新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック、デジタル革命、さらには軍事侵攻が起こり、多くの国で激しいインフレによる可処分所得の減少が発生するなか、企業は今、経済の混乱期に直面しています。そして、これらのすべてが、消費者の意思決定基準、行動、ニーズを変化させる要因となっています。

KPMGでは、13年前からブランドに関する消費者の個人的な体験を調査してきました。
今回は従来の調査に加え、上述したような、環境がより複雑化し予測が困難な状況下において企業がポジティブな顧客体験をオーケストレーションするための取組みや未来への備えについて考察しています。
本レポートが、企業のカスタマーエクスペリエンス向上の一助となれば幸いです。

目次

  • Global Customer Experience
    ・連携の取れた顧客体験をオーケストレーションする
    ・2022年の「Six Pillars:6つの柱」
    ・2022年のトップブランド
  • Customer Experience in Japan
    ・日本の顧客体験
    ・日本のトップブランド
    ・セクター別の概況
    ・変革への視点

Global Customer Experience

連携の取れた顧客体験をオーケストレーションする
COVID-19のパンデミックを契機に、ビジネスエコシステムの持続的な変化、イノベーションの加速、新しいプロセスの急速な進展が起こり、また新規チャネルや顧客との新しいつながり方が迅速に導入されました。その結果、倫理的行動、利便性、パーパス(存在意義)に対するこだわりなど、顧客が企業に抱く期待も変化しています。

こうした背景を受け、先進的な企業では、顧客体験(カスタマーエクスペリエンス:CX)を1つのチームや部門のこととして考えるのではなく、 組織横断的に営業、マーケティング、サービス、製品などを担当する各チームが足並みを揃え、顧客が求める統一された体験を提供しています。つまり、特定の戦略への構造的なコミットメントに縛られず、 チャンスに対する本質的な柔軟性を持つ企業が、未来への備えができていると言えます。
そして、その備えのためには、企業はサイロ化を解消し、顧客体験(CX)戦略の妨げとなっている、孤立化し、連携の取れていない、機能別のソリューションからの脱却を目指さなければなりません。

「オーケストレーション」とは、組織がフロント、ミドル、バック オフィスにまたがるケイパビリティとプロセスの構築を管理し、顧客とコストに関する成果を出すための仕組みです。
成功のカギは、変化する顧客のニーズに合わせて、 リソースとケイパビリティを迅速かつ柔軟にオーケストレーションする能力にあります。

<オーケストレーションの4つのレベル>
(1)顧客
顧客を中心としてマーケティング、セールス、サービスの足並みを揃えることで、あらゆるチャネルにおいて、顧客の期待に沿った体験を確実に提供できるようにします。
(2)オペレーション
フロントとミドルオフィスが連携することで、従来のサービスとデジタルサービスの提供速度の改善につながります。
(3)企業全体
顧客を中心に組織全体を連携させることにより、フロント、ミドル、バックオフィスのビジネスプロセスやワークフローを結び付け、エンドツーエンドの顧客体験をサポートします。
(4)エコシステム
エコシステムとのパートナーシップは、補完的なスキルセットやより多様なデータをもたらします。

このようなオーケストレーションの実現には、顧客体験向上の指標となるデータ分析によるインサイトや柔軟性のあるテクノロジー(APIやAI、機械学習など)のほか、トレードオフによる意思決定が必要になります。

2022年の「Six Pillars:6つの柱」
顧客体験の「Six Pillars:6つの柱」には、優れた体験の構築に不可欠な特性が示されています。ビジネス上のメリットにつなげるには、これら6つの要素(親密性、パーソナライズ、利便性、期待の充足、問題解決力、誠実性)が必要不可欠です。

<優れた顧客体験の6つの要素>
(1)親密性
顧客に親身に寄り添い、共感を示すことで、感情的に親密な関係を構築すること
(2)パーソナライズ
“個人”に最適化された気配りや対応により、感情的なつながりを深めること
(3)利便性
顧客の労力(時間や手間)や認知負荷(思考を強いる)を最小化し、ストレスや不安を軽減すること
(4)期待の充足
顧客の期待値を把握し、期待値を満たし、更には期待を上回る対応をとること
(5)問題解決力
顧客のペイン(悩み)を察知し、クレームや問題の解決に向けて働きかけ、マイナスの感情をプラスに転じさせること
(6)誠実性
プライバシーやセキュリティの担保を含め、誠実にふるまうことにより、深い信頼関係を構築すること

CEEレポート2022図表7

2022年のトップブランド
日本を含む、世界各国22のブランドにおける事例を紹介しています。下記は顧客体験における先進的な取組みが評価され、各国でランキング1位になったブランドです。詳細はレポートのPDFをご覧ください。

Fielmann
オーストリアおよびドイツ
Mighty Ape
ニュージーランド
Air Bank
チェコ共和国
GCash
フィリピン
Parc Asterix
フランス
Bringo
ルーマニア
Taj Hotels, Resorts and Palaces
インド
Hilton
サウジアラビア
Bank Central Asia (BCA)
インドネシア
Martinus
スロバキア
Apple Store
イタリア・香港(SAR)・シンガポール
鼎泰豐
台湾
Credit Union Ireland
アイルランド
Prudential
タイ
東京ディズニーリゾート
日本
Emirates Airlines
UAE
Bank Islam Berhad
マレーシア
USAA
米国
Nu Bank
メキシコ
Pharmacy2U
英国
Keurlsager
オランダ
FedEx
ベトナム

