金融庁がESG評価・データ提供機関に係る行動規範を公表

2022年12月15日、金融庁が設置した「ESG評価・データ提供機関等に係る専門分科会」は「ESG評価・データ提供機関に係る行動規範」を公表しました。

2022年12月15日、金融庁が設置した「ESG評価・データ提供機関等に係る専門分科会」は「ESG評価・データ提供機関に係る行動規範」を公表しました。

2022年12月15日、金融庁が設置した「ESG評価・データ提供機関等に係る専門分科会」(以下、専門分科会)は「ESG評価・データ提供機関に係る行動規範」(以下、行動規範)を公表しました。

1.行動規範公表の背景

近年のサステナブルファイナンスの拡大の中で、企業のESGに関する取組み状況やESG関連債の適格性に関する情報提供及びその評価を行うESG評価・データ提供機関(以下、評価機関等)の影響力が大きくなっています。一方、そのサービスの提供に関しては以下の問題点が指摘されていました。

  • 各社で基準が異なる評価の透明性や公平性の確保
  • 評価対象企業へのコンサルティングサービスなどの利益相反の懸念への対応
  • 評価の質を確保するための人材確保
  • 評価内容の確認に対する企業負担への配慮

また、国際的にも、2021年11月にIOSCO(証券監督者国際機構)が、評価機関等、投資家、対象となる企業のそれぞれに対して期待される行動をとりまとめた「ESG格付け及びデータ提供者」を公表し、2022年12月には責任投資原則に関するグローバルなカンファレンスであるPRI in Personの中でもESGデータや格付けに対する規制の在り方についての議論が行われています。

こうした中、専門分科会ではIOSCOの報告書を基に、上記問題点に対応して行動規範を公表しています。

2.行動規範の概要

(1)基本的な考え方

ESG評価・データ提供に関する市場は、近年急速に拡大してきており、今後もさらなる発展が予想されることから、行動規範は、将来的な変化に対しても柔軟性が確保されるように原則主義(プリンシプルベース)が採用されています。

また、行動規範の適用に際しても、法令等に基づき評価機関等に一律の対応を求めるわけではなく、行動規範に賛同した上で、個々の原則については適用するか、適用しない場合にはその理由を説明する「コンプライ・オア・エクスプレイン」の手法がとられています。

評価の前提となる目的、考え方、基本的方法論等を明らかにすることが、ESG評価では必要とされ、その限りにおいて、行動規範では多様な評価結果を許容しています。

(2)6つの原則

行動規範には、6つの原則が含まれており、「原則」を実施していくための「指針」と、その背景をまとめた「考え方」が、それぞれに示されています。各「原則」や「指針」の適用に当たっては、それぞれの市場関係者が、その「考え方」に基づき、状況に応じて判断・工夫していくべきものと位置付けられています。

原則1(品質の確保) 提供するESG評価・データの品質確保を図り、そのために必要な基本的手続きを定める
原則2(人材の育成) 品質確保のために必要な専門人材を確保し、専門的能力の育成を図る
原則3(独立性の確保・利益相反の管理)
  • 独立して意思決定を行い、利益相反に対処できるよう実効的な方針を定める
  • 利益相反の可能性のある業務や場面を特定・回避し、又はリスクを適切に管理・低減する
原則4(透明性の確保)
  • 評価等の目的や基本的方法論等のサービス提供の基本的考え方を公表する
  • 提供するサービスの策定方法やプロセスについて、十分な開示を行う
原則5(守秘義務) 業務に際して非公開情報を取得する場合、これを適切に保護する方針・手続きを定める
原則6(企業とのコミュニケーション)
  • 企業からの情報収集が評価機関等・企業双方にとって効率的で、必要な情報が十分に得られるように工夫し改善する
  • 情報源に重要な問題提起があった場合には適切に対処する


この中でも特に原則1の品質の確保は基礎となる事項であり、当該事項を達成するために原則2以降で品質確保のための体制整備や情報管理、企業との持続的な対話により、期待される水準での持続可能なサービス提供を行う体制が構築されると考えられます。

(3)投資家・企業への提言

行動規範では、インベストメントチェーン全体を通じた環境整備を図っていくという観点から、評価機関等だけではなく、投資家・企業への提言も行われています。

投資家への提言
  • 投資判断に用いるESG評価やデータについて、評価の目的、手法、制約を理解し、必要に応じて評価機関等や対象企業と対話を行う
  • 投資判断においてどのようにESG評価やデータを利用するかについての基本的な考え方を公表する
企業への提言 規制動向等も踏まえてESG関連情報をわかり易く開示する

3.投資家・企業に求められる行動

今回の行動規範は法令に基づく一律の規制ではなく、あくまで原則主義のもと、各社が行動規範の背景も踏まえて状況に応じて判断・工夫して適用していくものとなっています。投資家には、評価機関等が明示した評価の目的、考え方、基本的方法論等を参考にしつつ、評価の内容を理解し、自己の判断にて意思決定に利用していくことが期待されています。

また、企業が目まぐるしく変化する規制に対応し、適時に、よりわかり易い開示を行うことができれば、インベストメントチェーン全体の環境整備も進み、今後のサステナブルファイナンスのさらなる発展に寄与すると考えられます。

執筆者

あずさ監査法人
KPMGサステナブルバリューサービス・ジャパン
マネジャー 西川 正裕

お問合せ