責任投資のいまと今後の在り方を問う - PRI in Person国際会議

責任投資原則が、「責任投資の成熟期の到来」をテーマに主催した国際会議「PRI in Person & Online(2022年11月開催)」における議論のなかから、特筆すべき点を中心に解説します。

責任投資原則が主催した国際会議「PRI in Person & Online(2022年11月開催)」での議論のうち、特筆すべき点を中心に解説します。

PRI in Person & Online 2022の開催

2022年11月30日から12月2日の3日間、責任投資原則(以下、PRIという。)が主催する国際会議、PRI in Person & Onlineがスペイン、バルセロナとオンラインのハイブリッドで開催されました。PRIとは、国連責任投資原則に賛同する投資家のイニシアチブであり、企業年金や保険会社、大学基金などのアセットオーナー、運用会社、これらの機関投資家にサービスを提供するサービスプロバイダーが署名機関として参画しています。日本では、2015年の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)によるPRIへの署名を契機に、ESG投資への関心が高まったと認識されています。

PRIが通常は年次開催するPRI in Person1という国際会議は、署名機関からの参加者を中心に、責任投資の関係者が集まり、業界のホットトピックに関する意見が交換され、参加者の経験、知見が共有される場です。この会議は過去に13回開催され、次回2023年は東京で開催される予定です。今回の2022年の会議は、コロナ禍の影響で3年ぶりの現地開催でもあり、直近の3年を振返りつつ、責任投資のいまと今後の在り方を参加者に問う機会に感じられました。

今回の会議のメインテーマは、社会的課題の深刻化に加え、これまでの投資家の役割に対する議論の成果としてESG投資が多様化したことをふまえ、「責任投資の成熟期の到来」とされました。投資家によるESG投資への注目の拡大は、現在のPRI署名機関の約半数が、直近の3年でPRIに署名した機関であることからもうかがい知れます。会議では、企業のサステナビリティ課題の開示に関するグローバルベースラインとなる報告基準の整備に伴い、ESG投資の役割の拡大と同時に、ESG投資推進の環境も整備が進んでいるとの認識が共有されました。

これらの発展の一方、足元では、不安定な国際情勢、エネルギー安全保障問題、反ESGの動き、グリーンウォッシュに対する批判などの課題も表出しており、意見交換も行われました。しかし、これらの課題への対応が必要であることは共有されながらも、機関投資家、特にアセットオーナーからは、長期的な観点から責任ある投資判断をし、主体的に行動しようではないか、というメッセージが強調されました。中でも特筆すべき点として、以下の3つを紹介します。

着眼点をリスク管理から、目標達成の進捗へ

PRIのボードメンバーによるパネルディスカッションでは、「ESG課題は企業にとってのリスクであり、企業の抱えるリスクを投資家が把握する必要がある、との認識が浸透した今、投資におけるリスク管理にESG課題の観点を組み込む実務は一般的になった。今後は、リスク管理の側面にとどまらず、企業のESG課題への取組みの進捗やその解決に企業が与えるインパクトにもより注目していくべきではないか。これにより投資家自身が、実社会でのグローバルなESG課題の解決を促進する主体的なプレーヤーになりうるだろう」との認識が共有されました。

途上国へのファイナンス

過去3年で途上国からのPRI署名機関が3倍となり、全署名機関数の約15%を占めるまでに増加したとの変化をふまえた議論も行われました。署名機関の投資先のおかれた状況は多様であり、再生エネルギーのみへの即刻の転換を投資先に促すことや、ESG課題を抱える投資先から即時に投資撤退することは現実的ではなく、状況に応じてESG課題解決への道筋を策定して進める必要があるとの意見がありました。また、ESGに関連する大きな課題を抱えている途上国で資金需要が高いにも関わらず、意思決定のためのESGデータが不足しているという情報ギャップの課題にも触れられました。

社会・人権課題における投資家のエンゲージメント

今回の会議では、社会、人権課題に対する投資家のエンゲージメントの促進についても焦点が当てられ、会議の2日目には、社会課題と人権に関する協働スチュワードシップのイニシアチブ「Advance」の発足が発表されました。イニシアチブの第一フェーズでは、金属・鉱業および再生エネルギーの両セクターに含まれる企業40社がエンゲージメントの対象として選定されており、各企業へのエンゲージメントをリードする投資家も公表されています。5年間で、このアプローチを他のセクターにも広げることが予定されています。また、イニシアチブに参画する投資家は、参画から1年以内に人権方針とデューデリジェンスプロセス2の策定が求められます。

企業と共に将来の創り手に

今回の会議で、アセットオーナーであるPRIのボードメンバーから、「将来に対して受け身な姿勢でリスク対応に終始する『Future taker』ではなく、主体的に将来を創る『Future maker』になろう」、「アセットオーナーも、従業員や地域住民、といった広義のステークホルダーの属性も兼ね備える最終受益者の声に、より耳を傾けることで、長期の視点を忘れず、将来に対して主体的な姿勢をとれるのではないか」というメッセージが共有されました。PRI署名機関を中心にこうした将来目線での意見共有が行われる中で、企業側も、中長期でのESG課題の解消への道筋を描き、道筋の過程におけるリスク、進捗状況、自社のアクションがESG課題解決に与えるインパクトについての議論を深化させることで、その過程の資金需要に応え得る長期視点を持つ投資家とのパートナーシップを強固にできるのではないでしょうか。

1 従来は対面のみでの開催であり、PRI in Personという会議名だった。今回は対面とオンラインのハイブリッド開催であり、PRI in Person & Onlineという会議名だった。

2 投資家が策定すべき人権方針とデューデリジェンスプロセスの詳細は、「投資家が人権を尊重するべき理由およびその方法」が参考になるとされている。人権方針の策定とデューデリジェンスのプロセスは、機関投資家が人権尊重のために担う責任の構成要素の一つとして触れられている。

執筆者

KPMG サステナブルバリューサービス・ジャパン
KPMGあずさサステナビリティ
笠原 悠莉
 

お問合せ