Customer Experience in Japan

日本の顧客体験の特徴
日本での調査は今回で3回目となり、有効回答数100名以上を獲得した147ブランドのスコアを対象に行われました。本調査の結果から得られた、日本の顧客体験およびトップブランドの特徴は以下のようなものでした。

  • 顧客体験を構成する要素のうち、「パーソナライズ」と「誠実性」が最も重要な2つの要素である。「誠実性」は2021年の調査時より重要度が増している。
  • 日本では「親密性」を高く評価されているブランドは少なく、その改善が他のブランドとの差別化の要因となる可能性も秘めている。

【CEEスコアにおける各要素の重要度(2020-2022年)】

CEEレポート2022図表1

日本国内の調査対象ブランドのCEEスコア平均は6.79であり、2021年に比べてわずかに低下しています。加えて、CEEスコア平均が7.0以上を獲得したブランドは全体の20.4%と前回を大きく下回り、顧客体験に関して高い評価を獲得できるブランドは2021年より減っているという厳しい状況がうかがえます。

また、下図に見られるように、2022年は、Six Pillarsの6つの要素のうち「親密性」を除くすべての要素において、日本のブランドのスコアは2021年より低下したことがわかります。

【日本国内の調査対象ブランドにおけるSix Pillarsごとの平均スコア推移(2020-2022年)】

CEEレポート2022図表3

日本のトップブランド
今回の調査対象ブランドのなかで、トップ10に入るハイスコアを獲得したブランドは、 優れた顧客体験の特性である6つの要素「Six Pillars」とロイヤルティのスコアが高い傾向にあります。バリュー(手頃な価格か)のスコアは平均値より低い傾向にあり、顧客体験の評価の高さは、価格の手頃さに必ずしも比例しないことがわかります。
これまで日本企業は、商品・サービスの質や価格競争力などを重視してきましたが、消費者は自身の趣味嗜好や行動に合わせた、より緻密な「パーソナライズ」を求めており、また、企業のあり方・姿勢を明確に示す「誠実性」も、顧客の評価を得るために重要な要素と言えるでしょう。

【トップ10ブランドのCEEスコアおよびSix Pillarsごとの平均スコア一覧】

CEEレポート2022図表5

セクター別の概況
2022年に日本のトップセクターとなったのは、Six Pillars、バリュー、ロイヤルティすべてにおいてトップスコアを獲得した「娯楽・レジャー」でした。 また今回は、9セクターのうち6セクターにおいてランキングの変動がありました。

【セクター別のCEEスコアランキングおよびSix Pillarsごとの平均スコア一覧】

CEEレポート2022図表6

変革への視点
今回の調査で、昨今の日本市場において顧客体験を向上させるには、Six Pillarsのなかでも「パーソナライズ」と「誠実性」が重要なファクターであることがわかりました。その点を踏まえると、日本の企業・ブランドにとって次のような取組みが、顧客体験における変革のドライバーとなるでしょう。

  • 企業・ブランドに求められるESGへの対応
    近年、倫理に反する取引によって生産された商品を扱っているとされる企業・ブランドに対して、不買運動やネガティブキャンペーンが起こり、株価下落やブランド価値の毀損につながる事例が世界全体で見受けられます。環境や社会に配慮・貢献している企業・ブランドから、商品やサービスを購入したいという意識は世界中で高まっており、ESGへの対応が急務であると言えます。
  • パーパスの明確化と一貫したメッセージの発信
    消費者は商品やサービスの良し悪しだけではなく、企業・ブランドに対して共感できる要素を求めています。そのため、企業・ブランドのパーパス(存在意義)を明確に定義したうえで、一貫したメッセージを社会に発信し、浸透させることが重要です。

  • さらに高度な「パーソナライズ」を実現するための緻密な顧客理解/顧客体験の設計
    「パーソナライズ」が求められる一方で、不適切なアプローチを行うと、顧客は自身のプライバシーが守られていないように感じ、パーソナライズされた体験自体が不快なものになってしまいかねません。顧客理解に必要な先進技術の積極活用と、顧客感情への配慮のバランスを緻密に調整しながら顧客体験を設計することが不可欠です。
  • オーケストレーションされた組織
    世界のなかでも特に厳しい目を持つと言われる日本の消費者が、「パーソナライズ」と「誠実性」を顧客体験やブランドのロイヤルティを評価する要素として重要視するようになってきた今、オーケストレーションされた組織で顧客と真摯に向き合い適切な対応ができなければ、市場で生き残ることは難しいと言えるでしょう。

※本レポートの全文では、本調査でトップブランドとして評価されたグローバル企業の取組みもご紹介しています。下記のPDFよりご覧いただけます。

2021年度の同レポートは下記よりご覧いただけます。
グローバル カスタマーエクスペリエンス エクセレンス(CEE)リサーチ2021

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