となります。
近年はデータを分析加工し、AIで将来を予測し行動変容を促す取組みも成果を上げています。
犯罪発生予測を手掛ける企業は、過去の犯罪情報や人流、都市データなどからどの時間帯にどの場所で犯罪が起きやすいかを予測し、その結果に基づいた最適な警備経路を提案しています。複数の自治体で予測に基づいてパトロールしたところ、都内では予測された場所での犯人検挙につながったほか、特に危険と予測された地域を巡回することで犯罪抑止に効果があったと言います。
オルタナティブデータを整備して分析活用していくことは、これまで解決できなかった都市の社会課題解決につながります。この動きを加速させるには、課題を抱える自治体、データを保有する企業、データを解析する企業などが連携することに対する効果的なインセンティブの設計が今後重要となります。
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日経産業新聞 2022年9月21日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日経産業新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。
執筆者
KPMGコンサルティング
シニアコンサルタント 小久保 奈都弥